第8話
「そろそろ本格的に計画を進めるよ」
遠藤はテーブルの向こう側にそう話しかけた。向き合って座っているのは、篠津川達也。
今の達也は坊主頭で、頬がすっかり痩せこけてしまっている。東京特別刑務所にいた頃よりは大分改善したが、顔色は以前悪いままだ。
達也がここまでやつれてしまうのも無理はない。刑務所という施設はとても異質な場所だ。中でも達也が八年もいた東京特別刑務所はとりわけ厳しい刑務所。どれだけ苦しい思いをしたのか、あそこで働いていた遠藤にはよくわかる。
達也は暗い声で、遠藤に問いかける。
「……本当にこんなやり方でいいのかな?」
「もちろん。今回の計画が成功して真実が公表されれば、大勢の人が不幸にならずに済む。それだけじゃない。君の身の潔癖が証明される。そうすれば、君の家族もこれ以上苦しむことはなくなる。君は俺の計画に納得してくれたから、一緒に来てくれたんだろう? 君と俺で正義を成そう」
「……そうだったね。……わかった、わかったよ……」
達也の言葉は遠藤にではなく、まるで自分に言い聞かせているようだった。自分の迷いの部分を押さえ込もうと。
達也の様子を見て、遠藤は罪悪感を覚える。自分の言葉に嘘偽りはない。だが、達也の人の良さと正義感につけこんで、彼をここまで連れてきて自分の計画に協力させたことは、自分でも卑怯だと思う。
達也とこれ以上顔を合わせていることが辛くなり、遠藤は席から腰を上げる。
「そろそろ自分の部屋に戻るよ」
「家族は!」
ドアノブに手をかけ部屋を出ようとした遠藤に向かって、達也は問いかける。
「俺の家族は大丈夫なのか? 俺が脱走したことで、家族に何か迷惑がかかっていないか?」
「……今のところは問題ない。君の家族は俺が様子を見ている。何かあったらすぐに助ける。だから、心配するな」
遠藤はドアノブを回し、扉を開ける。
「じゃあ、俺は自分の部屋に行くよ。……何度も言っているけど、勝手に外に出ないように」
「わかっているよ」
「うん。それじゃ、おやすみ」
部屋を出た遠藤は口を強く一文字に引き締め、前をまっすぐ見る。
俺は昔、君には助けてもらった。卑劣なあいつから守ってくれた。
あの時、俺は君に憧れを抱いたんだ。君のような正義感の強い人間になろうと。
そして、次は俺の番だ。
俺にとって恩人の君が、あいつに嵌められた。
あの時の恩を返す。
今度は俺が正義を執行する。
あいつに正義の鉄槌を下す。
たとえ、どんな手を使ってでも。




