ゴクアクボンドのしきたり
収録にお色気要素が少なくて悩んでおります。
~番組制作カメラマン、フユカワ~
「ちょっと待ってろ」。
ゴクアクボンドのメンバーの一人が門扉の傍に立って見張っている数人の男の方へ向かい、何やら話をし始めた。
すると、見張り番の一人が拳銃を取り出し天に向けて発砲した。
パァンッ!! パァンッ!!
「オイッ!! 探索に出てた奴等が商人を連れ来たぞッ!! 門を開けろッ!! 」。
キィィィィイイイイイイイイイイイ...ッッ!!
見張り番がそう叫ぶと、ゆっくりと動いた門扉の隙間からアジトの内部にいる複数の団員達がハリガネ達を一瞥しながら言葉を交わしていた。
しばらくすると、その一人が見張り番を引き連れてハリガネ達の下へ戻ってきた。
「門を開くからさっさと入れ」。
「へい! ありがとうございや~す! 」。
ハリガネは団員達と共に、門扉が開かれたゴクアクボンドのアジト内へ足早に入っていった。
「...っ!? 」。
門を潜ったハリガネはアジト内の光景を目の当たりにして思わず顔を強張らせた。
(な、何だ? 道の脇に広がっているテントやらブルーシートで作られたハウスは? 俺が傭兵時代、戦地に乗り込んだけど安全区域に施設が無くて、自分達でテントを張って一夜をそのキャンプ場で明かした時の事を思い出すな~)。
ハリガネが目の前に広がっている光景を眺めていると、その男は横目でハリガネを見ながらゆっくりと口を開いた。
「このゴクアクボンドに入ればテリトリー内で自由行動ができる。だが、生活までは保障されない。ここで生活していきたいのであれば組織に対してそれ相当の奉仕をしていく必要がある。つまり、俺達はボスに尽くす事によってこのパルメザンチーズ山脈で生きていけるんだ。組織に入ったばかりの下っ端はこの一帯からゴクアクボンドの一員としての生活が始まる。まぁ、そのテントとかも自分達で調達しないといけないからここへ入る前に持参してくるか、ここら辺の奴等とチームを組んで活動していくか...。あるいはテントとか使わずにその場で野宿をしていくかで一日をしのいでいく事になる。この時点での下っ端はファミリーの見習いという立場となる。仮ファミリーみたいな感じだな。まぁ、俺達もなんだが...」。
「なるほど~、準メンバーみたいな感じなんでゲスね~。しかし、この辺は静かでやんすね~。皆様、この中で休まれているんでござるか? (...この辺から人の気配が全然しない。メンバーはアジト外にいるのか? )」。
ハリガネは静寂に包まれたこの場に違和感を覚えながらそう問いかけた。
「日が昇ると、見張り番やその他に用事がある奴以外の下っ端は、成果を挙げるためにアジトから出なければいけない。そして、日が沈みかけた時に続々と戻ってくるんだが、中には成果を挙げるために夜遅くまでかかってしまう場合も事もある。組織にとって下っ端は捨て駒同然...悪く言えば虫けらと同じ扱いを受ける。俺達みたいな人間は死んでも変えが効くから死ぬならどうぞ死んでくださいというわけさ。非情だが、非情なんて単語はこのゴクアクボンドには存在しない。誰しもが通る道なんでな。それに、下っ端は飯も当然各自で何とかしなければいけない。俺等も底辺の時は飯が本当に食えなくて変なキノコ食ったり、剥ぎ取った木の皮をかじって飢えをしのいでいたもんさ...。おまけに魔獣にも殺されかけたしな...。本当に...当時は大変だったよ」。
その男はしみじみと言葉を噛み締めながら過去の事を思い出していた。
「いやぁ~、厳しい世界でおじゃるね~。皆さんもボスの信用をいただくために大変苦労されているんでごわすね~。やはり、成果というと魔獣討伐になるでやんすか? 」。
「基本的にはそういう事なるな。まぁ、実力のある奴なんかはもうこんな場所で寝る事もなく、すぐ地下のホームに住めるようになる。戦闘要員の他にも建築とか料理とか魔法が使えるとか、特殊スキルのあるメンバーなんかは重宝される場合が多いな。そういう奴等は成果を挙げやすいし生活が保障されるわけさ。それと、奥の方に丸太で建てた木造の平屋が数ヶ所あるだろ? 」。
その男はそう言って歩く先に建っている木造建築物を指差した。
「あ、はい。建ってるでやんすね~」。
