第9話
「お疲れ様です」
夕方、大学の講義を終えた旭は鳳エンジニア社に赴いた。いつも通り挨拶をしてから事務所に入り、タイムカードを打刻する。
「お、来たか」
机に座っていた明日香は旭の出勤に気づくと、手元の資料から顔を上げる。
「旭、大事な話がある。一旦、自分の席についてくれ。仕事はまだするな」
明日香の表情には剣呑さが滲み出ていた。
これは何かあったな。
嫌な予感がしつつも、旭は「はい。わかりました」と素直に返事。
席に座った旭は、コーヒーを持ってきくれた桜に話しかける。
「桜さん、何かあったんですか?」
「私もまだ詳しいことは聞いていないの。ウォッチャー本部から、何か連絡が来たみたいなんだけど。とりあえず、明日香ちゃんの話を聞きましょう」
明日香は一度咳払い。自分の方に注目が集まっていることを確認すると、口を開く。
「本日、ウォッチャー本部から重要な指令が届いた。最優先事項とのことだ」
明日香は指令の内容を話し始める。
二日前、南米のとあるマフィアが現地警察とウォッチャーによって摘発された。そのマフィアはインターネット上で銃器や麻薬などを、世界中のテロリスト相手に売り捌いていた。『ブラックサンデー』以降、このようなテロリストを相手にした商売も活発になっている。ウォッチャーはテロを防ぐため、マフィアが誰に武器を販売したのか徹底的に調査。すると、日本にも武器を密輸していたことが判明。
「一ヶ月ほど前に、そのマフィアがこの県に品物を密輸し取引をした。取引相手や場所は不明だ。マフィアはかなり慎重な性格で、取引先の情報は残していない。今回の任務は取引をした人間と品物の捜索だ」
「明日香さん、質問があります」
「はい、旭」
「具体的には、何が取引されたのでしょうか?」
「ロシア製の自動小銃、カラシニコフが二十丁、中国製トカレフ四十丁、それと爆薬一キログラム」
「それはまた、随分と……」
「ああ。大規模なテロが計画されている可能性がある。だから最優先だ。鳳エンジニアの業務よりもこちらをやってくれ。旭も別件を抱えて忙しいだろうが、並行してくれ」
「承知しました」
旭は早速調査を開始。ウォッチャーのタブレットを取り出し、資料を確認する。明日香の言う通り、密輸品の銃を使ったテロが近々起きる可能性がある。申し訳ないが、今は達也の件よりもこちらを優先するべき。香織には後で事情を説明しておこう。
旭が資料を眺めていると、記載されたカラシニコフの画像に目が止まる。
「あれ、この自動小銃は……」
最近、この自動小銃を見たことがある。
そして、旭の頭にある組織の名前が浮かんだ。
もしかして、彼らが関係あるのか?




