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ウォッチャー  作者: 河野守
第2章 最悪の少年テロリスト 篠津川達也

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第7話

「ふあああ、眠い」

 旭は口を大きく開け、欠伸。只今の時刻は午前六時前。太陽が頭を覗かせたばかりだ。朝に強い旭も、流石にこの時間帯は眠い。

 旭がいるのは、自宅の最寄り駅から四つ離れた駅。本日の旭の出立ちは青い野球帽、無地の黒いTシャツにジーンズ、スニーカーであり、背中に迷彩柄のリュックを背負っている。

 遊びに出かける若者といった格好だが、今日の目的は遊びではない。

 香織達、達也の家族への中間報告だ。

 成果なしとはいえ、依頼主である香織にダンマリとは誠実な対応ではない。旭が昨日の夜に直接面と向かって報告したい旨を香織に伝えたところ、自分の父親と会わせたいから家に来て欲しいと言われた。その際、早朝になるべく目立たない格好で来て欲しいとも言われた。

 何故、香織がそのような指定をしたのか、旭はなんとなく察することができた。

 自分達の現在の住居が知られることを、恐れているのだ。

 達也の脱走以降、マスコミや動画配信者が当時の事件関係者に付き纏っている。センセーショナルな事件であるため、それも無理らしからぬこと。もし、香織達の居場所がバレれば、彼らはすぐに殺到するだろう。八年前のように。それを香織は恐れているのだ。

「えっと、道順はと……」

 旭は香織から教えてもらった住居までの道のりを、スマートフォンで調べながら歩いていく。香織達の住居は、街から大分離れた山中にある。香織から教えてもらったが、その住居は元々香織の父の友人が所有している別荘だそうだ。香織達は元々市営アパートに住んでいたが、達也の脱走以降マスコミが来ること、アパートの住人に迷惑がかかることを恐れて、この別荘に移り住んだとのこと。

 旭は駅の自販機で購入したミネラルウオーターを飲みながら、山の中を歩く。道は鋪装されているが、香織の住居まではかなりの距離。長距離移動のために原付の免許でも取ろうかなと考えながら、旭は歩を進める。三十分ほど歩いて、ようやく目的地に辿り着いた。

 インターホンを鳴らすと、香織が出てきて「いらっしゃい」と出迎えてくれた。旭はそのままリビングに通される。

 リビングのテーブルには、中年男性が着いていた。男性は腰を上げ、「達也と香織の父、篠津川秋吉です」と旭に挨拶。旭も「初めまして、天野旭です」と返す。秋吉の頭髪は薄く、わずかに残っている髪も白く染まっている。彼の年齢は五十代前半のはずだが、年齢よりも大分老けて見え、これまで苦労してきたことがありありと伺える。

 旭が椅子に座ると、香織が緑茶の入った湯呑みを持ってきてくれた。旭は湯呑みに口をつけ一息ついた後、正面に座る香織達に現在の状況を話し始める。

 この一週間、八年前の事件の関係者に話を聞いて回っていること、そして、現在に至るまで特段の成果が無いことを正直に話した。秋吉と香織は成果が無いことに怒ったりはしなかった。

