第4話
「でね、俺は何をしているんだって、達也君を問い詰めたわけですよね。すると彼は慌てて逃げ出して、俺達が走って追いかけて捕まえたんです」
旭と加奈恵がいるのは、小林国会議員の事務所の応接室。高級なガラステーブルを挟んだソファには、一人の男性が座っていた。
長めの髪は整髪料で整えられており、オーダーメイドのスーツを着ている。胸ポケットに入れているサングラスや腕時計は外国の高級ブランド。キツめの香水をつけており、香水の類が苦手な旭は正直気分が悪い。
このホストみたいなチャラい若者こそが、八年前に達也を捕まえ、国民から英雄扱いされた小林徹である。
何故、旭がこの場所にいるのか、いることができるのか。
それは隣に座っている加奈恵のお陰だ。
旭は教えられる全ての情報を提供することを交換条件として、小林徹の取材に同行させることを要求。それを加奈恵は快諾。加奈恵が所属する新聞社は鳳エンジニアがウォッチャーの支部ということを知っており、同伴の許可をくれた。
ただ、問題が一つ。
それは小林徹側が、加奈恵の取材を受けてくれるかどうか。
達也の脱走以降、徹の事務所には取材が殺到。一見、徹にとって迷惑に思えるが、実はそうでもない。徹は国政進出への足がかりとして、まずは県議会選挙で当選することを目指している。きっかけはどうであれ、取材を受けることは自分の選挙の宣伝にもなる。
ただ、全ての取材を受けているわけじゃない。取材を受けるのは大手テレビ局や全国紙のみ。
片や加奈恵の所属する新聞社は地方の小さな新聞社。実際何度か取材を申し込んだが、断られている。
そこで加奈恵の上司はある作戦を実行。
最初に行ったのは加奈恵のお洒落。同僚の女性が加奈恵に化粧を施し、胸元が大きく開いたブラウスに、膝上十センチのタイトスカートを着せた。その際、加奈恵は「こんな動きづらく恥ずかしい恰好はイヤだ!」と激しく抵抗したそうだが、上司に「次のボーナス、カットするぞ」と脅されたそうだ。その変身後の加奈恵の写真が添付されたメールを事務所側に送り、取材を依頼。作戦は見事功を奏した。事務所からすぐに取材承諾の返答がきたのである。
この話を聞いた時、旭は何故取材を受けてくれたのか疑問だったが、小林徹と会って納得。
彼のスケベ心丸出しのだらしなく緩みきった顔から、かなりの女好きだとわかった。徹の視線は時折加奈恵のスカートの裾や胸元に行く。いやらしい眼で見られる加奈恵のこめかみは痙攣していたが、そこは流石プロ、アルカイックスマイルを常に絶やさない。
旭は取材をこぎつけた上司と、絶賛不愉快な思いをしている加奈恵に対し、心の中で多大な感謝をした。
加奈恵はなるべく平静を装いながら、取材を続ける。
「それにしても小林さん、八年前の昔のことをよく覚えていますね」
「僕にとって、色んな意味で忘れられない事件ですからね。それに八年前からずっと毎回同じような質問に答えていますから、記憶に刻みつけられているんですよ。こっちはね、毎日毎日達也君についての取材の申し込みがあって大変なんですよ。まあ、もちろん彼らも仕事ですからね、そこは仕方ない。ただ、もうちょっと節度を守ってほしいです。ああ、あなたみたいな若くて美人な記者さんは別ですよ。むしろしつこく取材してほしいです」
「……はは、ありがとうございます」
加奈恵は作り笑顔で返事。
当初、加奈恵は選挙のことを質問していたが、そこから上手く達也の話題に流れを繋げた。側で控えている高齢の男性秘書は最初渋ったものの、徹がまあまあと宥めて今に至る。加奈恵は事件当時のことなど、旭が聞きたいことを代わりに質問してくれている。
旭はメモを取る手を一旦止め、少しの間徹を観察。彼は加奈恵の質問に素直に答えてくれる。ただ、取材中に度々奇妙な光景が見受けられるのだ。
「達也さんが駐車場の男性達から爆弾の入った荷物を受け取っていた、徹さんはその光景を目撃していたそうですね。その男性達は何人くらいだったんですか?」
「えーと、確か二人……」
徹の言葉を遮り、秘書が横から口を挟む。
「三人です。車の外に二人、運転席に一人。そうですよね、徹君?」
「ああ、そうだった、そうだった。彼の言う通り。運転手を忘れていた」
このように、秘書が徹の代わりに答える場面がしばしばある。お目付け役として徹が余計なことを口走しったり、揚げ足を取られないよう、眼を光らせているようだ。
そろそろ突っ込んだ質問をしてみるか。
旭は右手を上げ、質問。
「あのー、俺からも質問よろしいでしょうか?」




