スープ、旬野菜と八種薬草のポタージュ
やぁ! みんな!
え?? 血液型??
僕はO型だよ~!
作者は前書きの内容に苦しんでいるみたいだね~!
それはこのシリーズに始まった事じゃないんだけどね~!
~某道具屋の従業員~
「...へっ? 」。
ケンキョウの言葉を聞いたハリガネは、怪訝な表情を浮かべて彼を見つめ返した。
「他人から差し出された食べ物を何の疑いも無く口に含む事は愚の骨頂だ。まぁ、ハンターの鉄則だよな」。
「いやぁ~! すいやせ~ん! なんか習慣になってやして~! 」。
「別に謝る事はないだろう。ハンターとしては当たり前の事だ。何時、如何なる時も戦士は人に身を委ねる事なかれ。常に敵から狙われていると心に刻み込み、苦難を耐え忍びながら人間や魔獣と戦い続ける事が戦士の宿命。戦士とは剣士,槍使い,狙撃手,武道家、そして狩猟士といった、近年では主流となっている魔法を操らぬ物理攻撃を主とする戦闘者が該当する...と」。
「ソルト国軍の英雄であるオーダー=ゴー大佐の著書、“戦士道”に書いてあった文章でゲスね~! 」。
ハリガネがそう言うと、ケンキョウは小さく頷いた。
「ほう、オーダー大佐を知っているのか? 」。
「へいっ! オーダー大佐の書籍は一通り目を通しているでやんす」。
「そうか...。おいっ! お前ちょっとこっち来い! 」。
ケンキョウは出入口扉に佇んでいるメンバー達の内の一人を指差しながら声をかけた。
「はッ!! 」。
声をかけられたメンバーは足早にケンキョウの下へ向かっていった。
(戦中期に活躍したソルト国のオーダー大佐...。ソルト国軍の指揮官として“アルマンダイト”討伐を成功に導いたという名将だったみたいだな。軍事刑務所内で“アルマンダイト”討伐関連の資料を読み漁ってた時、オーダー大佐の本は大分読んだんだよな~。俺と同じ魔法使わない剣士なんだけど戦士としての立ち振る舞いとか戦争時での立ち回りとか、結構面白い事が書かれてたんだよな~。慎重な人だったらしいけど、義理堅い硬派な軍人だったみたいで戦士の鑑として部下に慕われてたみたいだな~。欲に塗れて国を追い出されたどっかのクソ親父とは大違いだな...。あ、追い出されたのは俺も同じだった)。
ハリガネはそう思いながら前菜のカプレーゼを口に含んでいた時、そのメンバーがケンキョウの座っている所までやって来た。
「十年位前の...ブルーチーズ湖で撮影した時の画像を出してくれ」。
「はッ!! ボスッ!! ケンキョウッ!! 」。
そのメンバーが魔法で掌の上から白く光る大きなディスプレイを召喚させると、そのディスプレイ内には一枚の画像が映し出されていた。
その画像の中には防具を身に纏った大勢の男達が横たわっている巨大な“アルマンダイト”の前に立っており、そこには誇らしげに両腕を組んでいるケンキョウやチョンケイ達の姿があった。
「おおっ!? “アルマンダイト”を討伐した時の画像でございやすね~! ...ん? 」。
ハリガネが目を凝らしてその画像を見ていると、その集団の中心では険しい表情を浮かべて佇んでいる白髪頭の中年男性に気がついた。
「この真ん中の方はもしかして...オーダー大佐でござるか? 」。
ハリガネがそう言うと、ケンキョウは小さく頷いた。
「もう、十年以上も前の事になるがな...。ソルト国軍が俺達のテリトリーの方まで侵入してきたんだ。もちろん、俺達の心中は穏やかじゃねぇ。そんな時、オーダー大佐が俺達の所へやって来たんだ。話によれば、当時のソルト国では山脈から下りてきた“アルマンダイト”による被害が深刻化していたという事だ。それで、討伐実績のあった俺達ゴクアクボンドに教えを乞いたいと申し出てきたんだ。ソルト国は魔法大国で有力な魔法使いが多かったらしいが、そんな魔法達でも“アルマンダイト”相手ではどうしようもなかったらしいな」。
ケンキョウはそう言いながらグラスに入ったシャンパンを口に含んだ。
