第4話
「どうした! 何があった!」
山本が呼びかけるが、返答はなし。
扉がゆっくりと開かれ、扉の隙間から円筒形の物体が三、四個投げ込まれた。転がる物体から白煙が勢いよく吹き出し、瞬く間に工場内が白く染まる。
「煙幕! 警察か! 警察がもう来たのか!」
「どうやって、この場所がわかったの!」
「せっかくの我々の計画が!」
動揺するテロリスト達を、山本は鼓舞。
「同志諸君、慌てるな! 儀式の担当者はそのまま続けなさい。他の者は警察の足止めを。いいか、この儀式が終われば、我々の勝ちだ!」
山本の声にテロリスト達は落ち着きを取り戻す。銃を持つ手は緊張で震えていたが、彼らの眼に迷いはない。
彼らの抱く想いは一つ。
自分の命を捨ててでも、世界を救う。
これから警察が突入し、銃撃戦が始まるかもしれない。幸子は飛び交うであろう銃弾から身を守るため、椅子から転げ落ち地面に伏せ目を瞑る。子供達が心配だが、今は我が身を守ることで精一杯。
発煙筒が投げられてから、三十秒は経った。しかし、警察は突入して来ない。
あれ、警察は? どうしたの?
幸子がそう思った直後。
甲高い音。幸子の後ろにあった窓ガラスが割れた音だ。
「なんだ……」
見張りの男の言葉はそこで途切れ、幸子の近くに何かが倒れる鈍い音。恐る恐る目を開けると、眼前で男が白眼を向きながら小刻みに痙攣していた。男の胸には、細長い棒のようなものが刺さっていた。
幸子は「ひい!」と悲鳴を上げ、思わず体を起き上がらせようとする。しかし、肩を強く押さえられて、地面に伏せられた。
「危険です。そのままでいてください」
若く凛々しい男性の声。おそらく、自分の肩に手をおいている主だろう。
幸子は言われた通り、再び地面に伏せる。
幸子の隣を駆け抜ける足音。
その後、幸子の耳に、テロリスト達の悲鳴と戸惑いの声が届いた。「そっちにいるぞ!」「どこだ! 見えない!」「駄目だ、撃つな! 同士討ちになる!」「こちらの位置がバレてるわ!」
「おい、大丈夫か! 同志達! どうした!」
煙幕の中、山本は仲間に呼びかけているようだが、返事はなし。
直後、山本が「うっ……!」と苦悶の声を上げる。
そして、静寂。
……終わったの? テロリスト達は? 子供達は無事?
幸子は顔だけを上げ、周囲の様子を伺う。
白煙の中に、一つの人影を見つけた。
白煙が晴れていき、彼女はその人影の正体を目視。二十代ぐらいの背の高い青年だった。体の線は細いが、肩幅が広くがっちりとした体つき。髪は短く切り揃えており、凛々しさに少し幼さを残した顔。その顔にはSF映画に出てくるような、透明な保護メガネらしきものを掛けていた。青い上着の左胸には、懐中時計の中に眼があるエンブレム。エンブレムの下にはWatcherと書かれていた。青年は右手に持った拳銃らしきモノを、倒れている山本に向けている。青年の周りでは、山本の仲間達が地面の上で呻き声を漏らしていた。
山本は忌々しげに青年を見上げる。
「お、お前、ウォッチャーか……!」




