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ウォッチャー  作者: 河野守
第4章 悪人に正義の鉄槌を

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第8話

 ホールに響く音と光の暴力。

 それを合図に扉から警察官、ウォッチャー、ガーディアンが雪崩れ込んできた。だが、リベルタスも負けじと抵抗。スタングレードの閃光で眼が見えないため、四方八方に銃弾をばら撒き、警察官達が近づけない様に威嚇。

「皆さーん、こっちでーす。我々の方に来てくださーい!」

 ガーディアンの風華はいつもより少しだけ早口な口調で、ホール内の徹の支援者達を誘導。ガーディアンが特製のシールドで支援者を守りながら、ホールの外へと避難させる。

「逃げ場はない。大人しく銃を捨てて床に伏せろ!」

 明日香はリベルタスに投降を呼びかける。

 返ってきた答えは聞くに耐えない罵詈雑言。そして、事態は銃撃戦へと発展する。

 警察官とウォッチャーは、ガーディンアの盾やテーブルを遮蔽物として使いながら、リベルタスのメンバーを一人一人制圧していく。

「ひ、ひぃぃぃ!」

 逃げ遅れた徹は、情けない悲鳴を上げながら床に伏せている。一刻も早く頭上を飛び交う弾丸が止むことを祈っていると、誰かに肩を掴まれた。

 顔だけを動かし手の主を確認すると、スーツ姿の若い男性だった。

「小林様、ここは危険です。逃げましょう」

「……あ、ああ!」

 男性に引っ張られるまま、徹は匍匐前進(ほふくぜんしん)でついていく。なんとかホールの外に出られ、そのままホテルを脱出しようとした徹を、男性が呼び止める。

「下の階でテロリストが、待ち伏せしているかもしれません。最上階に行きましょう」

「最上階?」

「はい。このホテルの最上階はスイートルームであり、専用のカードキーが無いと最上階に行くことすらできません。警察やウォッチャー達が事態を収拾するまで、そこに隠れましょう」

 男性の言う通り、スイートルームの方が安全だと徹は判断。「わかった」と男性の後を走ってついていく。

 二人がエレベーターに乗り込むと、男性はカードキーを操作パネルに挿入。エレベーターはゆっくりと、最上階に向かって上昇し始めた。

 動作音だけが響くエレベーターの中、徹は今後のことについて考えを巡らせる。

 裕太郎に過去を暴露されてしまったのは痛手だ。特に八年前のテロ事件のことは非常にマズイ。少なくとも、直近の県議会選挙は絶望的。

 ……だが、俺の人生は()()()()()()()()()()()()

 徹は長い目で人生の戦略を考える。

 こうなってしまった以上、徹は裕太郎との関係を正直に公表するしかない。下手に隠しても、評判が下がるだけ。八年前のテロ事件のことも、説明するつもりだ。

 八年前、イラズラの計画を聞いた当時の徹は、マズイと考えた。人目の多い場所でのイタズラ行為、実行犯が小林徹だとバレる可能性がある。

 だから、お人好しの篠津川達也に頼み込み、身代わりにしたのだ。

 これで自分は大丈夫だと一安心した徹は、当時の取り巻き達と共に、市民ホールの様子を遠目から見ることに。イタズラ犯に仕立て上げられた達也の焦る様子を、盛大に笑ってやろうと考えていた。

 だが、裕太郎の本当の目的は、テロであった。

 瓦礫の山と化した市民ホールを見て、達は愕然。裕太郎は、自分をテロリストにする腹積りだったのだと。

 同じく立ち尽くしていた達也の姿が目に入った徹は、とあることを思いつく。

 自分を守るため、達也に罪を被せよう。

 そう考えた徹は取り巻き達と共に達也を拘束し、警察に突き出した。

 達也が逮捕された後も、徹は自分を守るために奔走。

 自分もテロのことは知らなかった。被害者なんだ。もし、今回のことが全て明るみになれば、父の跡を継ぐという夢が絶たれてしまう。達也の無実は後で証明するから、自分との関係は喋らないでくれ。

 達也には、そう泣き落とした。取り巻き達とは口裏を合わせ、裕太郎は東京に逃した。

 これが八年前の真相である。

 達也を陥れ、見捨てたのは事実。

 だが、徹自身も裕太郎に嵌められそうになったのは、嘘ではない。達也のことは上手く誤魔化しつつ、とにかく自分も被害者だったことを強調する。そうやって今回は逃げる。

 人間は忘れる生き物。人々の記憶から今回のことが薄れてから、表舞台に戻ればよい。ほとぼりが冷めるまでは、父の仕事の手伝いでもしておこう。

 徹がそう考えていると、男性が振り向かずに「小林徹さん」と声をかけてきた。

「あなた、俺のこと知ってます?」

「はい?」

 徹は質問の意図がわからないまま、「ここのホテルのスタッフ? それとも俺の支援者か?」と答える。

 男性は深いため息をついた。

「徹さん、あなたは本当に自分のことしか考えていないんだな。何よりも自分。過去のことなど全く顧みない」

 先ほどまでとは違い、男性は低い声音を出した。徹は男性の言葉と声音が自分をなじっているように感じた。

「な、なんだよ? 何が言いたいんだよ?」

 男性のただならぬ雰囲気に気圧され、徹は距離を取ろうと後ろに下がる。だが、ここはエレベータという閉鎖空間。徹の背中はすぐに壁にぶつかる。

 男性はゆっくりと徹に振り向く。至近距離で男性の顔を見たことで、徹は男性が誰かようやくわかった。

「お、おまえ、()()()()()か!」

 男性、遠藤はポケットからスタンガンを取り出し、徹の腹部に押し当てた。電撃の痛みと痺れで徹は悶絶し、床に倒れる。

「あ……がっ……!」

 遠藤は痛みに喘ぐ徹を冷たく見下ろす。

「……お前に本当の罰を与えるのは、これからだ」

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