幽霊にナンパされました
――お盆にはご先祖様の魂が帰ってくる。
そんな話を信じているわけではない。死んだ人はもう二度と帰ることはない。そのことはぽっかりと穴があいたような私の日常が、証明していた。
それでも必ず、私はお盆には一人でここにお墓参りに来る。母の骨は父方のご先祖様と一緒のお墓にいれられたから、母はコンビニ一つないような山奥に眠っている。
「お父さんは今年も来れなかったよ。ごめん、お母さん」
墓に向かって話しかける。気休めだなんて分かってる。それでも伝えなきゃと思う。父が私を大学に通わせるため、毎日夜遅くまで働いていること。今日も朝早く出て、辺りが真っ暗になるまで帰らないこと。
涙がポロポロと溢れて落ちる。ひっそりとして寂れたこの墓場には、今日も人ひとり居なかった。いつもそれを不気味に思っていたが、今は、誰もいなくてよかったと思った。
こんな醜い顔を見られなくて済むから。
水を張ったバケツに、目を赤く晴らした私の顔が映った。
「お母さん……私寂しいよ、戻ってきてよ」
当然返事はない。
「お願い。一度でいいから。もう一度会いたいの」
その時だった。
私の肩に手が置かれた。
突然のことで、振り向けなかった。
足音は、なかった。
もしかして、もしかしてだけど…
「お母さん!?」
一思いに振り返る。
「可愛いね、一緒にカフェ行かない?」
「は?」
背後にいたのは、知らない男だった。
茶髪と青いジャケットが印象的で、整った顔立ちをしている。
で……私は今、ナンパされているの?
墓場で?
「不謹慎な人ですね。ここ、墓場ですよ」
私がそういうと、男は呆気に取られたような顔をした。
「嘘……?」
私が言い返したのが、気に食わなかったのだろうか。
しかし、母の墓の前でそんな行動をされては困る。
きちんと伝えなければならないのだ。
墓場でナンパするなと。
「嘘じゃない!お姉さん今答えたよね?!結婚しよう!」
「はあっ!?」
何を言っているんだこの人は。