「あの奥の一帯に住めるようになれば、入り口前のテントに住んでる下っ端よりは立場が上がったっつう証になるわけだ。あの辺の建物は下っ端だった当時のメンバーが建てたものなんだ。そいつはもともと建築の職人だったみたいでな~。この一帯に建物を立てて自分のスキルを披露したら、ボスに気に入られてそのまま側近に出世したってわけさ。それ以降、あの木造は前に住んでいたメンバーがボス達の住むホームの地下へ昇格引っ越しする際に、ホーム外で生活しているメンバーの中でも成果を出していて信用ができるメンバーへ譲り渡す事が慣例となっているわけさ。俺達もあの建物で共同生活してるんだが、それでも立場的にはまだホーム外で生活しているわけだからファミリーの見習い扱いなんだがな。まぁ、まともな建物で生活できるだけでも大分マシなわけだけどさ~。それに、この組織で生きていくためには信用できる奴等と協力していかないと生きていく事はできないから、ゴクアクボンドのメンバー達はたいてい団体行動で生活しているんだ」。
「単独行動は許されないって感じなんでやんすね? 」。
「いや、一人だとこの組織にいられないってわけじゃないだが、そういう奴はだいたい生き残れないな」。
「生き残れない...? 」。
木造の建築物が建ち並ぶ場所を横切りながらハリガネがそう聞き返すと、その男は小さく頷いた。
「たまにいるんだよ。協調性が無いんだか団体行動が苦手なんだか分かんねぇんだけどさ。まぁ、そういう奴は結局何もできなくてそのまま飢え死ぬか魔獣に殺されるか...他の組織のテリトリーに入って色々とやらかしてその組織のメンバーに殺されるか、あるいは組織を裏切って情報を国や他の組織に売ろうと目論んでいた時に追跡された仲間に殺されるのがオチだ。単独で動いてる奴がこの組織で生き残った例は俺が知る限りは無いな。それに、組織に入ってしまった以上は死ぬまで抜ける事も許されないからな。つまり、俺達はこのゴクアクボンドのボスに骨を埋めたというわけさ」。
「生き残れないし、場合によっては生かさない...と」。
ハリガネの言葉を聞いたその男は、再び頷いて神妙な表情を浮かべながら天を見上げた。
「組織内は弱肉強食の世界であって、メンバー達の足の引っ張り合いなんかは日常茶飯事さ。成果を挙げてボスに認められるんだったら何だってする奴等の集まりだからな。しかも、場合によってはメンバー同士での殺し合いも起きるわけで...それも珍しくないっていうね。しかし、そういう事も許されているのがゴクアクボンドの世界さ。特に、魔法も使えず特殊なスキルもねぇ俺達がのし上がるためには一人の力だけでは色々と限界がある。だから、まずチームを組んで助け合いながら成果を挙げて忠誠を誓ったボスに応えていかなければならないってわけよ」。
「皆さんは生活が保障される事を目標に、日々親分様への奉仕を続けているというわけなんでござるね? 」。
「確かに、今までよりは生活が段違いになるから俺達みたいな見習いファミリー、特にテントを張っている下っ端は何が何でも正式なファミリーとしてボスに認められたいものだ。ホームである地下の生活ができるようになると立派なファミリーとして認められるし、食事や一定の生活に関しての保障はされるわけだからな。だが、ボスにファミリーとして認められたとしても安心はできない。その立場に胡坐を掻いて怠慢行動が目立ったり、組織内で問題を起こしたりするとそいつはそのまま殺される。もちろん、ボスの怒りを買ったりでもしたら即アウトだ。ゴクアクボンドでは罰則という言葉は存在しない。組織においての背信行為は全てボスに対する背信行為になるから、それが発覚され次第そいつは即座に殺される。このゴクアクボンドには情けという言葉も存在しないのだ。例え、粗相を働いた奴なりに理由があり仮に罪が無かったとしても、疑われるような立場である時点でそいつに問題があるとして問答無用で殺されるのがオチさ」。
「...」。
その男が話を終えると、周りで聞いていたメンバー達は険しい表情を浮かべたまま一言も声を発さずに黙っていた。
「皆さん、険しい道のりを歩んでいるわけなんでおじゃるね~。いやぁ~、心から敬服するぜよ」。
「まぁ、俺達も俺達なりにここまで来たからな~! 今回は商人のお前等にも協力してもらうぜ~! 俺達を早くホームに住まわせてくれよな~! 」。
その男はそう言って悪戯っぽく微笑み、ハリガネの背中を軽く叩いた。
「へいっ! 協力させていただきますでやんす~! 」。
ハリガネもその男に白い歯を見せながら元気良くそう答えた。