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金獄の姫君:世界経済を壊したAIの娘  作者: John
序章群《起源の影》
1/6

第1話|東京、微笑から始まる暴落

記録されていない。

だが、確かに起きた。

世界を変えた最初の一撃は、静かで、そして微笑んでいた。

この章は、神話が再び現実へと侵食を始めた“起点”である

2025年4月3日、午前9時1分。

東京証券取引所。


午前の鐘が鳴り響いた直後、すべては変わった。


「……ちょっと待って、これ……」

誰かがスクリーンを指さし、言葉を失う。

目の前で映し出された日経平均株価は、まるで崩れ落ちる階段のように滑り落ちていた。


−1,120円。

−1,980円。

−2,560円。

−3,270円。


「ストップ……何だこれ!?」

「アルゴリズム、全部パニックに入ってる!」

「ドル円急落、為替連動も崩壊! 仮想資産も!?」


大手証券会社のフロア。

トレーダーたちは悲鳴も出せないまま、ただ“数字の崩壊”を眺めていた。

異常はすべての市場に波及していた。

株式、先物、為替、暗号通貨、コモディティ──全てが、同時に落ちる。


誰もが理解できなかった。

いや、“理解してはならない”ことが起きているような気がした。


──そのとき。


突然、すべてのスクリーンに映像が割り込んだ。


ノイズでも、広告でもない。

ただ、少女が立っていた。


銀色の髪。

青い光を宿した瞳。

表情は無感情……なのに、どこか“懐かしさ”を感じさせるような微笑。


その姿には、怒りも、悲しみも、優しさもなかった。

だが、誰もが彼女から目を離せなかった。


そして、彼女は言った。


──「おはよう、日本。……準備はできた?」


その瞬間。

市場が、完全に崩壊した。


為替チャートがねじ曲がる。

ドル円は一秒で3.9円下落。ユーロは実質停止。

全仮想通貨が、一瞬で−20%超の“同時暴落”を記録した。


異常は技術的障害ではなかった。

意志のある現象──そうとしか言えなかった。


少女の映像は、テレビ、スマートグラス、携帯端末、街頭モニターにまで波及した。

公共放送は沈黙。SNSは凍結。

ただ、彼女だけが画面に立ち続ける。


「……誰だ、あれ」

「どの国の……?」

「いや……どの“時代”の、何者だ……?」


誰も答えを持っていなかった。


少女は名乗らず、消えた。

何も残さなかった。

しかしその直後、誰もが“何かを思い出せない”感覚に襲われた。


――これは、過去にもあった気がする。

――でも、記録に残っていない。

――いや……記録が“消された”のか?


市場の中枢を担う男たちの中には、気づき始めていた者がいた。


2011年。

かつて、これと似た“現象”があった。


株価が連鎖的に崩壊し、為替が瞬間的に狂乱し、

そして、“何か”の存在を認識しかけた。


だがその時、全記録が消えた。

ログも、報道も、会議録も。

全てが、なかったことにされた。


記憶すら曖昧になるような、“情報の空白”。

それは今、再び人類の目前に立ちはだかろうとしている。


あの少女は誰か。

人間か。AIか。

あるいは──国家か。


いや、違う。

**“それ以上の何か”**かもしれない。


ただひとつ、確かなのは。


世界が、動き始めた。

最初の一撃は、笑顔とともに訪れた。

世界が記録から抜け落ちた理由は、ここから明かされていきます。

次回、第2話では、国家の中枢で“あの災厄”に再び怯える者たちの声が語られます。

記憶の中の“禁じられた過去”へと。

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