第4話
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲みながら、旭は八年前の事件の真相を考える。
情報がまだ少ないため、憶測の域だが旭の考えはこうだ。
川村裕太郎はリベルタスの人間であり、八年前にテロを画策。テロの手伝いを後輩の徹にさせようとした。裕太郎は支援者の息子であるため、徹は彼の言うことを無視できない。裕太郎か徹か、どちらが提案したのかわからないが、徹が嘘の運営スタッフの仕事を達也に紹介。そして、達也は騙されて市民ホール内に爆弾を運んだ。
「でも、この考えが正しかったとしても、遠藤や達也さんがリベルタスと組んだ理由はわからないままだなあ」
旭はわずかに残ったコーヒーを飲み干し、空になったマグカップを机の上に置こうとする。
その際、誤ってとあるものに腕が触れ、机から落としまった。
「あー、田村さんから借りたものを」
旭が落としてしまったのは、達也の小学校時代の卒業文集。香織を家まで送り届けた時に借り受けたのだ。
借りた理由は、達也と遠藤の繋がりを見つけるため。
いくら遠藤が正義感溢れる人物で達也の冤罪を知ったとしても、今回のような強引な手を使うのは普通あり得ない。どんな手を使ってでも達也を助けたいと思うほどの、刑務官と受刑者以上の強い繋がりがあるはず。そう考えた旭は過去に二人の繋がりがあるかどうかを調べるために、卒業文集やアルバム、日記など達也の過去が伺い知れるものを借りたのだ。
しかし、二人を結びつけるものは、見つけることができなかった。
旭は借り物を雑に扱ったことを、心の中で香織に謝罪。
卒業文集はページがめくれ、表紙が上になる様に床に落ちている。旭が卒業文集を拾った際に、開いたページが目に入る。それは卒業生が書いた寄せ書きのページ。
そういえば、この寄せ書きは確認していなかったな。
旭は一度この卒業文集に目を通したのだが、寄せ書きは関係ないだろうと読み飛ばしていた。
特に得られるものはないと思いながらも、旭は寄せ書きを一つ一つ読む。
「ん?」
達也の寄せ書きを読んでいる最中に、旭は妙な引っ掛かりを覚えた。
引っかかったのは、とある一文。
まさくんと一緒に、卒業式に出れなかったのは残念。
まさくん? 誰だ?
おそらくあだ名。まさという文字が名前に含まれている人物だろう。だが、このあだ名に当てはまる同級生はいない。
一緒の卒業式に出られなかったって、どういう意味だろ? まさくんとやらは卒業式の前に転校でもしたのかな?
「……転校、転校……あ、もしかして……!」
遠藤の下の名前は、正成。まさのり、まさくん。
遠藤は子供の頃、転勤族で転校ばかりしていた。
転校先で苛められていたことがあった。
小学生の頃、遠藤をいじめっ子から助けてくれた同級生がおり、遠藤はその子のことを尊敬している。
小林徹は小学校中学時代、かなりのいじめっ子だった。
徹のいじめを正義感溢れる達也が諌めていた。
遠藤は達也を助けることに固執している。
旭の脳内において、バラバラに宙に浮かんでいたピースが次々と繋がっていく。
だが、まだ足りない。欠けているピースがある。
そうだ、あれだ。前々から小さな違和感を抱いていた、あれ。
旭はウォッチャーのタブレットを取り出し、一枚の画像を画面に表示する。それは達也の独房に残された置き手紙。
手紙に書かれた文章を、一文字ずつ指でなぞっていく。
そして、ある一つの文字で止まった。
パズルが完成したことに興奮し、旭は思わず立ち上がる。
「わかった、わかった! 彼の本当の目的が。何を成そうとしているのか……!」




