#7 振り返れば、ニャツがいた
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【前話のあらすじ:ついに、ケルベロスを倒した「僕」。次なる敵は....】
(……「グルゥゥゥ……」)
静寂に包まれたはずの氷河の闘技場に、地響きのような、あるいは大型のミキサーが岩を砕いているような、不吉極まりない重低音が響き渡る。
少なくとも、僕のお腹の音でないことは確かだった。
さっきケルベロスの魔石(ミント味)をカリカリと完食したばかりだからね。
ゆえに、わいの胃袋は「猫生、捗ってます!」と言わんばかりの満足感に浸っているのにゃ。
だというのに、背筋を駆け抜けるこのゾクゾクとするような悪寒は何でしょうかっ...!?
さっきから進化した「フロストフレアキャット」の鋭敏な感覚が、僕の脳内に最大級の警報を鳴らし続けている。
「……逃げろよ、逃げろよ、絶対に逃げろよ!」
僕の中の理性がそう囁いている。 フリじゃないよ? ガチのやつだよ?
でも、皆さん。皆さんなら分かってくれますよね?
お約束なんですよ。
こういう時、振り返らないキャラクターは、だいたい次のコマで背後から真っ二つにされるか、物語の退場ゲートへ直行することになる。
だから、僕はゆっくりと、本当に、錆びついた歯車を回すような慎重さで、首を後ろへと巡らせた。
「……あへ?」
暗闇の中から、合計で十八個の黄金色の瞳が、僕という小さな一点を凝視していた。
一、二、三、四……。
数えるのを途中で放棄したくなるほどの、圧倒的なボリューム感。
そこには、三体の巨大な三頭犬が、行儀よく整列して座っていたんですぅ!!
あのぉ、今から逃げても間に合うでしょうか....?? あ....やっぱりダメですよねぇ.....
僕の後ろの壁はビクともしなかった。
「……いやいやいや! 待て待て待て! おかしいでしょ! 神様、配置ミスだよねこれ!?」
三頭犬ケルベロス。
さっき、一体倒したばかりの、あの「地獄の番犬(属性のデパート)」が、なぜか三体。
合計で頭が九つ。足が十二本。尻尾が三本。
視覚的な情報量が多すぎて、僕の”ちい脳”が処理落ちを起こしそうだ。
「一匹ならケルベロス! でも三匹いたら、それはもう『ケルベロズ』だからぁぁぁ!!」
僕は魂の底からツッコミを入れた。
英語の複数形の「s」が、これほどまでに憎らしいと思ったことはない。
中学の英語教師は僕に教えてくれなかった。
「複数形になると、殺傷能力が三倍になります」って。
「ちなみに、三頭政治とは、三犬政治とも呼ばれます。これ、次の期末テストに出るからなー」って事前に言ってくれれば、皆、その重みを理解して死ぬ気で勉強したと思う!!
ここで逝く先人からの皆への、血を吐くような忠告さ....。
「グルォォォォォン!!」 九つの口が同時に咆哮を上げた。
それはもう「鳴き声」なんていう生易しいもんじゃない。
いうなれば、物理的な衝撃波。
壁が震え、天井から岩石が降り注ぐ。
僕は「敏捷150」の身体能力をフル稼働させ、バックステップでその場を離脱した。
一歩。ただの一歩で、僕は30メートル後方へと着地する。
「お、おぅ……。三半規管が仕事しすぎて、意識が身体に置いていかれてるぅぅ!!」
(……やばい。これ、さっきの『一対一』とは次元が違う……!)
三体のケルベロズは、完璧な軍隊のような連携で僕を包囲し始めていた。
本来なら「火炎」「凍気」「毒霧」の波状攻撃。
万象統御を持つ今の僕にとっては、どれも「美味しい栄養素」でしかない。 ……が、問題はその「質量」だ。
九つの頭が吐き出すブレスの量を吸収しちゃったら、僕の細胞が活性化しすぎちゃって、逆におかしくなっちゃいますからぁぁぁ!!
それに、活性化しすぎて、僕の身体から石油とか湧き出してきたらどうするの!? 環境問題になっちゃうよ!?
いいの!?第二次オイルニャックなんて起こっていいわけないよね?どっちなんだい??
無・理・ぽ!!ですよねぇ...
とまあ、ここまでは、前座。なんならお手。お手する追手ってとこよ。あ、中座しないでね。
極めつけに、この講座では、九つの視線が完全に僕をロックオンしてるし、ここは狭すぎて、どこに動いても、”ニャツら”がいる……! つまり、『ちびすぎて見えない』ボーナスタイムは終わったってわけだ!?
「グルァッ!!」 三体が一斉に飛びかかってくる。
左右から挟み込み、中央が上から押し潰す。
属性が効かないなら物理で分からせてやる、と言わんばかりの脳筋連携。
普通ならここで「詰み」だ。
だが、今の僕は『ニャツ』なんだ……! ただの猫じゃないんだよぉ!!
つまり、“ニャツ”のスキルが使えるのだぁぁ!!
