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ウォッチャー  作者: 河野守
第2章 最悪の少年テロリスト 篠津川達也

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第5話

 達也の弁護をするきっかけは、志村と達也の父親に共通の友人がいたことだ。その友人から「達也君は絶対テロなんて卑劣な真似はしない。無実を証明してほしい」と頼まれた。

 正直に言うと、志村はあまり乗り気ではなかった。弁護士といっても、所詮は人間。いくら仕事でも、多くの命を奪った凶悪なテロリストの弁護は気が進まない。

 ただ、その少年がどういった人物なのか少し興味があったので、一度面会してみようと思った。

「達也君と最初に面会した時だ。彼は私の眼をまっすぐ見て、やっていませんと断言した。その時、私は彼が無実だと確信したよ。これでも弁護士として、何十年も経験を積んできたんだ。相手の眼を見れば、その人物が無実かどうかわかる」

 志村は弁護を引き受けることを決意。テロ事件について調査を行った。

「達也君は、『ブラックサンデー』当日、事件現場の市民ホールでアルバイトスタッフをしていた。合唱コンクールの運営には業者がいくつか入っていてね、そのうちの一つに所属していた」

「ですが、その業者は……」

「うん。存在しない架空の業者だった。現在も真実はわかっていないが、犯行声明を出していたリベルタスのペーパーカンパニーと考えられている。リベルタスは知っているよね?」

「もちろん。彼らは『ブラックサンデー』のテログループの中でも有名です。自分達が楽しければ他人なんてどうでもいいという、悪名高いテログループ」

 リベルタスはラテン語で自由を意味する。リベルタスは一言で言えば、享楽的な集団。彼らの目的は何者にも囚われず、自分の好きなように生きること。リベルタスは社会的混乱や殺戮を楽しむ傾向が強く、平気で人を殺す。そのことから数あるテログループの中でも特に警戒されている。

 志村は「うん」と頷く。

「声明でも、合唱コンクールを台無しにするのが面白そうだからと言っていた。そして、実行犯として捕まったのが達也君」

「達也さんは、リベルタスへの所属を否定していましたよね?」

「うん。彼はある人物からその業者を紹介され、コンクールを手伝いたいと純粋な気持ちでアルバイトに参加した。達也君は業者の命令通り、渡された荷物をホール内に搬送しただけ。中身が爆弾だとは認識していなかったし、業者がリベルタスだということも知らなかったんだ」

