第16話
動画の中の達也はどこか広い部屋におり、椅子に座って俯いていた。彼の表情は暗く、何かと葛藤しているような、複雑な心中が読み取れる。
達也さんが何故、この動画に映っている? 一体どういうことだ?
旭はただただ戸惑い、棒立ちで動画を注視ことしかできなかった。周りの人間も同様だ。
ただ、金髪とロン毛は楽しそうに動画を眺めている。まるで楽しみにしていた映画の上映が始まったかのように。
この動画は世間でも注目を浴びているらしく、動画の閲覧者が物凄い速度で増えていく。増えていく数字を見て、金圧とロン毛は「おー、すげー! もう百人いってる!」「やっぱ注目されるよな!」とはしゃいでいた。
少しの間、ただ達也を映すだけの動画が流れていたが、そのカメラが後ろに引いた。すると、カメラの手前に一人の人間が現れる。達也と対面するように座っている人物は後ろ姿しか見えず、尚且つ覆面を被っており顔が見えない。ただ、体格から性別が男というのはわかった。
二人の構図は、まるでインタビューのような図式だ。
男は軽く咳払いした後、達也に話しかけた。
「まずはあなたの名前を教えてください」
「……篠津川達也です」
「達也さん、あなたは八年前、『ブラックサンデー』の日に、この県で市民ホールを爆破したことになっていますが、それは本当でしょうか?」
男の問いに対し、それまで俯きがちだった達也は顔を上げ、男をまっすぐ見据える。
そして、ゆっくりと、明瞭な発音で否定する。
「いいえ。違います。俺はやっていません」
「では、あのテロ事件の真相をお聞かせください」
「あの日、俺は当時開かれていた合唱コンクール、その運営を担う業者のアルバイトとして働いていました。業者から荷物の搬送を指示され、言う通り会場の中に運び込みました」
「それが実は爆弾だったと」
「はい。そのアルバイトはとある人物から頼まれました。ここではあえて名前を出さず、とある権力者の息子とだけ言っておきます。その人物に急用が入ったから、アルバイトを代わってほしいと頼まれたんです。人手が足りないと、大会の運営に影響が出てしまうと泣き脅しをされて」
「ふむ。その権力者の息子とやらは、あなたが冤罪であること、単にテロリストに利用されたことを知っているはずですよね。あなたが逮捕された後、助けてくれたのでしょうか?」
「いいえ」
男はわざとらしく、大きなため息を吐いた。
「その人物はとんでもない人物ですね。普通は巻き込んでしまったことに罪悪感を感じ、あなたを助けようとするはず。……テロの濡れ衣を着せられた後、あなたの生活はどうでしたか?」
達也は黙り、視線を上に向ける。これまでの人生を回顧しているようだ。
やがて、彼の目の端には涙が溜まり、達也は目頭を抑えた。
「……しょ、正直辛いものでした。謂れのない罪で批判され、俺の家族も世間から攻撃された。俺が彼の頼みを断っていれば、家族に辛い思いをさせずに済んだと何度後悔したことか。裁判で有罪判決が下り、刑務所に収監された後も、ずっと家族への懺悔の夢を毎夜見ていました」
男は達也に向かって、大きく頷く。
「だからこそ、達也さんは今回我々の誘いに乗ってくれたのですよね? 我々と共にあの東京特別刑務所から抜け出してくれた」
「はい。刑務所から脱走することは違法だと、重々承知しています。だが、家族のため、そして正義を成すため、あそこから逃げ出しました」
「あなたの決断に、改めて深く感謝します」
男は深々と達也に向かって一礼。
その後、立ち上がり達也の側に立つと、カメラに向かって振り向いた。
男が被っているニット帽の額には、リベルタスのエンブレム。男がリベルタスに属している人間の証左だ。
男はカメラ、動画を見ている旭達視聴者に向かって指差す。
「おい、お前!」
先ほどまでの紳士的な口調と打って変わり、男の声は荒々しく怒りが滲みでいる。
「お前だよ、お前! 自分の責任を果たさず、達也さんを見捨て逃げた、卑怯者のお前のことだよ。近いうちに我々が直接お前のところに赴き、罰を与える。それまで震えていろ。言っておくが、逃げることはできないぞ。もし、逃げたらお前は自分の罪を認めたことになる。我々が行くまで、己の罪を噛み締めていろ!」
男が言い終えると同時に、動画が終了した。
金髪はにやけ顔で、旭に振り向いた。
「なあ、面白かっただろ? そして、これから更に面白いことが起きるぜ。楽しみにしてろよ」
金髪の言葉は、リベルタスが更に事を起こすという犯行声明。
だが、旭は何の言葉も返すことができなかった。
理解が追いつかず、停止した動画を見ていることしかできなかった。