僕は先程手に入れたばかりの、自身の内側に眠る「闇の力」を意識した。
【技能:影移動】
「……いっけぇぇぇ!!」
ケルベロズたちの巨大な前足が、僕を「おやつの煮干し」にするべく振り下ろされた瞬間。
僕の体は、足元に伸びた自分自身の「影」の中へと、水面に飛び込むように沈み込んだ。
――視界が反転する。 そこは、音も光もない、冷たく澄んだ黒の世界。 現実世界の「影」という概念が、高速道路のように繋がっている裏側の次元。
「おぉ……。何これ、最高に落ち着く。ぼっちの僕にとっては、これ以上ないプライベート空間。まさに『影の精神と時の部屋』じゃないか……」
そんなことを思いつつ、僕はその中を、文字通り光の速さで滑走した。
(おっと、勘違いしちゃいけない。相手の影を勝手に動かすなんて神様みたいな権限、僕にはないんだ。でも……自分の影が繋がっている場所なら、どこへだって顔を出せる!)
ケルベロズたちが「消えた猫」を探して九つの首をキョロキョロさせている間に、僕は彼らの巨体が作り出す広大な影のエリアへと潜り込んだ。
彼らの足元は、まさに僕にとっての「聖域」だ。
「ミャウッ!(残念! お腹の下でしたぁ!!)」 影から勢いよく飛び出した僕は、中央の個体の腹部の真下で実体化した。
ここは彼らにとって最大の死角だ。
二本の尻尾を、ヘリコプターのプロペラのように高速回転させる。
新形態での全力攻撃。 。双尾裂空。
「ヘイ、お待ち!! プロペラ猫の特製エアカッター、お届けに参りにゃした!!」
朱と青のグラデーションを纏った真空の刃が、ケルベロスの柔らかい腹部を切り裂いた。
「ギャオォォォン!?」 不意打ちを食らった中央の個体が悶絶する。
すかさず残りの二体が、仲間の腹の下にいる僕を噛み砕こうと、首を長く伸ばして突っ込んでくる。
「おっと、そこも読めてるよ! コンビニのレジ待ちで割り込まれるのを察知するスキル(陰キャ限定)の応用だぁぁ!!」
僕は再び影に沈んだ。
今度は、右の個体の影に飛び込む。
「グルァ!」「ガハッ!」
二体のケルベロスの首が、僕がいたはずの空間で激突する。
自慢の牙が自分たちの鼻先に当たり、火花が散る。
(……よし、こいつら、首が多いせいで連携が雑になってる。なら、もっと混乱させてやる!)
僕は「影移動」を連続発動し、闘技場全体に自分の残像を振りまくように動き回った。
物理的な接触さえ影で回避すれば、残るは彼らの得意な「属性攻撃」だけ。
それが僕を回復させる「餌」でしかないとも知らずに、彼らは必死にブレスを吐き散らす。
(ま、あまり、吸い込みすぎないようにね.....! MP満タン超えて、漏れちゃうから!そしたら、猫砂が足りなくなっちゃうんだぁぁぁ!!)
「ほらほら、こっちですよぉ! あ、やっぱり、こっちでしたぁ! あ、目が回ってるようですねぇ!九つの頭があっても、脳みそは一個分もなさそうですね(笑)」
実況風に煽りながら、僕は計算していた。
三体のケルベロズは、神出鬼没な僕を捉えようとして、九つの頭をめちゃくちゃに振り回し始めた。
そして、彼らの首は、複雑な知恵の輪のように絡まり合い、身動きが取れなくなっていくぅ。
「あーあ……。完全にスパゲッティ状態。君たち、今から、九心同体のケルゲッティ―sね。だいたい、誰がどの首か分かってないでしょ、君たち」
(……今だ!)
僕はあえて、三体が密集している中心地点の「影」で足を止めた。
三体のケルベロズ、合計九つの頭が、一斉に僕をロックオンする。
逆上した彼らは、自慢の属性ブレスを最大出力でチャージし始めた。
左右から、相反する属性の極大攻撃が放たれた。灼熱と極寒。
「影移動!!」
僕は自分自身の影の中に垂直落下し、完全に戦場から消失した。
ドォォォォォォォォン!!
