第10話
密輸品の行方捜索の任務を受けた翌日。
旭は県内のとある拘置所、その面会室にいた。腕時計を確認すると時刻は午後四時。この部屋に通されてから十分ほど経つ。
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる中、今か今かと待っていると部屋の扉が開き、向かいに目的の人物が座った。
「やあ。久しぶり、と言っても、あまり日は経っていないか」
数日前に子供の集団誘拐を行った世界救済教、その教祖である山本。彼はアクリル製の敷居の向こう側から、旭に人の良い笑みを浮かべて見せた。
「天野旭君、だったね。まさか、君が面会に来るとは思わなかったよ」
「あの、自分が言うのもなんですが、よく会ってくれましたね」
「私も最初は驚いたよ。だが、興味が湧いてね。今日はどうしたんだい? 言っておくけど、あの儀式のことは言うつもりはないよ」
山本を含め世界救済教のメンバーは、自分達が起こした事件について完全黙秘をしており、警察も手を焼いているらしい。どうやら仲間の罪状が重くならないよう、信者同士でお互いに庇っているようだ。
旭は頭を横に振る。
「いえ。今回は別件について、話を聞きに来ました」
「別件?」
怪訝な表情をする山本。
「……まあ、いいよ。ただ、君の質問に答える前に、私の問いに答えてくれないかい?」
「いいですよ」
「君は我々の、世界救済教の思想、正義をどう思っているかい?」
山本の質問の意図はわからないが、旭は山本の機嫌を損ねないよう出来るだけ穏和な口調で、それでいて正直に答える。
「俺はあなたの、あなた方の思想そのものを否定はしません。人々の幸せを望む、素晴らしいことだと思います。ただ、あの時も言いましたが、方法は決して擁護しません」
旭はアクリル板の向こう側、山本の眼をしっかりと見据える。
「山本さん、あなたは善い人間だと思います。他者の苦しみに共感し、見て見ぬ振りができない。人の幸せを真剣に願っている。あなたの下に集った人たちも」
「……」
「今回は方法、手段を誤り、自分達の正義に固執するあまり、暴走してしまいました。多くの人を傷つけてしまいました。ですが、あなた方はもっと良い方法で、人々を救えると信じています。これは紛れも無い、俺の本心です」
山本は目を瞑る。まるで旭の言葉を一字一句、自分の中で反芻し、噛み締めているようだった。
しばしの間、面会室に沈黙が流れる。
やがて、山本は目をゆっくりと開けた。
「質問に答えてくれて、ありがとう。君は我々のことを頭ごなしには否定しなかったね。さて、次はそちらからだ。何が聞きたい?」
「あなた方が持っていた自動小銃、その入手経路です。もしかして、海外から購入しましたか?」
「銃の入所経路、か。わかった。その質問には正直に答えよう。君の言う通り、海外のマフィアから購入し、この県の港で受け取った」
「やはり。その時、他にも取引をしている人間はいませんでしたか?」
世界救済教から押収されたのは、カラシニコフ六丁とトカレフ十丁。日本に持ち込まれた銃火器の数には全然足りず、また爆薬も見つかっていない。
つまり、残りの商品は別の取引相手が購入したということになる。
「他にも? ……ああ。いた、いたよ。我々の他にも」
旭は思わず身を乗り出す。
「そのことを詳しく教えてください!」
「いいよ。彼らはとんでもないことをするはずだ。だから、君らも躍起になっているのだろう。我々も彼らは嫌いだ。あの時は自分達の計画を優先して、彼らのことは無視した。だが、今なら喜んで協力しよう」
「とんでもないこと? どういうことですか?」
「ああ、なるほど。君の反応を見たところ、ウォッチャーは彼らの名前まではまだ知らないんだな」
山本は自分の頭を、指で軽く小突く。
「彼らとは、深夜の取引現場ですれ違いになった。その際、彼らの一人がニット帽を被っていてね。そのニット帽に、とあるエンブレムがあったんだよ。砕けた鎖のエンブレムが」
「……まさか」
砕けた鎖のエンブレム。とあるテログループが使用しているエンブレムだ。
旭はそのテログループのことをよく知っている。
「そう、そのまさか。……リベルタス。あの最悪の集団だ」




