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サマータイムパニック

サマータイムラプソディ

掲載日:2026/09/16

オマケのお話ですー

例の夏休みの一件から数日後。

夏の日差し明るい調停委員会のオフィス。

少し明るすぎるきらいはあるが、空調が効いていて快適な室内だ。


私は机に張り付き、例の事件の後始末のための書類作業に追われていた。


そこへ、

「調停者、調停者」

後方から聞き覚えのある可愛い声が聞こえてきた。

振り向くとそこには⋯。


メイド服をまとった東雲亜梨沙(しののめありさ)の姿が。

普段伸ばしている前髪を後ろでアップにし、手には箒(ほうき)を携える。

小柄な亜梨沙のメイド服姿は、素直に相当可愛い。


思わず、可愛いと声に出しそうになるのを必死に留めた。

なぜかその一言を言ってしまうと、調停者としての大事なものを失ってしまう気がする。


「調停者、亜梨沙はメイドになりました!」

嬉しそうにその場でくるっとターン。

一通り衣装を見せてくれる。

メイド姿がかなりお気に入りらしい。


実は先日、亜梨沙にメイドカフェのバイトを紹介した。

この様子を見ると、上手くやっている様だ。


「なるほど。メイド亜梨沙はどんな事ができるの?」

「お掃除や洗濯やお料理が出来ます。お料理はまだまだですが⋯」

と、そこで思いついたのか、

「あ、あと、ゲームの相手も出来ます⋯これはオススメです」

と、力を込めて言った。

「じゃぁ、私が書類を片付けてる間に掃除をお願い。終わったらゲームをしょう」

「はい、ご主人様!」

亜梨沙は張り切って掃除に取り掛かった。


一方、私は件の書類に再び取り掛かる。

私が書類を片付けている間、亜梨沙は苦戦しつつも何とか掃除を進めていた。


二時間ほど経っただろうか。

書類も何とか一段落付いたので、亜梨沙の様子を見ると、ちょうど最後の窓拭きを終えた所だった。

私は机から立ち上がり、声をかける。

「亜梨沙、こっちは片付いたよ」

「はいっ! ではゲームしましょう!」

亜梨沙は顔を上げ、ぱっと明るく微笑んだ。


休憩室のゲーム機を立ち上げ、最初に始めたのは対戦ゲームだった。

だが、普段から腕を磨いている亜梨沙と、片手間に遊んでいる私ではその差は歴然。

全く歯が立たなかった。


「10年、修行が足りませんね」

勝ち誇って言う亜梨沙。

どうやらメイド亜梨沙には接待プレイと言う概念は無いようだった。


それでは、と次に始めたのはRPGゲームだった。

このゲームはRPGながらパズルやクイズ要素が組み込まれており、そこで亜梨沙は苦戦しているようだ。

「調停者、この問題はどういう意味でしょうか?」

「ああ、これはつまり英文字を一つづつずらして読むんだ」

「なるほど! つまり⋯」

娯楽室のソファーに並んで画面を覗き込み、ああだこうだと掛け合いながらプレイする。

クイズを考えるのを私、アクションと操作を亜梨沙という役割分担は上手く機能し、効率よくゲームを解いてゆく。


数時間の後、めでたくエンディングに到達することができた。

画面に流れるスタッフロールを眺めながら楽しかったプレイを回想する。


が、ここで私はかなり時刻が遅くなっている事に気が付いた。

残念だが、もう亜梨沙を帰さないとならない。


「亜梨沙、もう帰らないと」

「もう、こんな時間⋯楽しい時はすぐに終わってしまいます⋯」

しゅん、とうなだれる亜梨沙。

「帰らないといけませんか⋯?」

まだここに居たい、と瞳が訴えている。


しかし、ここできちんと言い含めるのも調停者の仕事だろう。

「帰らないと風子やカスミが心配するよ」

「そうですよね⋯わかりました」

「また、いつでも掃除に来て。歓迎するよ」

「はい、分かりました。また来ますね」

うなづくとメイド服のまま部屋を出て帰ろうとする。


いや、待て。夜にメイド服の女の子の一人歩きは危険すぎる。


「亜梨沙、その格好で学校から来たの?」