僕を狙ったはずの「超火炎」と「超凍気」が、狭い壁の空間の中で正面衝突した。
急激な温度変化による熱膨張と収縮。
物理学の法則が、ケルベロズたちを襲う。
激しい水蒸気爆発が巻き起こり、首が絡まったままの三体の巨体が爆風によって中央へと押し流された。
「……よし、トドメだ。僕の『影炎氷(勝手に命名済み)』の螺旋、地獄まで連れてってあげるよ!チップはいらないから、冥土の土産にしてね!!」
僕は影の中から、爆心地の真上にある天井の影へと転移した。
重力に任せてダイブする。
二本の尻尾を交差し、そこへ「火」と「氷」の魔力を最大出力で充填する。
「いざ、にゃんぱく宣言……!!」
青と朱の螺旋が、団子状態になったケルベロズたちの脳頂部で炸裂した。
氷の破片がダイヤモンドダストとなって舞い、オレンジの炎がそれを美しく照らし出す。
ドォォォォォォォォン……。
長い静寂が、闘技場を支配していた。
後に残されたのは、粉々に砕け散った氷の欠片と、キラキラと輝く三つの魔石。
「……はぁ。……はぁ。……疲れた……。猫、辞めたい……」
僕はその場に力なくへたり込んだ。
魔石の山をぼんやりと見つめながら、僕は前足で顔を洗った。
『レベルが上がりました:Lv3 → Lv7』
『技能:「影移動」の熟練度が上昇し、潜航時間が延長されました』
(……レベル7か。一気に上がったなぁ。やっぱり複数形は美味しい……)
その時、闘技場の奥。
今まで僕を阻んでいた、あの「見たこともない質感の壁」が、重々しい音を立ててスライドし始めた。
ギギギギギ……。
壁の向こう側から漏れ出してきたのは、今までのような「冷気」や「魔物の臭い」ではなかった。
それは、どこか懐かしく、文明の香りがする――無機質な「機械の匂い」。
「……え? 何これ。近未来?サイバーパンク・ダンジョン?」
壁が完全に開き、その先に広がっていた光景に、僕は思わず目を見開いた。
そこは、石造りのダンジョンとは完全に切り離された、真っ白なパネルで構成された「通路」だった。
そして、その通路の中央。
一人の「人物」が、背を向けて立っていた。
黒いロングコート。腰に差した一振りの刀。
そして、その手には――昨日、神様が配っていた最新型の「魔導デバイス(配信カメラ)」が握られていた。
「……おん? 人間? こんなところに?」 その人物が、ゆっくりとこちらを振り返る。
冷徹な瞳。整いすぎた顔立ち。
「…………っ!!」 僕の全身の毛が、一瞬で逆立った。
なんだこのプレッシャーは。
今まで戦ってきた魔物たちが、急に「可愛らしいぬいぐるみ」に思えるほどの、圧倒的な強者の気配。 こいつ、絶対この物語の重要キャラだ。それも、中途半端な脇役じゃない。
少なくとも、僕は、陰キャから陽キャに変わる必要がありそうだ....
彼は、僕という存在を……いや、僕の「美しすぎる姿」を認めた瞬間、わずかに口角を上げたように見えた。
「……やっと見つけたぞ。人類の敵か、あるいは救世主か。……お前が、あの『猫』だな?」
(……ゲェッ!! 顔面偏差値高すぎて直視できない、ガチのイケメンが来たんですけどぉぉ!!しかもなんか声も低くて良い声ぇぇ!!あとなんか目が鋭くていやぁ怖ぇぇ!!)
僕は反射的に、最も美しく、かつ威圧感のある「キメポーズ」を繰り出した。
尻尾をハート形に、瞳のオッドアイを見せつける。
だが、心臓の鼓動(猫だけど)が止まらない。これ、恋じゃないからね。生存本能の警報だからね。
振り返れば、奴がいた。
そして、前を向けば、さらにヤバい奴(誰?)がいた。
(……神様。楽しい世界って言ったよね? これ、完全に『ハードモード・オンライン』なんですけどぉぉぉ!!)
僕の冒険は、ここから「対人戦(あるいは対ファン)」という、未知の領域へと足を踏み入れようとしていた。
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にゃーのスピnド・OFF:「えー、本日の教訓。英語の複数形は大事だけど、魔物の複数形は命に関わります。あと、頭が九つあると、どこを見てキメポーズすればいいか迷うから、営業妨害だと思います。あ、僕も尻尾二本だから、複数形なのかな……? ロード・オブ・ザ・キャッツ……? ……ニェァァァ!!」
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、ついに、対話かな!?
~高評価やブックマーク、感想等いただけるとありがたいです!~
E.Nyaward:「「倒しても倒しても増えるケルベロス……。もし英語の授業で『犬の複数形は?』と聞かれたら、僕は迷わず『絶望です』と答えましょ。
さて、ついに出会った人間が持っているカメラ(魔導デバイス)に向かって、僕はどんなポーズをキメるべきなのか……。 読者の皆様の評価や『肉球ブクマ』が、僕の次のポーズのインスピレーションになります! .....次話も、よろしくお願い致しにゃす!」
――――――――【他作品も全力執筆中!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
・『自分』と『推し』のために暗躍する無能(偽)な護衛
【無双×悪役令嬢×暗躍×チート×恋愛】 → 悪役令嬢の護衛でありながら、別の「推し令嬢」を救うために裏で無双する暗躍劇です!
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・ロード・オブ・ザ・キャット~「人生」取り戻すために、「猫生」極めすぎたら、世界を救ってたって、それ営業妨害ですか.....?~
【無双×成り上がり×成長×魔法×猫×勘違い×コメディ】→「人生」を得るために最強のユニーク個体の「猫生」を送る、勘違い人外無双譚です!
⇧※本作です。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!




