第2話
警察とテロリスト達のやりとりを、旭達はデパートの館内放送を介して聞かされていた。目的はわからないが、テロリストが故意に流したようだ。
我々は警察とは交渉しない、お前達は死ぬ運命なのだと知らしめてから殺すつもりだったのだろう。
実際、やりとりを聞いていた人々は絶望の表情を浮かべ、咽び泣いていた。交渉が打ち切られた後、それまで止まっていた銃声と悲鳴が再び鳴り始める。
そして、それらは少しずつ、旭達の方に近づいて来た。旭が様子を伺おうとぬいぐるみの影から顔を少し出すと、突然眼の前に人が倒れてきた。それは、地元中学校の制服を着た女子生徒。口からは血の泡が零れ、虚ろな瞳と旭の眼が合う。旭は出掛かった悲鳴を自分の右手を噛むことで、なんとか押し戻す。
「おいおい、なんで撃つんだよ。折角の現役女子中学生だぜ。もったいねー」
旭の目の前に、複数の足が現れる。テロリストは二人。体格と声から両方男だ。
一人が足で女子生徒を仰向けにする。
「あー駄目だ。完全に死んでるわ、これ。使えねーわ」
「死んでても、体はあるだろ? まだ温かいぜ」
「はあ? お前そういう趣味あんのかよ!」
「まさか! 俺も死体とヤル趣味なんてねーよ!」
旭は息を止め、テロリスト達をやり過ごす。
見つかりませんように、見つかりませんように、見つかりませんように。
旭は目を強く瞑り神様に必死に祈る。緊張から手を噛んでいる顎に力が入り、歯が皮膚を突き破る。口に鉄の味が広がり、赤い雫が床に数滴零れ落ちた。
彼らの足音が少しづき遠のき、旭は呼吸を再開。
旭が安心したのも束の間。
ガシャンという物音。
音の鳴った方を見ると、旭の友人の一人が青い顔をしておもちゃ棚の中にいるのが見えた。誤って、隠れ蓑にしていたおもちゃの箱を落としてしまったのだ。彼は慌てて別の場所に隠れようとしたが、音を聞きつけ戻ってきたテロリスト達に捕まってしまう。
「ガキ一匹、はっけーん! ポイント一点だな!」
テロリストはニヤニヤと醜く笑いながら、友人に銃口を向ける。
自分の友達が殺される。
しかし、旭は恐怖でその場から動くことができなかった。
「やめろ!」
二十歳前後の青年が、テロリストの一人に勢いよくタックル。テロリストは背中からおもちゃの棚にぶつかり、衝撃で棚が倒れる。棚とおもちゃの下敷きになったテロリストはピクリとも動かない。どうやら気絶しているようだ。
青年は突然の襲撃に呆けるもう一人のテロリストに殴りかかった。
「君、早く逃げろ!」
青年は銃を奪おうとテロリストと揉み合いになる。友人は逃げようとするが、恐怖で足がもつれ転んでしまう。
銃声が一発。
青年は撃たれた胸を押さえ、そして倒れた。青年を中心に、床に血だまりが広がる。青年は動かない。テロリストは足で青年を小突き、青年の死亡を確認すると、次に銃口を旭の友人に向けた。
頭蓋に銃口を押し当て、引き金に手を掛ける。
その瞬間、旭の中で何かが弾けた。
旭は飛び出し、テロリストの腕におもいっきり噛みつく。
「何すんだクソガキ!」
テロリストは旭を引きはがそうと、何度も殴る。頬が擦れ、口の中が切れるが、それでも旭は離れない。顎に更に力を入れ、テロリストの顔を手で引っ掻く。
テロリストと戦うなんて怖かった。
しかし、旭の抱いた感情はそれだけではない。
大切な友人が殺される。
友人を見殺しにしては、命懸けで助けてくれたあの青年の行為が無駄になる。
こんなクズ共に簡単に殺されてたまるか。
一矢報いてやる。
悪に負けたくない。
それらの思いが、恐怖を吹き飛ばし、旭を突き動かした。他の友人達も叫び声を上げながら飛び出し、テロリストに掴みかかった。旭達はテロリストを床に押し倒し、自分の拳や近くにあったおもちゃでひたすら殴り続ける。
だが、小学生とテロリストの体格差は大きい。テロリストは力任せに旭達を振りほどいた。
「ふざけやがって! ぶっころしてやるよ!」
顔中血だらけのテロリストは目を血走らせながら銃口を旭に向け、引き金に手をかける。友人が逃げろと叫ぶが、旭は視界が揺らぎ立てない。テロリストから引きはがされた時、床に頭を強く打ってしまったのだ。
朦朧とする意識の中、自分に向けられる銃口を見て、もうだめかと思ったその時。