「もちろんです。これがメイド亜梨沙の基本装備ですから」

自慢気に胸をはる。

うーん、それはどうなのだろう⋯。


「亜梨沙はメイドに成ったばかりだよね? 慣れない状態で歩き回るのは危険じゃないかな」

言い含めるように話す。

「確かに! 道を間違えたら服を汚してしまいます」

亜梨沙は頷いた。


実の所、この学園で本気を出した亜梨沙をどうこうできる人間は数えるほどしかいない。

しかし、何事にも素直な亜梨沙のこと、言葉巧みに騙されれば、よろしくない事態にも⋯。

はっ、と頭をよぎった”よろしくない事態”の想像を振り払う。


「ぶ、武器は無いのかな? メイドでも身を守る武器は必要だよね」

「武器は⋯これです!」

じゃーん、という感じで手に持った箒を示す。

「箒? さすがに箒だと弱くないかな??」

もし、鉄心でも入っていれば、亜梨沙が振り回す事で相当な威力があるが⋯。

「マイクロパルスレーザーガン、らしいです」

「えーー??」

予想の遥か上を行く答え。


言われて見ると、確かに箒の先端には集光レンズらしきものが見える。

「カスミが用心のため持たせてくれました! 射程20m、4メートル四方のコンクリートを粉々に出来るとか」

カスミ、それは過保護を通り越して過剰保護なのでは⋯。


「でも電源が見当たらないけど⋯」

細身の箒にはとてもパルスレーザーを運用するだけの電源が内蔵されている様には見えない。

「こうして⋯」

亜梨沙は頭上で箒をヘリコプターの様にくるくる回し始める。

箒はどんどん回転速度が上がってゆき、唸りを上げ始める。


ブンブンブン⋯バシッ!


回していた箒を止め、砲撃のポーズ。

「3秒間回すと20秒発射できるそうです」

どうも遠心回転式の発電機が内蔵されているらしい。

確かに、箒のそこかしこから蛍光があふれ、エネルギーがチャージされている気配を感じる。

これ、亜梨沙に使わせたら、装弾数無限の殲滅兵器なのでは⋯。


「変な事されそうになったら、これで撃退しなさいとカスミが⋯」

イマイチ意味が分かってない様子の亜梨沙。

過剰保護ではなく殲滅保護らしかった。


「こ、これは人に向けて撃っては駄目だよ⋯」

「駄目ですか? でも、そうすると武器が有りません」

「これで叩く位にしよう。それで充分だから」

「はい、調停者」

素直に頷く亜梨沙。

と、小首をかしげ、続ける。

「あの、調停者⋯変な事って何ですか?」


「ん、どういう事?」

「カスミが言いました『変な事されそうになったら遠慮なくこれでやっつけなさい』って」

「う、うん」

「でも亜梨沙はその『変な事』が判りません。知らないと間違って関係ない人を攻撃してしまうかも⋯」


そんな事になれば大惨事だ。

だが純真な亜梨沙に大人の醜い欲望を説明する訳にも⋯。

「カスミに聞いてみると良いんじゃないかな⋯?」

「聞いたのですが、カスミは、『わからない事は調停者に聞きなさい』と」

むぅ、カスミ、肝心なところで逃げたな⋯。


「そ、そうなんだ⋯」

「調停者、変な事、を教えて下さい」

亜梨沙の真剣な眼差し。

もちろん、これはそういう意味で言ってるのでは無い。

それは分かっている。

分かっているが、では一体どう言えば⋯。


「せ、背中をコチョコチョくすぐったり、とか?」

⋯すまん、亜梨沙。

私には今はこれが精一杯だ。


だが、意外な事に亜梨沙には説得力があった様だ。

「そ、それは困ります。 亜梨沙、背中をコチョコチョされるとくすぐったくて、痺れたみたいに動けなくなるので⋯」

「そ、そうだろう? 悪い奴はそうやって動けない亜梨沙を見て楽しむのだ!」

「それは気をつけないと! 調停者、ちょっと試しにやってみてくれませんか?」

大きく頷きながら亜梨沙は言った。


「え?」

「調停者は良い人なので。亜梨沙、動けなくなっても平気なので」

「いや⋯しかし」

「まさか、調停者も悪い人、なんですか?」


ひたりと私を見る亜梨沙の瞳。

そんな事は無い! 

