第7話
そこは地獄だった。
咽せる程の硝煙の匂い。
鳴り止まない悲鳴。
床一面を覆う血だまり。
おびただしい無数の死体。
床を焦がす薬莢。
悪魔の声のような銃声。
醜く歪んだ笑顔。
突きつけられる銃口。
そして、その地獄に佇む蒼い上着を着た一人の少年。
旭はそこで夢から覚めた。
周囲の状況を伺おうと視線を彷徨わせる。目に入ってきたのは見慣れた机、椅子、テーブル、ハンガーにかけられたお気に入りの上着。
彼がいるのは自室の布団の中。額には玉のような脂汗が浮かんでおり、手の甲で拭う。寝巻代わりのTシャツは汗でびっしょりと濡れており、肌に張り付き気持ちが悪い。
「……久しぶりだな」
旭は布団から体を起こし深呼吸。何度か繰り返し、ようやく落ち着きを取り戻す。
あの夢、あの夢だ。実に何年ぶりだろうか?
あの夢とは、八年前に起きた『ブラックサンデー』のことである。
旭は最悪のテロ事件である『ブラックサンデー』に巻き込まれ、そして奇跡的な生還を果たした。
だけど、それで終わりではなかった。
『ブラックサンデー』以降、旭は毎夜悪夢に魘されるように。ひどい時は過呼吸で病院に搬送されることもあった。悪夢を見なくなり、ようやく落ち着いたのは『ブラックサンデー』から三年近く経った頃。
今夜は『ブラックサンデー』に関する任務を受けたことにより、あの頃の記憶が蘇り夢を見たのだろう。
だけど、今の旭にとってはもはや悪夢ではない。
あのようなテロを二度と起こさせまいと、ウォッチャーになった理由を再確認し、奮起させるもの。
目覚まし時計に眼をやると、午前二時。汗を流すためにシャワーを浴びるか考えたが、それでは意識が完全に覚醒するし、一階で寝ている親を起こしてしまう。旭はタオルで体を拭き、別のTシャツに着替えた後、布団に再度潜る。
明日、いや今日から任務が本格的に始まる。任務のため、まず睡眠を取ろう。




