前菜、カプレーゼの“カゼノトオリミチ”添え
どうでも良い事かもしれないけど、俺の血液型はA型だよ。
~討伐部隊“勇者”ハリガネ=ポップ隊長~
「...っっ!? 」。
シアターはハリガネの姿に驚愕した。
フードを脱いだハリガネの髪型は何故かアフロヘア―に変わっており、口元や顎には髭が貯えられていた。
そして、顔には大きな瓶底眼鏡が掛けられており、元の姿とは程遠い格好をしていた。
(た、隊長っ...!? い、いつの間に変装なんかしてたんだろ...? そういえば、偵察活動してた時も隊長の口元こんなに毛深かったっけって思ってたけど...。そうか~! フード被ってたからよく分からなかったけど、外に出る時はああいう変装してたんだ~! )。
シアターは納得した様子で変装しているハリガネを見つめていた。
(いつかはこの局面が来るとは思っていたぜ。実は懐に変装道具を入れててフードの中でも変装してたんだよね~。俺も懸賞金懸けられてるし賊団達から狙われているであろうからには、このくらいはしておかないとね~。てか、王国に支給品として変装道具を頼んどいてマジ良かったぁ~! 助かったわぁ~! 最初は変装して再入国される恐れがあるから支給できないって言われたんだけど、俺が色々と粘って何とか手配してもらったんだよなぁ~! ま、諸国軍の隊長達と遭遇した時は面も割れてたからさすがに外してたけどな~)。
ハリガネは内心安堵しながら女給仕にコートと背負っている長剣、そして両手に持っていた木箱を預けてシアターと共に引かれた椅子に腰を掛けた。
皆が席に着いた時、女給仕達は食堂の奥の壁に描かれていた魔法陣を潜りその場から離れていった。
「今日のメインは? 」。
傍に佇んていた女給仕にケンキョウがそう声をかけた。
「はいっ! 鹿族“スフェーン”のポワレでございますっ! 御主人様っ! 」。
女給仕は満面の笑みを浮かべながらそう答えた。
「俺は食欲ねぇからサイズは小さめにしてくれ」。
「はいっ! 御主人様っ! その旨を御伝え致しますっ! 」。
女給仕はそう言い残すと、足早に魔法陣の中に入っていた。
そして、その人間と入れ替わるように他の女給仕がお盆に載せた料理を運んできながら姿を現した。
「こちらは前菜、カプレーゼの“カゼノトオリミチ”添えでございまぁ~す! 」。
女給仕達はハリガネ達の前に前菜料理を差し出した。
皿の上にはトマトにチーズ、そして緑色で楕円の輪の形状をした“カゼノトオリミチ”という薬草が円形の皿上で輪となって彩り良く丁寧に並べられており、それらの食材にはオリーブオイルや塩コショウで味付けされていた。
「失礼致しま~す! 」。
女給仕達はハリガネ達の前に置かれたグラスに食前酒のシャンパンを注ぎ始めた。
「...」。
ケンキョウは金色に輝くシャンパンが皆のグラスに注がれたのを確認すると、自身のグラスを顔の高さまで持ち上げた。
その仕草を見た皆も、ケンキョウの後に続いて自身達の顔の高さまでグラスを持ち上げた。
「...それでは、食事をしよう」。
ケンキョウは皆にそう言うと、自身のグラスに入ったシャンパンを一気に飲み干した。
「いただきます! 」。
皆はそう言うと、ケンキョウに続いてシャンパンのグラスに口をつけ始めた。
「...」。
そんな中、シアターはグラスを手に持ったままハリガネに視線を送っていた。
「...」。
同じくハリガネもシアターに視線を向けながら自身の鼻にグラスを近づけ、一言も発さずにシャンパンの香りを嗅いだ。
そして、香りを確かめたハリガネはゆっくりとグラスを口につけると、シアターも後に続いてシャンパンを怖ず怖ずと飲み始めた。
「...フッ」。
その様子を見ていたケンキョウやチョンケイはおかしそうに笑みを零した。
「...? 」。
ハリガネは首をかしげながら不思議そうな様子でケンキョウを見つめ返した。
「いや、兄ちゃん達もやっぱり俺達と同じハンターなんだなと思っただけよ」。
ハリガネの取った行動は、ハンターであるケンキョウとチョンケイに見透かされていた。




