第十八話「閃光」
「じゃあまず初めに、変身した時、ルカと俺はどんな状況にいたんだ?」
「ええっと、確か……」
大悟の問いに、そう言って顎に手を当ててルカが考え込む。そして途切れ途切れながら、その時の自分の状況を話し始めた。
「まず、ダイゴが倒れてて、それを私は必死で引きずろうとしてて……うっ、ひくっ」
「ちょっと、ルカ!?」
死の情景を思い出して再び咽び始めたルカを大悟が全力で慰める。
「ごめん!そこまで思い出さなくていいから!嫌な物連想させて本当ごめん!」
「ううん。私の方こそこそごめんね。大悟は生きてるって言うのに、いつまでもウジウジしてたら格好つかないよね」
「そんな、強がらなくてもいいよ」
「私の気が済まないのよ」
そうきっぱりと言い切ってから涙をふき、再度その時の情景を思い出し始める。
「それで、もう駄目だって思って……確かその時、ダイゴと手を繋いでたっけ」
「手?」
「うん。確かに繋いでた」
「手、か……」
自分がルカと手を繋いでいた。
女の子と。
想像するだけで顔が真っ赤になっていく。この半年間、大悟にとって他人と喋る機会はあれど触れ合う機会は殆ど無かったため、こういった事に対する耐性は殆ど無かったのだ。故にその行為は頭の冷却機能を易々と破壊し、まともな思考を奪うのに十分すぎる威力を発揮した。
要するにド初心だったのだ。
「それで、ダイゴと手を繋いでた時に胸の中が熱くなって、気が付いたら胸元にこう、白い球が……ダイゴ、聞いてる?」
「へっ?ああ、も、勿論だよ!」
ジト目で尋ねるルカに反射的に答えた大悟だったが、実際は殆ど頭の中に入っていなかった。それでも話の要点はしっかり押さえていたので、雑念を振り払おうと大悟が矢継ぎ早に言った。
「じゃ、じゃあさ、手を繋いでみよう!その状態でルカは変身したいって強く思うんだ!」
「でも、それでうまく行くのかしら?」
「やってみないとわからないだろ?ほら、早く!」
急かすように促す大悟の言葉を受け、ルカも渋々立ち上がる。そして半信半疑と言った体で右手を差し出す。
「こんなことで本当になれるのかな?」
「やってみないとわからないだろ?」
そう自信満々に言いながらも、おっかなびっくりと言った風に大悟がその手を握る。
掌から暖かく柔らかい感触が広がっていく。全身の血流が煮え立ち、体温が急激に上昇していく。
「ね、ねえ、ダイゴ。大丈夫?」
顔まで真っ赤にした大悟に、心配そうにルカが尋ねる。幸運にもそれが大悟の理性を回復させ、ガチガチに固まりながらもなんとか大悟が返す。
「う、うん。俺は平気だよ」
「本当?無理しなくてもいいんだよ?」
「本当に大丈夫だから。それよりルカ、始めて」
「うん」
心配そうに頷き、大悟の手を握り返しながらルカが目を閉じる。手から伝わる感触を前に大悟は気絶しそうになったが、なんとか崖っぷちで耐える。
大悟がそんな未知の体験と格闘している間、触れ合う事自体に抵抗のなかったルカは、その代わりに必死になって一つの思いを胸の内に描き続けていた。
変身したい。もう一人の自分に変わってみたい。
そこには純粋にあの時の真相を知りたいと思う気持ちの他に、今の自分から変わりたい、魔法が使える本当の存在になりたいという願いも込められていた。
そうして一身に、ひたすらにそう思い続ける彼女の胸の中で、やがてあの時感じたものと同じ物が芽生え始めた。
熱。最初は体をじんわり暖めるような物だったその熱は身体の奥底で急速に勢いを増し、ついには炎となって全身を熱く燃え上がらせる。
その灼熱の太陽が発するような熱量に耐えきれなくなって目を見開いた時、そこにある物を目にしてルカが叫んだ。
「来た!」
「え!?」
突然響いた大声に驚いて大悟がルカの方を見やると、塔のルカは自分の胸元に視線を注いでいた。
「見て、これ!」
そこから目を離すことなくルカが続ける。そのルカの視線の先にある物を見て、大悟は驚きを隠せなかった。
「それって……!」
目が潰れん程の輝きを放つ白い球体がそこにあった。そしてその存在を二人が知覚した瞬間、球体が更に光を放ち始めた。
「うわ!」
「ま、まぶし!」
それはまさに白い闇。強烈な光が視界の全てを塗り潰す凶悪な物だった。その光の中でルカが叫ぶ。
「来るよ!備えて!」
大悟の手を握る力を強める。離さないよう、大悟も恥を捨てて強く握り返す。
「来るか、変身!」
眼前に待ち構える者に呼びかけるように大悟が叫んだ刹那、その輝きがリビングの全てを呑み込んだ。