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第十一話「始まり」

 そしてあらかた買い物を終え、二人は喫茶店で休憩がてらコーヒーを頼んでいた。そこは屋外にもテーブル席が置かれ、店内には観葉植物が置かれた開放感のある店だった。


「これも見ない飲み物なんだよねえ」


 店内の窓の前のテーブル席に座り、カップに注がれた真っ黒な液体をまじまじと眺めながらルカが呟く。


「これ、どんな味なの?」

「ううん、そのまま飲んだら苦いかな」

「へえ、苦いんだ」


 そう言って取っ手を掴み、恐る恐る口元に近づけていく。そして何度か啜るように飲んだ後、カップを置いて顔をしかめる。


「苦い」

「だから言ったじゃん」

「いや、私が予想してたのよりずっと苦いってこと。なにこれ、苦すぎない?」

「このまま飲むのが普通って言う人もいるよ?」

「うそ、それ本当?」

「うん。まあ苦いって人もいるから、そのためにクリームとか砂糖とかがあるんだけどね」


 そう言って大悟がテーブルの上に置かれたバスケットの中から、スティック状の砂糖とクリームの入った小瓶をルカの前に差し出す。


「これ入れたらマトモになるのかな?」

「まあ程度によるね」


 とりあえず砂糖一本とスプーン一杯のクリームを混ぜ、再びコーヒーを飲む。間髪入れずに顔をしかめる。


「苦い」

「いや、ほら、まだあるから」

「う、うん」


 そう言ってルカがスティック砂糖とクリームの瓶を受け取り、二回目の調合に取り掛かる。その後ルカは砂糖とクリームを混ぜて少し飲んでは顔を歪めるという作業に没頭した。


「それよりさ、大丈夫なの?」


 五回目の調合作業に取り組みながら、不意にルカが大悟に言った。


「大丈夫って、何が?」

「いや、空のアレ」

「ああ」


 ルカに指摘され、大悟が窓から上空に浮かぶそれを見つめる。街を睥睨する真っ黒な球体を見ながら、大悟が努めて平静を保つように言った。


「あれは大丈夫だよ。今は襲ってくることは当分ないと思う」

「え、どうして?」

「ほら、前に話したじゃん。俺の親のこと」

「……そう言う事ね」


 大悟からは親が連れ去られたという事しか聞いていなかったが、ルカにはそれだけで何を言わんとしているのかがわかった。


「俺の親がいなくなってから、攻撃がばったり止んでさ。ああして空の上に浮かんでいるだけで、今は何もしてこないようになったんだ」


 ようは交換条件という奴だったのだろう。


「酷い話」

「でもこうして平和が戻ってる。これで良かったんだよ」


 そう言う大悟の顔は見ていられないほどに痛ましかった。


「これで……」

「……」


 大悟の顔が見ていられなくなって、作業を止めてルカもその黒い物体を見上げる。他の色が混じらない、完全な黒だった。


「私もあんなものは見たことないなあ」


 半ば無意識の内にルカが呟く。魔法が恒常的に使われているレビーノでも、あんな不気味な物はついぞ――


「あれ?」


 おかしい。


「あれ、本当に見るの初めてかな?」


 ルカは自分がデジャヴを感じていることに違和感を覚えた。


「いや、絶対にここで初めて見るような奴なんだけどなあ……なんだろ、この感じ」


 あんなものは見たことない。

 でも、どこかで。


「ルカ、どうかしたの?」


 気にかけるような大悟の言葉を尻目に、ルカが必死で記憶の糸を手繰らせる。心の中の気持ち悪い感覚を無くそうと、必死でデジャヴの正体を暴こうとした。


「ええと、あれは、確か、そう」

「ル、ルカ?」


 黒い球体。

 黒い。

 吸い込まれそうな程黒い。

 吸い込まれそうな。

 球体。


「――あれだ!」


 スッキリした顔でルカがそう叫ぶのと、喫茶店の窓ガラスが外側から粉砕されたのは、ほぼ同時だった。


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