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ボスの強がり


ゴクアクボンドは俺とチョンケイって奴の二人で成り立ってる組織だ。


チョンケイって奴は組織や現場の見回りをしたりしてメンバーの統括をしている。


まぁ、現場監督に近いな。


俺は自分の事務室で組織の財務や人事とか組織運営の業務をしている。


とにかくウチの組織も色々と問題が山積みになっていて、魔獣の手も借りたいくらい多忙に追われててまいっちまうよ。




~パルメザンチーズ山脈賊団ゴクアクボンドのボス、ケンキョウ~





「ふ~む、首と肩の痛み...それと寒気は血行不良によるものですな~。この間煎じた魔力薬はもう飲まれましたかな? 」。


マカオは自身の手でケンキョウを触診しながらそう問いかけていた。


「飲みましたよ。その時に疲れを感じる事が無くなっても、しばらくしたら身体がダルくなって飯も食うのもかったるくなっててな~。全く、困ったもんっすよ」。


ケンキョウは疲れた表情で溜息をつきながらそう答えている間も、マカオは一切表情を変えずケンキョウの首に自身の指先を当てて脈を測っていた。


「う~ん、脈拍数も心拍数も高いし目の充血も目立ちますな~。顔色も悪いし、この前に診た時より心身共に疲労しているのが明らかだ。しばらくは業務を控えて安静にした方が良いでしょう」。


マカオが淡々とした口調でそう言うと、ケンキョウはばつが悪い表情を浮かべた。


「先生~、そこら辺何とかなんないの~? 手術とかパパッとやったら二度と疲れないような無敵な身体になったりとかさ~」。


「そんな施術ができる医師や魔法使いがいたら、その人間は世界の偉人として永遠に語り継がれるだろうね。それに、私は祈祷師であって執刀医でもなければ医師でもない。確か...同じ山脈に拠点を置いているエミールだったかな...? そのエミールの組織に医療行為を専門としている腕利きの魔法使いがいるらしいが、その魔法使いがそれに似たような研究をしていると聞いたな」。


(エミール...医療行為...。もしかして、ローの言っていたベルって奴の事かな? )。


ハリガネがマカオの言葉を聞いてそう思っていた時、ケンキョウは一層嫌悪感を露わにした。


「やめてくれよ~! 先生~! その名前は言わないでくれよ~! 今は死ぬ事よりも聞きたくねぇんだよ~! その言葉だけは~! 」。


「死ぬ事よりも...か。前々から聞いてはいたが、エミールという組織の事を相当忌み嫌っているみたいですな」。


マカオが変わらず淡々とした口調でそう話すと、ケンキョウはまた溜息をついて天を仰いだ。


「当たり前よぉ~! 特にエミールの最近変わったボスがいけ好かねぇ奴でよぉ~! 」。


「エスティーという名の長でしたかな? そういえば、この間そのエミールの敷地で野暮用があった時に御会いしましたな~。物腰柔らかそうで好青年な印象でしたな~」。


「...へっ!! 外面だけよ、外面だけ。畜生...アイツ等、俺達を心底から見下してやがる...。気に食わねぇ...」。


ケンキョウはエスティーに対して愚痴を零しながら煙草に火をつけた。


「相方、部外者の前で内部事情は話す事ではないんじゃなかったのか...? 」。


「...」。


チョンケイが片眉を吊り上げながらそう問うと、ケンキョウは仏頂面のまま皆からそっぽを向いた。


そんなケンキョウの様子を察したチョンケイは一瞬苦笑いを浮かべたが、神妙な面持ちに切り替えてマカオに視線を移した。


「それで先生! 話は唐突に変わるんですがね~! 今までは定期的にウチへ来てもらってたんですが...。その~、ウチの組織の...ゴクアクボンドの施設でしばらく専門祈祷師として生活していただける事はできませんかね? 」。