 ここまでなら旭も資料を読んで知っている。だが、わからないことがある。

「その業者を紹介した人物って誰なのですか? ウォッチャーの資料を読んだり、当時の裁判記録を調べても、名前が出てこなかったのですが」

 志村は節目がちに「……実は私も知らないんだ」と答える。

「知らない? それはどういうことでしょうか?」

「達也君が教えてくれなかったんだよ」

 達也に業者を紹介した人物。その人物なら達也が無実であると証明できる。業者の正体を知らずに達也に斡旋してしまった、そのような証言をしてもらえば良いのだ。

 しかし、達也は誰であるのか、頑として喋らなかった。

「何故、達也さんは話さなかったのでしょうか?」

「その理由も教えてくれなかった。ただ達也君の口ぶりから、彼に近しい人間だということはわかった」

 達也本人が話さないなら、他の人物から聞き出すしかない。志村は達也の家族や友人に尋ねて回った。だが、その人物のことを誰一人知らなかった。

 そんな中、ある友人が呟いた。「きっとあいつだ。あいつに違いない」、と。

「あいつ、とは誰のことでしょうか?」

 旭の問いに対し、志村は資料のファイルを開いてみせた。そのページには数名の少年の写真が貼ってある。

「この人達は確か、事件直後に達也さんを捕まえたクラスメイト達ですよね。偶然、現場に居合わせて、達也さんの犯行を目撃したと」

「その通り」

 志村はとある人物の写真を指差す。

「そして、あいつとはこの小林徹君のことを指している」

「小林徹さんは、確か……」

 ウォッチャーの情報によると、徹の父親は『ブラックサンデー』当時の与党に所属していた国会議員。現在はとある野党の党首であり、徹は父親のお手伝いとして働いている。

「小林徹さんは当時、世間で英雄扱いでしたよね。未成年なのに、凶悪なテロリストを捕まえたと」

「うん。そして、私は真偽を確かめるため、小林徹君に話を聞いた」

「それでどうでした? 自分が達也さんに業者を紹介したと、認めたのでしょうか?」

「いや。紹介などした覚えはないと否定したよ。達也君とは親しくなく、喋ったこともあまりないとね。だけど、それは嘘なんだ」

「嘘?」

「事件発生の少し前、学校内で達也君と徹君が何か話していた様子が目撃されている」

「つまり、徹さんは達也さんと繋がりがあることを隠したかった、ということですね?」

「うん。薄くとも、何かしらの繋がりはあるはず」

「それは裁判で言及したのでしょうか?」

「したよ。だけど、それは本件には関係ないって裁判官に一蹴された」

「裁判官が、ですか?」

「君の言いたいことはわかる。少しでも怪しい点があれば、追求し真実を暴く。それが裁判官の使命だと」

「はい」

「だけどね、裁判官も人間なんだよ。いくら公平を謳っていても、私情が出てしまう。達也君が爆弾の入った荷物を搬送していたのは事実だし、業者に達也君が利用されたと証明する証拠がなかった。未曾有の被害に義憤を募らせていた裁判官達は、最初から心象が悪い。私の言葉にはろくに耳を傾けず、検事側の証拠を鵜呑みにした」

 結果、達也に下された判決は無期懲役。死刑にならなかったのは、未成年であることを考慮されてのこと。弁護側の志村は控訴、上告したが全て棄却され、刑が確定した。

「当時は再審請求も考えた。だけど、達也君の家族は限界だった」

 裁判には莫大な費用が掛かる。篠津川家は一般的な中流家庭。裁判費用が経済的に重くのしかかった。それに世間からの激しいバッシングで、家族は心身ともに疲弊していた。例え再審請求が通っても勝てるとは限らない。妹の香織の将来もある。勝てる可能性が低いなら、最初から戦わないほうが良い。当時の苦しい状況に呑まれ、篠津川家は諦めてしまった。

 旭は引き続き志村から当時の詳しい話を聞き、気がつけば一時間以上経っていた。

「色々とお話いただき、ありがとうございます。おかげで当時の、そして現在に至るまでのことがよくわかりました」

 旭は「最後に」と人差し指を立てる。

「今回の達也さん脱走の事件、実行する人間に当てはありませんか?」

「私が知っている限り知らないね。達也君は冤罪であっても、脱走を、法を犯すことはしない。周りの人間も達也君の為人を知っているから、脱走を勧めない。だからこそ、今回達也君が脱走したことに、私も驚いている」

 そのことは香織からも聞いた。担当弁護士とはいえ、家族以外の志村も疑問に感じている。達也の脱走は本来ありえない。そのありえない行動をした。単に自由になりたいという理由だけではないのだろう。

 達也が脱走するほどの、何かがあったに違いない。

「志村さん、本日はわざわざ時間を作っていただき、ありがとうございます。では、俺はそろそろ」

「玄関まで見送るよ」

 旭が玄関で志村に改めて礼を述べた時、志村は旭の手を強く握る。その手には力が入っており、震えていた。

「天野君、今回の件よろしくお願いするよ。どうか、どうかこの事件、そして、八年前の事件の真相を解き明かしてほしい。八年前、私にはそれができなかった」

 旭は志村の手を強く握り返し、志村の目をまっすぐ見据える。

「もちろんです。それがウォッチャーとしての俺の任務です。任務は必ず遂行します」

「ありがとう。頼むよ」

 旭は志村にもう一度礼を言い、事務所を後にした。

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