第7話
今まで黙っていた徹はようやく口を開き、声を絞り出す。
「……なんで……」
「うん? もう少し大きい声で言ってくんない? 皆に聞こえないじゃん」
「な、なんで……なんでこんなことをするんですか? 今回だけじゃない、子供の頃も、八年前も。何故、川村先輩は俺を陥れようとするのですか? 八年前のことは、単なるイタズラだと聞いていた」
「確かに、俺はそう言ったな」
「だが、イタズラどころか、テロだった。篠津川を代わりに行かせてなければ、俺がテロリストにされるところだった!」
徹は裕太郎をきつく睨みつける。今まで貯めていたものが、一気に吹き出したかのように。その目の中で怒りが燃え上がっていた。
「何故、あんたは俺を、俺の人生を破壊しようとするんだ!」
その問いに対し、裕太郎はニヤリと口の両端を引き上げて見せる。
暗い笑顔。悪意に満ち満ちた、とても暗い笑顔だった。見た者が吐き気を催すほどの。
よくもこのような悪辣な笑みを作れる人間がいるのだと、徹は戦慄。
「何故かって? 面白いからだよ」
「……は?」
「お前の人生を壊すのが面白いから。お前は国会議員の息子で、将来が約束されてる。そしてお前は自分の将来のため、支援者の子供である俺のご機嫌を取らなきゃいけない。お前が俺の言いなりになって、自分の人生を守ろうと右往左往する様子を見るのは愉快だったぜ。今回のことだってそうだ。お前の過去の悪事をバラして、人生を台無しにする。……今のお前の絶望した顔、最高に面白いぞ」
「き、貴様ぁぁぁ……!」
徹から怨嗟を込めた視線を向けられても、裕太郎は意に介さない。
「さて、次は何を話すかな。そうだ。中学生の頃の麻薬パーティーの話でもするか。徹がパーティーの場所を用意……」
裕太郎が更に徹の暴露話を続けようとした時。
「お客様、飲み物はいかがですか?」
髪を後ろに束ねた、ホテルの若い女性スタッフが裕太郎に話しかけた。女性はグラスとワインボトルが乗ったトレーを手にしている。
「おー、気が効くじゃねえか。喋り疲れて、喉が乾いてたんだ。一杯もらおうか」
「かしこまりました」
女性スタッフは慣れた手つきでボトルのコルクを抜き、グラスに赤ワインを注ぐ。
「どうぞ」
「サンキュー」
裕太郎は赤ワインをグラスの半分ほど飲み、酒臭い息を吐く。
「美味いな、このワイン」
もう酔いが回ったのか、裕太郎は顔を赤らめる。残りのワインを一気に飲み干すと、女性スタッフに目を向けた。
「にしてもあんた、良い女だな。美人だし、こんな状況で俺達に話しかける度胸もある。強い女は好きだぜ」
裕太郎は女性スタッフの尻に手を伸ばし、パンツスーツの上から軽く撫でる。
セクハラを受けた女性スタッフは表情から笑顔を消し、ワインボトルで裕太郎の後頭部を力一杯殴りつけた。
ガラスの破片と共に、裕太郎は床に倒れる。髪をワインで赤く濡らした彼は、ピクリとも動かない。その裕太郎の様子を、割れたワインボトルを片手に、女性スタッフが軽蔑の眼差しで見下ろす。
「な、なにしてんだ、ババア!」
リベルタスの少女は動画配信に使っていたスマートフォンを投げ捨て、スカートのポケットからトカレフを取り出す。だが、少女が銃の照準を女性スタッフに向けるよりも早く、女性スタッフはトレーの陰に忍ばせていたテーザー銃を構え、少女の薄い胸にスタンガンを打ち込んだ。スタンガンが刺さった少女は甲高い悲鳴を上げながら、近くに置いたあったテーブルを巻き込み床に倒れる。
女性スタッフは目を吊り上げ、少女を睨みつけた。
「大人の女性をババア呼びするな。小便臭いガキが!」
女性スタッフの豹変に、呆気に取られていたリベルタスのメンバー達。仲間が攻撃されたとようやく認識すると怒号を上げながら、女性スタッフに銃口を向けようとする。
女性スタッフ、に扮した鳳明日香は、複数の殺意を向けられながらも冷静。
「お前ら、パーティーが好きなんだろ。ほらよ、特大のクラッカーをくれてやる」
明日香はそう言い、スタングレネードをリベルタスに向かって放り投げる。




