チーズの盛り合わせ
血液型ですか?
僕はA型です~。
~討伐部隊“勇者”シアター=アローン隊員~
「...フン、懸賞金に釣られやがって。その調子じゃあ赤髪のデイの野郎と遭遇した時、お前は簡単に言い包められそうだな」。
懸賞金にすっかり目が眩んで有頂天になっているチョンケイに対し、ケンキョウは呆れた表情を浮かべて首を横に振りながら再び煙草をくわえて火をつけた。
(よし、ここでちょっと仕掛けてみるか...)。
ハリガネは肉料理“スフェーン”のポワレを口に運びつつ、意を決してケンキョウ達に話を切り出した。
「いやぁ~! あっし達は風の便りに聞いてはいたんでゲスが、その王国から追放されたハリガネ=ポップもノンスタンスのデイと同様に懸賞金懸けられていたんでやんすね~! しかし、十億ゴールドの大金なんか用意できるでござんすかね~? もしかして、懸賞金を懸けた依頼者は諸国軍の関係者とかでやんすかね~? 」。
ハリガネがグラスに入った水を喉に流し込みながらそう問いかけると、チョンケイは顔をしかめて天井を見上げた。
「う~ん! 本人は自分の事をさすらいの旅人なんて自称してたな~! てか、サングラスを掛けた長髪オールバックの遊び人っぽい男で金もそんなに持ってそうな風貌ではなかったな~! それで、デイかそのハリガネっていう傭兵の首を獲ったら、ソイ=ソース国の隣国であるウスター=ソース国にしばらく滞在してるから声をかけてくれだってよ~! まぁ、あそこだったらソイ=ソース国やその友好国と敵対関係だし、諸国にマークされてる俺達にも結構寛容だから安心できるな~! 」。
(サングラスを掛けた長髪オールバック...旅人の男...っ! )。
チョンケイの言葉を聞いたハリガネの脳裏にある言葉が過ぎった。
『ユズポン市の路地裏の壁に魔法陣が配置してありました。僕とデイが兵士達から逃げていた時に仲間達の誘導でその魔法陣の方まで辿り着いて、潜った先はソイ=ソース国の領土内でしたわ。仲間達の話によればサングラスを掛けた長髪のオッサンが目の前に現れて、魔法陣を指差してここから逃げるよう誘導していたとの事で...。その人が魔法陣を何で用意したのかは僕も仲間達も分かりませんでしたが、おそらくジューンさんが先程おっしゃっていたコミュニティで知り合った関係者なのかもしれません。その出来事の後、その人の行方は誰も知りませんが...。多分、王国内でその人が魔法陣を消してくれたんじゃないかな...? 』。
ハリガネは基地でそう証言したホワイトの言葉をその場で思い出していた。
(サングラスに長髪...。もしかして、ノンスタンスを逃がした男が懸賞金の事と関係している...あれ? でも、ノンスタンスを王国から逃がしたのにリーダーのデイに懸賞金懸けてハンターや賊団に狙わせるって、何かおかしくね?? )。
ハリガネはそう考えていた時、再び女給仕達がハリガネ達の下へ料理を運んできた。
「こちらはチーズの盛り合わせでございま~す! 」。
(しかし、その旅人と自称する男はウスター=ソース国にいるのか...。そんな男が一体、何故俺やデイの首を...)。
「失礼致します...」。
一人の女給仕がハリガネの前にチーズと果物が載せられたお皿を差し出し、空になったハリガネのグラスに水を注ぎ始めた。
(それにしても...)。
ハリガネはグラスに水を注ぐ長身でスレンダーなその女給仕に視線を向けた。
(ここの女給仕はみんな美人だけど、特にこの女給仕は飛び抜けて美人だな。多少当たりが強そうな感じがするけど...。しかし、何またこんな美人が賊団の女給仕として仕えているんだ...? それだけゴクアクボンド内での待遇が良いって事なのかな? )。
黒髪のボブカットで色白の肌をしたその女給仕のクールそうな風貌から、ミステリアスでエキゾチックな雰囲気をハリガネは感じ取っていた。