「諸国の奴等は俺達の事を賊団や賊人と呼び、世間のはみ出し者として蔑んでいた。山脈より下の地上に住んでるクセして俺達を見下すって何だよって感じだけどよ。特に戦中期は領地の拡大を目論んでいた諸国の軍が山脈の方まで侵攻してきやがってな。その時の俺達はもう大変よ。なんせ、魔獣も軍も相手にしなきゃいけなかったんだからよ~」。
ケンキョウは乾いた笑みを浮かべるも、すぐに神妙な表情に戻して話を続けた。
「そんなナーバスな環境下にもかかわらず大佐は自身の国には内緒で数人の部下だけを従え、敵対関係にある俺達の下へわざわざ会いに来たんだ。大佐は俺達を見下すどころか腰の低い御方だった。そして常に謙虚で、常に熱心でありながら慎重に行動する事を怠らなかった。大佐の誠実な人柄と立ち振る舞いに感化された俺達は彼に協力するため、“アルマンダイト”や大型魔獣達の討伐に同行させた。この画像はその数ある内のワンシーンってわけだ」。
「なるほど~! 確か、ソルト国は諸国軍で唯一“アルマンダイト”の討伐に成功したんでゲスよね~? そうかぁ~! “アルマンダイト”の討伐をソルト国軍に指導されたのはゴクアクボンド様でござったかぁ~! ...あ、どうも」。
「失礼致しま~す! 旬野菜と八種薬草のポタージュでございま~す! 」。
ハリガネがケンキョウにそう話していた時、女給仕がハリガネに白いスープの入った器とバスケットに入った焼き立てのパンを差し出した。
「ああ...。だが、あれは運が悪かった。現地へ偵察に向かわせた仲間達から後々聞いた話ではあったが、侵入してきた全長三十メートルを超える“アルマンダイト”の親玉を山脈付近のソルト国領地で迎え撃ったらしい。ソルト国軍はその親玉の討伐こそ成功したものの、そこから思わぬ事態が起きてしまった。親玉の危機に勘づいた複数の“アルマンダイト”が山脈を下ってきてソルト国軍を襲撃してきたんだ。援軍を呼んだみたいだが時すでに遅し、親玉を討伐した時点でソルト国軍はかなり疲弊していたそうだ。そんなの当たり前だ、“アルマンダイト”の中でもより凶暴な親玉を討伐する事自体俺達でもなかなかできるもんじゃねぇ。そんな状況下に続けて遭遇した複数の“アルマンダイト”なんかを真っ向から相手にするのは自殺行為よ。だが、ソルト国軍は討伐こそできなかったものの、何とか“アルマンダイト”達を撃退して国への侵攻を防ぐ事には成功したらしい」。
ケンキョウはそう言い終えると、メンバーが映し出している画像に視線を戻した。
「しかしながら、その時に遭遇した“アルマンダイト”達から襲撃を受けた事でソルト国軍は大きなダメージを負った。そして、オーダー大佐はその時の負傷が原因で後に亡くなってしまったという事なんでやんすなぁ~! いやぁ~! 我々の王国では当時圧倒的な戦力を持っていたソルト国が諸国への威嚇として“アルマンダイト”狩りのパフォーマンスを実施していたと報道されていやしたが、まさかそういう事情があったとは知らなかったでやんす~! 」。
「...大佐は非国民の俺達にもなりふり構わず接してくれた。だとしても、大佐と俺達とは所詮賊団と諸国軍の関係だ。それさえなければ...俺達も応援に向かう事ができたのだがな...」。
ケンキョウは神妙な面持ちでそう言うと、再びシャンパンを自身の口に含んだ。
(なるほど...。最初は敵対していた諸国へソルト国軍の戦力をアピールしていたのかと思ったが、まさかそんな事情があったとはな...。しかし、あのオーダー大佐とゴクアクボンドが繋がっていたとはな...)。
ハリガネがそう思っていた時、ケンキョウはハリガネ達の方に向き直った。
「それで...応接間にいた時の話に戻るんだけどよ...」。
そして、ケンキョウは目つきを鋭くさせてハリガネを睨み付け、更に話を続けた。
「兄ちゃん達は...ノンスタンスのリーダーである“赤髪のデイ”とはどういう関係なんだ? 」。
(いよいよ来たか...。さて、何処から話そうか...)。
ハリガネは話を切り出してきたケンキョウを見つめながら頭の中で考えを巡らせた。