と、完全に断言出来ない自分が憎い⋯悪い所が無いとは言えないが⋯。


「それじゃちょっとだけ⋯」

なんか色々なものに負けた気がするのは考えすぎだろうか⋯。


横に座った亜梨沙のメイド服の背に手を伸ばす。

さらりとした布の手触りを指先に感じた。

小さな亜梨沙の背中は、力を入れたら壊れてしまいそうだ。

大切な物を扱うように、微かに触れるか、触れないかのところで指先を動かしてみる。


「んっ」

ピクン、と反応する亜梨沙。

「どう?」

「だ、大丈夫です。まだ⋯」

更に少し指先を動かす。

衣装越しに亜梨沙の華奢な背中を感じた。

「あっ、んっ⋯調停者⋯まだ、大丈夫⋯」

亜梨沙は時折背中を震わせ、頬を染めながら肩を寄せてくる。

目の前には白く儚げな亜梨沙の首筋。

ほつれた髪が頬をくすぐった。

さすがにこれ以上はマズい⋯理性がブレーキをかけ、体を起こそうとする。

が⋯。


「ん⋯もっと、こんな⋯感じ」

亜梨沙も抱きつく様に私の背中に手を回し、背中を撫ぜてくる。

それは、くすぐると言うより愛撫に近い動きだ。


「こ、こう?」

「はい⋯もっと⋯して下さい」

それだけで、一瞬で抵抗する意識が砕けてしまう。

「亜梨沙⋯」

「うん⋯」

微かに頷く。

なにが肯定されたのか、お互いに分からないけど、確かにそれはYESのサインで⋯。



「亜梨沙ーー? もう遅いから⋯かえ⋯か⋯え?」

「え?」

「?」

勢いよく扉を開け、休憩室に入ってきたのはカスミだった。

恐らく、帰宅が遅い亜梨沙を心配して迎えに来たのだ。


で。

目前にはソファーに絡み合う様にもたれる私と亜梨沙。

お互いに息遣いは乱れ、頬は紅潮している⋯。


「ちょっ、何して⋯調停者⋯?」

ワナワナと震えながら言葉を探すカスミ。

「いや、これは⋯練習⋯と言うか⋯」

「れ、練習?? 一体何の??」


かろうじて説明を続ける。

「その、亜梨沙は背中が弱いから⋯その」

何とか説明をしようとするが、突然のことに思考がまとまらない。


すると、身体を預けていた亜梨沙がふわり、と座り直す。

まだ、やや呆然としている表情だ。

ふらふらと身体を揺らしながら、とろんと潤んだ瞳で私の顔を見つめ⋯。

「調停者と変な事⋯してました」

と言った。


い、いや、その言い方は火に油というか⋯ニトログリセリンなのでわっ!


恐る恐る、その火、もといカスミを見る。

カスミは顔を真っ赤にし、目尻には涙を浮かべながらワナワナ震えていた。


「やっぱり、手を出したー?!」

「いや、色々違っ」

「亜梨沙、パルスレーザーどこ? こういう奴を始末するためにあるの、あれっ」

「? 箒はオフィスに置いてあります」

事態を理解してない亜梨沙は素直に答える。


「分かった!」

オフィスに向かおうとするカスミ。


と、先ほど亜梨沙がパルスレーザー箒にエネルギーをフルチャージをした事を思い出す。

今、あれを使えば私どころかこのオフィスごと⋯。


「ま、待てカスミ。あれはマズイ! 本気で!」

「私は初めから本気ですが、何か?」

殺意のこもった視線が返ってくる。

これは無理だ。とても私だけでは止められない。


「亜梨沙、カスミを止めて!」

言葉通り、慌ててカスミの体を抱き止める亜梨沙。

「止めないで、亜梨沙! これじゃあいつ殺せない〜」

どこかで聞いた様な台詞を吐きながら暴れるカスミ。


嘆息しながら、一体どうやってカスミを説得すれば良いんだろう、と考える私だった。

作者のやる気は イイね や 感想 で出来てます(笑)

ここまで読んだらもうひと手間、評価をポチっと!

宜しくお願いします。


ぜひぜひ御意見、お聞かせ下さいませ。

気に入った部分だけでは無く、ここが“読みにくかった”“分かりにくかった”も、とても参考に成ります。

感想書いて下さる人には本当に感謝です。


また、連載形式で数日ごとアップしますので、読み逃し無いようお気に入り登録も宜しくです。


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ファンタジーからSFまで色々揃えてます。


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