ハリガネの危機
空はこんなに晴れているのに、俺の心が晴れないのは何でやろな。
~祈祷師マカオ~
ハリガネ達は昼食を取るために応接間からある場所へ向かっていた。
「皆様ッ!! どうぞッ!! こちらへッ!! 」。
ハリガネ達がメンバーに通された部屋は、長い食卓と複数の椅子が中心に置かれていた広い食堂であった。
壁には応接間と同様に豪華な金碧障壁画が施されており、深紅の食卓には白い清潔そうなテーブルクロスが敷かれていた。
そのテーブルクロスが敷かれている食卓の上には銀細工の枝付き燭台と赤と白の花で豪華に装飾されたガラス製の花器が置かれており、その燭台に立てられていた複数の白い蠟燭の先端からは橙色の灯がともされていた。
天井にも応接間と同様に華美なシャンデリアが高々と吊るされ食堂内を明るく照らしており、繊細にカッティングされた鉱石が贅沢に装飾され煌びやかな輝きを放っていた。
しかも、そのシャンデリアに飾られた鉱石は何かしらの光を受けて反射し輝いているのではなく、自発的に白い光を放ってハリガネ達のいる食堂を照らしていた。
そして、食堂の奥や壁沿いには紺のロングドレスに白いエプロンを纏った複数の女性達が佇んでおり、入室してきたハリガネ達に対して笑顔で迎え入れた。
「御疲れ様でございます! 御主人様! 御客様! 」。
若い女性達はハリガネ達にそう挨拶をしながら深々と御辞儀した。
(とても賊団のアジトとは思えん...。ここの部屋にいる二十代くらいの女達は女給仕か? ...ふんっ! まるで貴族の屋敷みたいだな。賊人風情が随分と良い生活してんじゃねぇかよ。山脈の地下だってのに、良い身分なこったな...しかし)。
ハリガネは羽織っていた毛皮を女給仕に預けるケンキョウとチョンケイを一瞥し、心の中で悪態をつきながら卓上を眺めていた。
食卓の上には燭台や花器の他にも果物が大量に載せられたガラス食器や複数のグラス、銀食器上に丁寧に積まれた卵が置かれていた。
(さすがはソルト国軍を崩壊寸前にまで陥らせた、あの“アルマンダイト”の生息地であるパルメザンチーズ山脈で二十頭も狩ってきた賊団といったところか。どんな反社集団でも山脈最強と呼び名の高い“アルマンダイト”討伐すれば地位や名誉も築けるって事か)。
ポンズ王国内の上流階級とさほど変わらない食卓の光景を眺めながらハリガネはそう思っていた。
そんな時、女給仕が微笑みながら辺りを見回しているハリガネやシアターの方に歩み寄ってきた。
「御客様~、着用されてるコートと持物を御預かりします~」。
「...っ! 」。
シアターは顔を強張らせて隣にいるハリガネに視線を向けた。
(マズいっ! 確か、隊長は自身が賊団やハンターに懸賞金を懸けられてるかもしれないって話してたよな...。それがもし本当なら、このゴクアクボンドのボスを目の前に姿を晒したらマズいんじゃ...)。
シアターがそう思いながら固唾を呑んでハリガネの様子を見守っていると...。
「あっ! こりゃあ、どうもぉ~! 」。
ハリガネは女給仕にそう言いながら、躊躇なく頭に被っているフードに手を伸ばした。




