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ウォッチャー  作者: 河野守
第2章 最悪の少年テロリスト 篠津川達也

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第2話

 香織との偶然の再会、その次の日。

 旭は堯鐘を聴きながら日課である早朝のランニングから自宅に戻ってくると、シャワーを浴びるため浴室へ直行。熱めのシャワーで汗を流すと体が温まり、眠気が吹っ飛ぶ。ドライヤーで髪を乾かしてからリビングに入ると、母が朝食を作っていた。母親と挨拶をした後、旭はコーヒーメーカーの電源を入れ、コーヒー豆を挽く。お気に入りのマグカップに、コーヒーと牛乳を注ぎ、椅子に座り一口。朝はこの一杯のコーヒーが無いと始まらない。

 旭はテーブルの上の朝刊を手元に引き寄せ、広げた。やはりと言うべきか、新聞の一面に達也の記事が大きく記載されていた。

 記事を一通り読んだ旭は次にテレビのリモコンを手に取り、テレビの電源を点けた。どの番組も達也の脱走の報道。幾つかチャンネルを変更した後、毎日見ているニュース番組に変える。

「当時に、篠津川達也さんの父親にインタビューした映像があります」

 番組司会者の言葉の後、映像が流れる。篠津川家と書かれた表札の家の前に、道を埋め尽くすほどの報道陣。画面中央には、顔にモザイクが入った男性がいる。達也の父親である彼に対し、多くのレポーターがマイクを向けていた。

「貴様、ふざけるな! このゴミどもが!」

 父親が突然一人の男性レポーターの襟を掴んだ。「ちょ、やめてくださいよ!」と、レポーターが激しく抵抗し、一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。すると父親は狼狽し、逃げるように家の中に入っていった。

 映像の後、司会者から話を振られた評論家が、「篠津川達也は裁判において、アルバイトの仕事として荷物を運んだだけ、中身が爆弾とは知らなかったと己の罪を認めなかった。そして、今回脱走。いやはや、とんでもない人間ですよ。置き手紙の内容も真っ赤な嘘に決まってる。両親はどんな教育をしていたのでしょうかね。テロリストに逃げられた警察も弛んでる」とコメント。

 旭は画面の中の評論家を睨みつける。旭は評論家が嫌いだ。評論家達は自分が今知っている情報だけから、物事、人間を勝手に決めつける。旭はそれが不快でならない。

「お待たせ」

「ん。ありがとう」

 旭の母、天野悠はトーストとベーコンエッグ、旬のアスパラガスのサラダ、昨日の残り物であるシチューをテーブルに置き、旭の前の席に座った。旭は「いたたきます」と手を合わせた後、朝食を食べ始める。悠はそんな息子の姿を、のほほんとした笑顔で眺めている。旭は見つめられることが気恥ずかしく、顔をテレビに向けた。

「旭、どうしたの? 照れちゃった?」

「別に照れてない。食べづらいだけ。じっと見つめないでほしい」

「可愛い息子を見守るのは、母親の役目でしょ」

 悠は無邪気な笑みを浮かべる。彼女は今年で四十一歳になるが、童顔の美人で見た目が若い。近所の人には二十代と間違えられることも。数日前にパート先で若い男性客から連絡先を渡されたと自慢していたが、本当だろう。

「旭、今日の講義は午後からよね? ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」

「ごめん、ちょっと午前中に用事がある。用事が済んだら、そのまま大学に行く」

「そうなの。お弁当作ろうか?」

「コンビニで済ませるよ」

「お金はあるの? 幾らか渡す?」

「アルバイト代があるから大丈夫」

 悠は素っ気ない旭の横顔を眺めた後、テレビを指さす。

「その用事って、もしかしてこの事件? ウォッチャーのお仕事かしら?」

 コーヒーを飲んでいた旭は盛大に噎せってしまった。

 自分の胸を軽く叩き、呼吸を落ち着かせる。

「……何故、そう思うの?」

「あら、当たり?」

 どうやらカマをかけられたようだ。

 絶句する旭に、悠は満面の笑顔を向ける。

「何年あなたの母親をやっていると思うの? 難しいことを考えてると、今みたいに眉間に皺が寄るからわかりやすいわ。そういうところ、お父さんそっくり」

 悠は指で自分の額を押し、眉間に皺を作って見せる。その仕草が子供っぽく、旭は可愛らしいなと不覚にも思ってしまった。

 例え家族でもあっても、ウォッチャーの任務内容をみだりに話してはいけない。だが、流石は母親。息子のことなど何でもお見通しだ。

 旗色が悪いと考え、旭は強引に話題を変える。

「そういえば、父さんは? 昨日帰ってこなかったけど」

「今の仕事が忙しいんだって。昨日は会社に泊まったみたい」

「そっか」

 朝食を食べ終えた旭はごちそうさまと手を合わせ、空の食器をキッチンの流し台に片付ける。そのまま二階の自室へ上がり、外出の準備。ウォッチャーの端末に、筆記用具、今日の講義で使う教科書、ノートを鞄に入れた後、お気に入りの青いパーカを着て一階へ。玄関で靴を履こうとしていると、悠が見送りにきた。

「ハンカチとティッシユ持った?」

「ちゃんと持ってるよ」

「その服だと、今日は寒いんじゃない? もうちょっと厚着しなさい」

「大丈夫」

 悠は曲がっていた旭の襟を直した後、櫛で旭の髪を整えようとする。旭は「母さん、やめて」と抵抗するが、悠はお構いなし。まるで小学生の見送りだ。もう自分は大学生。子ども扱いはいい加減やめてほしい。だが、悠にとって、旭はいつまでも心配すべき子供なのだろう。

 悠は旭の髪を整えた後、息子の胸を軽くパンパンと叩く。

「これでよし。いってらっしゃい」

「じゃあ、いってきます」

 旭は悠に手を振り、玄関を出た。

「旭、気をつけてね!」

 玄関先で飛び跳ねながら大きく両手を振る悠の姿は、息子として恥ずかしく、振り向くことが出来なかった。

 通行人がくすくすと笑っているのを横目に、足早で駅へと向かった。

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