第6話
「よお、徹。久しぶりだな。あの事件以来だから、八年ぶりかぁ?」
ドレッドヘアーの青年が徹に歩み寄る。
徹は青年の姿を見て、目を見開き、口を金魚のようにパクパクと開閉。
ようやく掠れた声で青年の名前を呼ぶことができた。
「川村裕太郎、先輩……」
その青年は徹にとって、もっとも再会したくなかった人物。この八年間、どうしても忘れたかった存在だ。
「おい、裕太郎!」
裕太郎の実の父親である川村は、銃で撃たれた腕を押さえながら裕太郎に詰め寄る。
「このバカ息子が! 今更何しにきた! 八年前、お前のせいでどれだけの人間が苦労したと思っているんだ! それなのにまた私や小林さん達に迷惑をかけるのか!」
裕太郎は拳銃の持ち手で、父親の頭を殴りつけた。カーペットの上で悶える自分の父親を、裕太郎は冷めた目で見下ろす。
「久しぶりだな、俺の愛しいパパ。だけど、今日はあんたに用はねえ。殺されたくなきゃ黙って這いつくばってろ、クソ親父」
そう言い、裕太郎は徹に向き直る。
「川村先輩が、何故、ここに……?」
「おいおい、水臭いこと言うなよ、徹。お前のためだ。お前を応援するために来たんだ。招待状はもらってねえけど、そこは俺とお前の仲ってことで。てか、俺達がこの決起会の準備をしたんだから、参加する権利はあるよな?」
「なっ……! じゃあ、あのメールを送ってきたのって……」
「ああ、俺達だ。ここの会場の使用料高かったんだぜ。感謝しろよな」
裕太郎の言葉を聞き、徹は項垂れる。
確かにメールの支援者には、不審な点があった。会場の費用まで持つなど、いくらなんでも太っ腹すぎる。もう少し慎重になるべきだったと、徹は自分の浅慮を恨む。
そんな徹の心情など無視し、裕太郎は徹にあることを提案。
「なあ、徹、昔話をしようぜ」
「昔、話……?」
「ああ。有権者には徹がどんな人間であるか、知ってもらわないといけないだろ?」
そう言い、裕太郎は同じリベルタスのメンバーに視線をやった。見た目十代半ばの少女はスマートフォンを手に持ち、徹達に向けている。
何をしているんだと戸惑う徹に対し、裕太郎は丁寧に教えてやる。
「今、あのスマホでこの会場の様子を配信してる。大勢の人間がお前のことを見ているんだぜ。よかったなあ、注目されて。じゃあ、お待ちかねの質問タイムに入るぞ。小林徹君とこの俺、川村裕太郎はどんな関係?」
「え?」
なんだ? 何が目的だ? 決起会を襲撃して、俺のことをネットで配信して、一体何が目的だ?
徹が戸惑い何も答えられずにいると、裕太郎はトカレフの銃口で徹の顎を下から押し上げた。質問に答えないと、殺すぞという脅し。
「なあ、徹ちゃんよ。質問に答えてくれよ。無言なんて、つまらないぜ。ほらほら、俺達はどういう関係なんだ? 難しい質問じゃないだろ?」
抵抗する術を持たない徹は従うしかない。
「……小学校、中学時代の先輩と後輩」
「うんうん。でも、それだけじゃないよな? 俺の親父は、国会議員であるお前のお父様の支援者。つまり家族ぐるみの付き合いだ」
裕太郎は少女の持つスマートフォンに顔を向ける。
「なあ、皆聞いてくれよ。俺達は親同士、子供同士とっても仲が良いんだよ。徹は俺のやることに《《いつも》》協力してくれてさ。女を犯したいって言ったら、合コンをセッティングして、睡眠薬まで用意した。俺が万引きした時も、店員に話しかけて気を逸らしてくれた。他にも色々一緒にやった。あの時は楽しかったぜ」
過去に思いを馳せ、しみじみとする裕太郎。
一方の徹は血の気が引き、顔がどんどん青ざめていく。裕太郎は思い出話のように話しているが、内容は自身と徹の悪事の暴露。
徹の知られたくない過去が、世界中に広がっていく。
「八年前の時も、徹は色々と協力してくれたよな」
「ま、待ってくれ! それだけは……」
これから裕太郎が何を言うつもりなのか、徹にはわかった。
その話は徹に破滅をもたらすもの。
徹は必死に懇願するが、裕太郎は無視。徹の焦る姿を楽しんでいるようだった。
「八年前にこの県で起きた、市民ホールを爆破したテロ事件。あれに徹が関わってたんだぞ。当時、俺はリベルタスに入ったばかりで、イベント運営の業者のフリして、会場に爆弾を仕掛ける計画を立てた。それを徹に手伝ってもらおうとしたんだ」
「川村先輩、お願いします! それ以上……!」
「だけど、徹は別の用事で都合が悪くなってな。その代わりにと人材を紹介してくれた。篠津川達也君って、自分の高校の同級生を。単に断るだけじゃなくて、自分の代わりをきちんと用意してくれる、徹は責任感のある人間なんだぜ」
「あ……あ……」
「お陰でテロは大成功。そこら中に人間の手足が転がってたし、生き残ったやつも痛い痛いって大声で泣いてた。想像していたよりもずっと面白い光景で、本当に笑えたぜ! あ、そうそう。テロの後も徹は俺のこと助けてくれたよな。テロを起こすような奴は知らんと、クソ父親に勘当されて行く宛の無い俺を、東京に逃がしてくれたっけ。警察にも俺のことは喋らなかった。篠津川達也君が代わりに捕まったけど、お前は同級生よりも先輩の俺を守ってくれたわけだ。お前は自慢の後輩だよ!」
裕太郎の褒め言葉に対し、徹はただ俯いているだけ。自分の約束された生涯が今音を立てて瓦解したことに、ただ茫然とすることしかできない。
裕太郎は黙りこくる徹を横目に、話を続ける。
「そういえば徹、お前篠津川達也君と約束してたみたいだな。自分が仕事を紹介したことを、徹と俺達の関係を言わないでほしい。その代わり、冤罪を晴らすために協力すると。だが、お前はそんなこと一切しなかった」
裕太郎はトカレフの銃口で、徹の頭を軽く小突く。
「ダメだぞ、約束は守らないと。相手を嵌めるなんて最低なこと、やっちゃいけないぞ!」
裕太郎は下品なほど大口を開けて、大声で笑う。他のリベルタスも同調して奇声の様な笑い声を上げた。