その視線を感じ取ったその女給仕は、目力があるアーモンド目でハリガネに優しく微笑みかけた。
「御料理はいかがですか? 御客様」。
「あ、大変美味しゅうございまするっ! 」。
「ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」。
「...ッッ!! 」。
ハリガネが愛想笑いをしながらその女給仕と言葉を交わしていた時、彼女の存在に気がついたチョンケイは雷に打たれたような表情を浮かべた。
「おうっ! そこの子っ! ちょっと近う寄れ~! 」。
チョンケイはすかさずハリガネの傍にいた女給仕に手招きをしながら呼びかけた。
「はい、御主人様」。
女給仕はそう返事しながらチョンケイの下に歩み寄った。
「おうっ! これ取っておけ~! 今日の“チップ”だ~! 」。
チョンケイはそう言うとスラックスのポケットから金の時計と貴金属の装飾具をおもむろに取り出し、女給仕に差し出した。
「ありがとうございます。御主人様」。
女給仕はチョンケイからそれ等を受け取ると、深々と頭を下げて礼を述べた。
「はっはっは~! このくらいはゴクアクボンドのボスとして当たり前の事よぉ~! はっはっは~! 」。
「...」。
ケンキョウは高笑いを繰り返すチョンケイにすっかり呆れた様子で、何も言わずに煙草をくゆらせていた。
「はっはっは~! ところで、そなたの名は何と申すのじゃ~? 何故ここにおるのじゃ~? 」。
(何だその殿様みたいな口調はよぉ。...俺も人の事言えねぇけどさー)。
ハリガネは心の中でそう思いながらすっかり有頂天になっているチョンケイを見ていた。
「はい、ライスィーと申します。一週間前からここに住まわせていただいております」。
ライスィーという女給仕はチョンケイに淡々とそう答えた。
「この間、メンバー達がソイ=ソース国から連れて帰ってきたんだ。それで、乱暴な男は苦手だと言ってたから俺の専属給仕やってもらってんだよ。全く、アイツ等...何がボスに相応しい子を連れてきましただよ...。俺に厄介な事を押し付けてきやがってよぉ...」。
ケンキョウがそう付け加えて溜息をつくと、チョンケイは露骨に不満げな様子を見せていた。
「はぁ~!? 何で俺に教えてくれなかったんだよぉ~! そう言っておきながら、お前のところで囲うつもりなんだろ~? 」。
ケンキョウはそう食ってかかるチョンケイに動じる事なく、呆れた表情を浮かべたまま煙草の煙を吐き出した。
「何でも何も、この端正な顔立ちだ。性欲に溺れた野郎共は絶対に放っておかねぇだろ? 特にオメーはな。そうなると、メンバー達がこの女給仕を自分のものにしたいがために、それぞれが水面下で独断的に暴走し始めて組織の構造や秩序を乱す危険もある。つまり、組織の暴徒化を抑制するためと組織管理の阻害にならないようにそういう待遇にしただけだ。それと、俺はオメー等みてぇな能無しの性獣とは違う」。
「なっ...!? 今になって秩序も何もねぇだろっ! 」。
「とにかくだ、このライスィーっていう女給仕は寵愛の対象外だからな。くれぐれも手を出さないように...。ライスィー、今日はもういいぞ」。
ケンキョウは食い下がるチョンケイにそう釘を刺すと、ライスィーに視線を向けながら食卓を人差し指でトントンと軽く叩いて何かを促していた。
「...失礼致します」。
ライスィーはそう言うと受け取っていた“チップ”をチョンケイの前に置き戻し、深々と頭を下げて魔法陣の中へと消えていった。
「...」。
チョンケイはすっかり不貞腐れてしまった様子で、皆からそっぽを向けてしまった。
(あのライスィーっていう女給仕...。はて、何処かで見かけたような気がするけど...俺の気のせいか...? )。
ハリガネはそう思いながらライスィーが通っていった魔法陣を見つめていた。




