なんということでしょう
王国を追い出されて不便な事...?
う~ん、不便も何も言ってられないんだけど...。
強いて言えば、漫画が無い事かな~。
俺、漫画読むのが好きだからな~。
~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~
「この一帯が基地周辺になっているんだ。...どうだ? 凄い変わり様だろ? 」。
ゴリラ隊員は目の前に広がっている木々や植物が生い茂った辺り一帯を指差した。
「え? この辺があの荒れ果てていた基地周辺なんですか? 元に戻っているっていうか、荒らされる前よりジャングルっぽくなってませんか? 」。
ハリガネはそう言いながら荷車を牽きつつ、熱帯降雨林と化した基地周辺に視線が釘付けとなっていた。
「最初はミツカ隊員が目の前に転がった倒木を整理したり、洞穴を塞いだ岩の上に苔や植物を敷いたりカモフラージュをするに止まっていたんだが...。現場に立ち会っていたヤマナカが作業に刺激を受けて手伝い始めてから、他の場所から立ち木や植物を移植し始めたり次第にエスカレートしていってな」。
「それで、二人は本格的な造園を始めてしまったという事ですか...。確かに凄い変わり様だ...岩で塞いだ洞穴の場所も全然分からないや」。
ハリガネは苦笑しながらゴリラ隊員にそう言葉を返し、生まれ変わった基地周辺を感心した様子で眺めていた。
「でも、妙ですね...」。
「...ん? 何がだ? 」。
「近くにブルーチーズ川が流れているのは知っていたんですが、こんなに水流の音が近かったかな...と思いまして」。
ハリガネが首を傾げながらそう言って耳を澄ましていると、ゴリラ隊員は大岩や木々が密集している場所を親指で差した。
「その答えは、あっちにあるぞ」。
「...? 」。
ハリガネは眉をひそめつつもゴリラ隊員が指差す先を歩いていくと、木々や草陰の裏側に青い水が溜まっている池がハリガネの前に広がった。
「...池? 何で池がこんな近くに? 」。
「ミツカ隊員がソイ=ソース国の工兵として、国内にまで川を繋げる水路工事に携わっていたのは知っているな? 」。
ゴリラ隊員が淡々とそう話すと、ハリガネは血相を変えて池を見つめた。
「まさか...」。
「そのまさか、だ」。
ゴリラ隊員がハリガネにそう答えた時に、側に立っていた木々の下から青白い光を放つ円形の魔法陣が浮かび上がり、顔も身体も泥だらけになったミツカとヤマナカがその魔法陣の中から姿を現した。
「あ~! 隊長~! お帰りなさ~い! 心配したよ~! 」。
ミツカは満面の笑みを浮かべながらハリガネの肩を叩いた。
「隊長っ! 御疲れ様ですっ! 」。
ヤマナカはハリガネにそう挨拶をしながら敬礼をした。
「お、御疲れ様です...。こ、この池って...。もしかして、ブルーチーズ川と繋がっている地下水から引っ張ってきたんですか? 」。
ハリガネは困惑した様子でそう問いかけるとミツカは力強く頷いた。
「そうだよ~! さっき、ゴリラ隊員から基地の地下に地底湖がある事は聞いたんだけど、飲水用と水浴び用は分けた方が良いと思ってね~! 幸いこの真下も地下水が流れてたのが分かったから、そのまま掘っちゃった~! それで、なるべく池のある部分に基地への入り口を作った方が、身体洗う時に移動するリスクが少ないと思ってね~! 」。
ミツカはそう言うと、足元に青白く光る魔法陣を指差しながら話を続けた。
「それに、池は作ったけど周りから丸見えじゃ危ないからね~! 池の周囲はこんな感じで岩や木とか植物のバリケードも囲ってるし、外からは見えないからこの方が安心だよ~! こうして身体も洗えるしね~! ん~! 気持ちいい~! 」。
ミツカはそう言うと両手で池の水を掬い、その水で自身の顔にこびりついた泥を洗い流した。
「なんということでしょう...」。
工兵出身のミツカによる造園リフォームによって、すっかり様変わりしてしまった基地周辺にハリガネは舌を巻いていた。




