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1話 砂の流れに身をまかせ

投稿は1回/週を目標に投稿する予定です。

非常に拙い文章かもしれませんが、話を気に入っていただければ幸いです。

物語の中で何かしらの豊かさや気づきを得て頂ければ幸いです。

夜の空気は昼間の熱をまだ僅かに引きずっていた。

乾いた風が砂の匂いを含んで頬を撫でる。

村の外れにある低い岩陰でライカは膝を抱えたまま空を睨んでいた。

星のない夜。

月も淡く、頼りない。


「……はあ。やってらんない」

吐き捨てるような声。


それを聞いて少し離れた場所で符紙を点検していたフウカが顔を上げる。

「……また?」

疑問形。

いつもの調子。


「また、じゃないでしょ。ずっと、よ」

ライカは肩をすくめ、砂を掴んで放った。

さらさらと崩れる粒子が風に散る。


「外に出ちゃいけない。成人までは我慢しろ。決まりだから。……何それ。誰が決めたのよ」

「……昔の人?」

フウカは首を傾げる。

(たぶん。でも、確か大きな事故だか事件が原因という噂を聞いた。)


「“昔”って便利な言葉だよね」

ライカは鼻で笑う。


「理由がわからなくても、従えって意味でしょ」

フウカは返事をしなかった。

代わりに、符紙に描かれた文字の線を指でなぞる。


(……外を知らないまま、大人になるのは、正しい?)

(正しいって何?)

(疑問に思うのが間違い?)

すべて疑問形。

でも口には出さない。


「フウカはいいの?」

ライカが不意に振り向いた。

「このままずっと、ここにいて」


「……いい、とは?」


「外、見たくならない?」


沈黙。

風が吹き符紙の端が微かに揺れた。

「……わからない」

フウカは正直に言った。


「でも……知らないまま決められるのは少し……変?」

「でしょ?」

ライカの目がわずかに明るくなる。


「それよ、それ。それ!」

立ち上がり、拳を握る。


「私、外に行く」

断定…迷いなし。


フウカの心臓が小さく跳ねた。


「……今?」


「今」


「……止められたら?」


「止められる前に行く」


(……やっぱり、巻き込まれる?)

フウカは内心で小さく息を吐いた。

でも。


(……置いていかれるほうが、怖い?)

自分でも意外だった。

その感覚にフウカは戸惑う。


「……準備、いる?」

気づけばそんな言葉が口をついて出ていた。

ライカがニッと笑う。


「さすが。話が早い」


夜更け。

村が静まり返る時間。

二人は影を縫うように移動した。

足音を殺し灯りを避け、呼吸さえも慎重に。

フウカは符紙を懐にしまいながら何度も周囲を確認する。


(……追われたらどうする……それでも、行く?)

答えはもう出ていた。


村の境界。

目印の岩を越えた瞬間空気が変わる。


「……出たね」

ライカが小声で言う。


「……うん」

外の世界は、思っていたより静かだった。

ただ広い。

そして、どこまでも砂。


「行こ」

ライカが前を向く。


フウカは一瞬だけ振り返った。

暗闇に沈む村。


(……戻れない、かも?……それでも)

足を踏み出す。


そのとき。


足元の砂がわずかに――揺れた。

「……え?」

フウカが声を上げるより早く、

ズズッと低い音。


「ちょ、待っ……!」

砂が、沈む。


(……これ、知ってる)

(流れる、やつ)


流砂。


理解した瞬間、足を取られた。


「ライカ!」

「くっ……!」


二人の身体がゆっくりと、しかし確実に沈んでいく。

夜の砂漠は何も語らない。

ただ飲み込むだけだった。


身体が砂から押し出されたとき世界が音を取り戻した。

ザザッ、と吐き出される砂の音。

荒く吸い込んだ空気が肺を刺す。


「……っ、は……!」

ライカは膝をつき咳き込みながら地面に手をついた。

足元では砂が水のように湧き続けている。

だが、沈まない。


「……出口、だよね」

フウカはそう言いながら慎重に足を動かした。

砂は柔らかいが流される感覚はない。


(生きて……る?)


顔を上げる。

周囲は砂漠の中央ではなかった。

乾いた岩場と削られた地面。

遠くに灯りのない街の輪郭がぼんやりと浮かんでいる。


「近い……」

ライカが呟いた。


「街が。流砂からこんな距離で出るはずないのに」

フウカは、湧き出す砂から視線を外さずにいた。

砂は増え続けている。

なのに足元は埋まらない。


(消えてる……)

よく見ると湧き出した砂は、

少し離れた場所へ静かに流れていっている。

そこにも――流砂が吸い込まれる場所があった。


「ねえフウカ。ここ、流れが一定じゃない様に見えない?」

ライカは流砂の縁にしゃがみ込み、砂の動きを観察していた。

指先で小石を落とし、飲み込まれる速度を測っている。


「吐き出される場所があるなら入り口も固定されてると思うんだけど」

「……吸われてる」

フウカの声は、無意識に低くなった。


「出口がひとつなら……入口も、ひとつ」

ライカの目が細くなる。


「流砂は、繋がってる」

即断だった。


「バラバラに見えて、そうじゃない。

入口と出口がちゃんと対になってる」

(……そんな発想、普通はしない)

フウカは思う。

でも、否定できなかった。

この場所は偶然じゃない。


「ねえ、フウカ」

ライカが口元だけで笑う。


「これ……使えそう」

その言葉にフウカの胸がわずかにざわつく。


(使う……?)


「街の外、人の目につかない。しかも、移動ができる」

ライカの思考は、すでに先へ走っていた。


「逃げ道にもなるし、隠れ場所にもなる」


「……でも、危ない?」

フウカはそう言った。


「中は制御できない」


「制御できないから価値がある」


フウカは、ライカが「道として使える」と言い出したときも、

半分は戯言だと思っていた。

けれど同時に彼女が無根拠なことを言う人間でないのもよく知っている。

砂を吐き続ける出口の流れがわずかに乱れた。


ライカが気づくよりも早くフウカは“違和感”を捉えていた。

(……音が、変わった?)

砂の中からひとりの少女が現れた。

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