食後のコーヒー
え? 何で賊団に入ったかって...?
それは言いたくないわね。
せいぜい私がみんなに教えてあげられる事は...。
私の血液型はB型って事ね。
~パルメザンチーズ山脈賊団ゴクアクボンドの女給仕、ライスィー~
「...赤髪のデイは絶対に殺すとして、そのハリガネって奴に関しては正直どうでもいい。俺達のテリトリーにさえ入ってこなければオメーとメンバー達に任せるわ。そのハリガネって奴を殺すなりその男の方に身柄を渡すなり好きにしろよ。報酬の件もそっちに任せるわ。オメーの方で上手くやっといてくれ」。
「おっ! マジかっ! 」。
さっきまで不貞腐れていたチョンケイは目を丸くしてケンキョウの方へ向き直った。
「俺はノンスタンスを潰す事で忙しいからそれどころじゃねぇんだ。まだ山脈のどっかに隠れてるかもしれねぇ。それに、ここにもスパイ《ネズミ》が紛れ込んでるかもしれねぇから、こまめに守衛の連中と連絡とらなきゃなんねぇしな」。
ケンキョウはそう答えると、若干疲れた表情を浮かべながら自身の両目を擦った。
「ま、話は戻るけど...しばらく仕事はセーブしとけよ? メンバー達の不安を取り除くのもボスの仕事だぞ~? 」。
「...分かったよ」。
チョンケイに促されたケンキョウは、露骨にばつが悪い表情を浮かべながらそう答えた。
「あと、煙草もしばらくは控えた方がよろしいですな。私が商人の煙草を持ってきておいて、こんな事言うのもなんですがな」。
マカオはそう言いながらケンキョウの傍に置いてある煙草の箱を指差した。
「...うぃっす」。
ケンキョウは気の抜けた返事をしながら傍にいたメンバーに煙草を預けた。
「こちらは食後のコーヒーになりま~す」。
食事も終盤に差し掛かっていた時、女給仕達がコーヒーと一口サイズのケーキを運んできた。
「まぁ、今更この話をするのもアレだけどよぉ。商人やってるポンズ王国の兄ちゃん達の事情ってのはだいたい理解できた。それで、ウチに挨拶へ来たって事は山脈の方でも商売をしたいって事かい? 」。
ケンキョウはハリガネ達の方に視線を向けながらそう問いかけた。
「へいっ! あっし達は諸国を回りながら品物を調達しつつ、国境の地を中心に商売を展開しているでやんすっ! また、品物が揃い次第ゴクアクボンド様の所まで伺いたいと思っておりまする~! 今後ともゴクアクボンド様に御世話になりたく、何卒よろしく御願い申し上げますでござる~! 」。
ハリガネはそう言うとシアターと共に、ケンキョウに対して深々と頭を下げた。
ケンキョウはそんなハリガネ達の様子を見つめると神妙な面持ちで小さく頷いた。
「分かった、俺達のテリトリーで商売する事を認めよう。お互いノンスタンスにハメられた者同士だしよぉ」。
「あ、ありがとうございまするっ! 」。
ハリガネとシアターは再びケンキョウに頭を下げて礼を言った
「おう、あと気乗りはしねぇが山脈全体を歩きたいんだったら、エミールとヒラメキーナっていう組織にも挨拶へ行っておいた良いぞ」。
「へいっ! 近々、伺わせていただく予定でござるっ! 」。
「さて、これからも気の抜けねぇ日が続きそうだな...」。
ケンキョウは神妙な表情のまま天井に向かってそう独り言を呟いた。
(まずは、良し)。
シアターと共に深々と頭を下げていたハリガネは、真下の地面に向けて微笑を浮かべていた。




