第9話
遠藤は徹を引きずり、スイートルームのとある部屋に入った。徹はスタンガンの痺れで体が動かせず、ろくに抵抗もできないまま椅子に座らされ、手足をロープで縛られた。
徹の拘束を終えると、遠藤は徹の目の前に座る。
「では、改めてだ。もう一度聞く。あんた、俺のこと覚えているか?」
「……」
「覚えているかって訊いているんだよ!」
声を荒げる遠藤に、徹はビクリと肩を震わせた。
「……篠津川達也と一緒に脱走した刑務官」
「まあ、その通りだ。だけど、そうじゃない。もっと昔のことだ」
「な、何を言っているんだ? 昔って、一体何のことだ?」
当惑する徹に対し、遠藤は失望したように顔を左右に振る。
「本当に覚えていないんだな」
徹は涙を流し、声を振るわせる。
「なあ、助けてくれよぉ。何が望みだ? 欲しいものなら、なんでもやる。そうだ。なあ、自首しろ。今ならまだ大きい罪に問われない。俺もあんたたちの罪がなるべく軽くなる様、協力するから。生活もだ。出所しても楽ができるように面倒みてやるから」
必死に命乞いをする徹。
そんな徹の様子を見て、遠藤は深く大きなため息を吐き出した。
「……少しでも俺に対する罪悪感を持ってくれていたらと、ほんの僅かだが期待していた。だが、あんたは反省するどころか、俺のことなんて覚えちゃいなかった。俺はあんたにやられたことを、全て覚えているというのに。あんたには、俺や達也君への償いをしてもらいたかった。己の罪を悔いて欲しかった」
遠藤はトカレフを取り出し、徹の額に銃口を向ける。
「だが、お前は今も昔も自分のことだけ。罪の自覚がなければ、どのような仕打ちも罰にはならない。……もういいや。どうでもいい。お前の悪事を白日の下に晒すため、罰するため、色々と計画し、法律をも犯した。だが、馬鹿らしくなった。こんな奴のために、俺は今まで行動していたのかと。もう死んでくれ。せめて地獄では罪を自覚しろ」
「お、お願いだ、殺さないでくれ!」
遠藤が銃の引き金に指をかけようとした時。
部屋の扉の鍵が解除され、開いた。
「誰だ!」
遠藤は咄嗟に振り向き、扉に向かって銃を構える。
部屋に入ってきたのは、ウォッチャーの上着を被り、ARゴーグルを顔に装着した旭だった。