「まあ、旭くんに依頼して、それほど時間も経っていないしね」

 秋吉も「そうだな」と頷く。

 旭は遠慮がちに片手を挙げる。

「お二人に聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 秋吉は「もちろん」と快諾。

「小林徹さん、のことはご存知ですよね?」

 その名前を出した瞬間、親子二人の表情が強張る。徹は達也を捕まえた人間。複雑な心境になるのも無理はない。

 旭は言葉を慎重に選びながら、話を続ける。

「達也さんと徹さん、このお二人はどのような関係だったのでしょうか?」

 答えたのは秋吉。

「達也と徹君は親しい間柄だったわけじゃない。仲良く遊んでいるとは聞いたことがない」

 香織が「むしろ、仲が悪い方だよ」と横から補足する。

「達也さん達の仲が悪い?」

「というか、徹さんがお兄ちゃんのことを一方的に嫌っていた感じかな」

 旭にとっては初耳の事実だ。情報を得るため、更に突っ込んで聞いてみる。

「何故、徹さんは達也さんのことを嫌っていたのでしょうか?」

「徹さんは子供の頃、かなりのいじめっ子として有名だったの。父親が国会議員で調子に乗っていたみたい。お父さんは偉い人間だから、子供である自分も偉いって」

「まあ、よくある話ですね」

「うん。でね、小学生、中学生時代は気に入らない子をいじめて、怪我を負わせたこともあった。そして、父親が全部もみ消していた。徹さんは乱暴者で、その父親は権力者。だから、大抵の子は見て見ぬふりをした。自分がいじめの標的にならないように。だけど、お兄ちゃんだけは違ったの。お兄ちゃんは徹さんのいじめを諌めてた。それが気に食わなかったみたい。自分に楯突くなんて生意気だって」

「ちょっと待ってください。達也さんと徹さんは高校だけではなく、小学校、中学校も同じ学校に通っていたのですか?」

「うん、そうだよ」

 香織の言葉に、旭は驚愕。

 志村は徹と達也の間に何かしらの薄い関係があるはずだと言っていたが、薄いどころではない。明確な繋がりがあるではないか。

「そのことは、志村弁護士には伝えたのでしょうか?」

「いや……伝えてなかったと思うよ。あくまでプライベートのことで、八年前の事件自体には関係ないからって」

 記憶を探りながら答える香織。

 確かに香織の言う通り、小中学校が同じという事実が事件に関係しているとは、一見思えない。志村に伝えなかったこともおかしなことではない。もっとも志村がその二人の関係性を裁判で追及しても、無視されていた可能性が高いが。

「そんな徹さんも高校生になってからは、大分落ち着いたみたい。自分の将来的にマズいって、気づいたんだろうね。まあ、それでも他人に小さな意地悪とかはしていたみたいだけど」

「なるほど。八年前の事件の後、達也さんと徹さんとの間で、何らかの接触はありましたか?」

「それはなかったと思う。だけど、お兄ちゃんの裁判の後、徹さんが彼のお父さんと一緒に訪ねてきたの」

「訪ねてきた? 何故小林親子が?」

「支援の申し出」

「支援?」

 訪ねて来るなり、徹の父親はこう捲し立ててきたという。

 あのような事件が起きて、あなた方は大変でしょう。マスコミが大勢自宅や職場に押し寄せてているそうじゃないですか。あなたのご子息と私の息子が同級生というのも何かの縁だ。私が支援します。自宅も職場も私が用意するので、今後はそこで生活してください。心労で倒れた奥様も、私の親族が経営する病院で面倒を見ましょう。

 当時のことを思い出したのか、秋吉は眉間に皺を寄せる。

「彼らの申し出はもちろん断ったよ。奴らは達也をテロリストと決めつけ、上から目線で援助をすると言ってきた。はっきり言って不愉快だった」

 秋吉は当時の怒りを思い出したのか、言葉の端々に怒気を孕んでいた。

 裁判で有罪判決が下ったとはいえ、自分の息子をテロリストと断定されたのだ。秋吉が怒るのも無理はない。

 その一方、旭は小林親子の申し出に疑問を感じていた。

 一見、国会議員が地元の犯罪加害者家族に配慮しようとした、と受け取れる。だが、職場や母親の入院先の面倒まで見るだろうか。目の届く場所に達也の家族を置いて監視するための方便と、穿った見方もできる。

「最後の質問ですが、最近この人物が達也さんや八年前の事件について、訪ねてきたことはないでしょうか?」

 旭はウォッチャーのタブレットを、テーブルの上に置く。タブレットには遠藤の写真が映っている。

 秋吉は首を横に振る。

「いいえ。この人物は知らないです。他に達也のことを聞きたいと来た人物もいません」

「私も記憶にない」

 流石に達也の親族には接触してくるだろうと考えていたが、遠藤どころか、達也の親族にも接触してきた人物が誰一人いないとは。旭の予想は外れてしまった。

「色々と質問にお答えいただき、ありがとうございます」

 礼を述べ、椅子から立ち上がる旭。

 どうか達也をお願いしますという言葉を香織達から受け、旭は香織達の住居を後にした。

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