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ウォッチャー  作者: 河野守
第3章 自由な悪意

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第3話

「ぐああ! なん、だ……!」

 テロリストは突然苦悶の声をあげ、痙攣しながら床に倒れた。男の背中には細長い針のようなものが刺さっている。

 旭は上空に何かが浮いていることに気がついた。

 四つのプロペラを持つ大型のドローン。そのドローンには、銃口のような細長い筒が搭載されていた。

「怖い思いをさせて悪かったね。本来ならこんなテロ、事前に阻止しなければいけなかったんだけど」

 声に振り向くと、立っていたのは十代後半の一人の少年。背が高く、一八〇センチ近くはあるだろう。体は細身で髪には寝癖がついている。大人しそうな顔立ちであるが、目は大きく好奇心旺盛な猫を思わせる。彼は青い上着を羽織っていた。その上着の右胸に時計に目が書かれたエンブレムとウォッチャーという文字。

 おそらく、この少年が助けてくれたのだろう。

 旭は命の恩人に礼を言おうと立ち上がろうとし、立ち眩みで体勢を崩す。だが、体に伝わってきたのは床の堅い感触でなく、なにか柔らかいもの。顔を上げて確認すると、そこには少女の顔。長い髪は青いリボンでポニーテールに結んでいる。整った眉、パッチリとした眼に、ピンク色の薄い唇。文句の無い美少女だった。少女も少年と同じ青い上着を羽織っている。

「君、大丈夫?」

 少女は心配そうに旭の顔を覗き込む。旭は思わず赤面。極限状態といっても、年頃の男子小学生。美人なお姉さんに至近距離で見つめられて、平静ではいられない。「は、はい」と間抜けな声で返事をしてしまった。

「君、たぶん脳震盪を起こしているよ。そのまま横になって、安静にしてなさい」

 旭は少女に床に寝かせられ、心配した友人達が駆け寄ってくる。旭は友人達に大丈夫と答えた。

「くそ、くそ、くそが。お前達クソガキのせいで! お前達がいなければ、もっと殺せたのに! 絶対わすれねぇからな! 必ず殺してやる!」

 床に這いつくばるテロリストは、旭達を鬼のような形相で睨む。テロリストは動けないと頭ではわかっているが、その怨嗟の籠った視線に旭達は震えあがった。

 少年はテロリストに侮蔑の籠った視線を向けながら、腰から銃のようなものを抜き、引き金を引く。棒上の物体がテロリストに刺さり、彼は呻き声を上げた。少年は痙攣し苦しむテロリストを無視し、そのテロリストと、棚の下で伸びているもう一人の手足を結束バンドで縛る。

「あの、あなた達は一体?」

 旭の問いに、少年は右胸のエンブレムを右手の親指で指さす。

「我々はウォッチャー。テロリストと戦う民間組織だ。君達は子供でありながら、果敢にテロリストに立ち向かった。その勇気に敬意を評する。そして、次は我々の出番だ。我々がこのテロをすぐに終わらせる」

 少年は蒼い上着を翻し少女と共に、悪虐の限りを尽くすテロリスト達へと向かった。その後間もなくして、テロリストは全員無力化。警察と救急隊がデパートに入り、客を外に運び出す。旭は軽い脳震盪を起こしており、念のため病院で検査することになった。

 救急隊員から介抱されている時、デパートから先程の少年とその仲間達十数名が出てきた。夕暮れを背に蒼い上着を颯爽と靡かせる姿は、とても格好良かった。テロリスト達から助けてくれた彼らは、まごうことなき正義のヒーロー。

 自分も彼らのようになりたい。

 自分も少年のようにテロリストと戦い、大事な人を守れるようになりたい。

 旭は幼心に強い憧れを抱く。

 助けてくれた少年の名前が久瀬誠だとわかったのは、後日ニュースで報道されたからだ。彼は百年に一人のスーパーエンジニア。国内外のITセキュリテイコンテストを総なめにし、アメリカの国防総省からも声が掛かった超天才高校生。そして、その天才が率いるウォッチャーという組織が各地のテロ事件を鎮圧、または未然に防いだ。

 旭はウォッチャーのことがニュースで流れると、その度にテレビを食い入るように見つめた。今まで読まなかった新聞にも目を通すようになった。

 少しでも良いから、彼らのことが知りたかったのだ。

 そして、去年高校二年生の春、旭はウォッチャーになりたいと両親に打ち明けた。ウォッチャーには未成年でも成れる。ただし、未成年の場合は保護者の同意が必要。

 母は「かっこいいじゃない」と快諾してくれたが、父は渋った。一人息子に危険な真似をさせたくないというのが親心。だが、旭も諦めることは出来ない。旭は何度もしつこく父を説得。最後は父が根負けし、ようやく許可してくれた。ウォッチャーの適性試験が終わりメンバーとなった後、旭はウォッチャー本部から紹介された鳳エンジニア社に所属することに。

 旭はウォッチャーとなってすぐに頭角を表す。生れ付きのずば抜けた記憶力と観察力で、テロ事件を何件も解決した。

『ブラックサンデー』を境に人生が大きく変わったのは、なにも旭だけではない。

 目の前の彼もそうだ。

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