「専門祈祷師...ふむ...」。


チョンケイの言葉を聞いたマカオはやや険しい表情で考え込んだ。


「もちろんっ! 給与も支払いますしっ! ここでの生活もこちら側で保障しますんでっ! 」。


「おい、オメー。何勝手に決めてんだよ」。


ケンキョウは眉をひそめながらそう言ってチョンケイを睨み付けた。


「別に俺が独断で決めたわけじゃねーよ。結構メンバー達の中でも話題になってんだからよ~」。


「...話題? どういう事だよ? 」。


ケンキョウは怪訝な表情を浮かべてチョンケイにそう問いかけた。


「そりゃ〜、お前の体調の問題だよ。今年に入ってからずっと体調崩しっぱなしじゃねぇか? 打ち合わせや会議の時も何処か上の空で声かけても反応が無い事もあったとかメンバー達が言ってたぞ? みんな、顔色も悪いし病気なんかじゃねぇかって心配してるぞ? 」。


「...ちょっと考え事してただけだ。そんな騒ぐ事じゃねぇよ」。


ケンキョウはぶっきらぼうにチョンケイへそう答えながら煙草をくわえた。


「現に今、先生に診てもらってるわけで、先生も過労による生活の乱れが原因で体調を崩してるとおっしゃっていたわけじゃねぇか~! だから、しばらく休んでおけよ~! 」。


「うっせぇ、そんな休んでられるかよ。こちとら身体が三体があっても足りねぇっつーのによぉ」。


ケイキョウがそう答えながら煙草の煙を天井に向けて吐き出すと、チョンケイは小さく溜息をついて再び神妙な表情を浮かべた。


「相棒、お前が激務に追われてるのは俺達だって分かってる。特に最近はポンズ王国からノンスタンスとかいう集団がこの山脈へ入り込んできて、俺達のテリトリーを荒らした挙句にメンバーも殺されたわけだから気が休まらなねぇってのは分かるぜ? 」。


「だから、部外者の前でそんな内部の事を...」。


「分かってんよ、相棒。だが、今回ばかりは譲らねぇよ? さっきも言ったけど、お前の体調が悪いって事がメンバーの方で話題になってんだ。このゴクアクボンドの頭脳であるお前が倒れたなんて事になったら、それこそ俺達も共倒れになっちまうよ。お前の体調が悪い事が既に組織の不安材料になっているわけだしメンバー達には問題無いという事を示すためにも、ここは一旦休息を取っておく事が必要なんじゃないのか? 一応言っておくけど、これは俺の意見じゃなくてメンバー達の意見だからな。お前の体調の事が原因で組織の情勢が不安定だなんて、根も葉もない噂が流れ出したら余計に組織内が混乱するだろう? そこを突いて何か下剋上を企てたりとかする輩も出てくるはずだ」。


真剣な様子でそう話すチョンケイの言葉に、ケンキョウは黙ったまま耳を傾けていた。


「...任すわ」。


ケンキョウはしばらく考え込むと熱心に話していたチョンケイに根負けした様子で、天を仰ぎながら静かな口調でそう答えて再び煙草をくゆらした。


そして、ケンキョウの言葉を聞いたチョンケイは真剣な表情から一変し、晴れ晴れとした表情でマカオの方へ向き直った。


「それでですね~! 先生っ! 先程の話に戻るんですが~、しばらくウチの方でコイツや他のメンバー達の体調の面倒を診ていただけませんでしょうか~? どうかっ!! ここは一つ!! ウチには先生みたいな治療を専門とする回復術者ヒーラーがいないんですよっ!! 先生がいらっしゃれば百人力ですっ!! 御願いしますっ!! 報酬ならいくらでも御出ししますっ!! 」。


チョンケイはそう言いながら深々とマカオに頭を下げた。


「先生っ! 私達からもっ! 何卒よろしくお願い致しますっ! 」。


その場に佇んでいたメンバー達も自身の両膝両手を地面につけ、深々と頭を下げながらマカオに対し懇願した。


そんなチョンケイ達の姿を見たマカオは、困惑した様子でやや険しい表情を浮かべたまま両腕を組んだ。


「ふ~む、今のところ他からの依頼は入ってないし...。ゴクアクボンドさんとは、何だかんだで三十年以上の付き合いですからな。私自身、宿を転々としている渡り鳥祈祷師ですし...。まぁ、住居があるのは助かる...。うん、分かりました…良いでしょう」。


「あ、ありがとうございますっ!! 先生っ!! 」。


マカオの答えを聞いたチョンケイは更に深く頭を下げて礼を言った。


「うむ、今日は非常に良い事もあったしな。これ等のレジェンドスティックも手に入ったし、これで幾多の精霊を呼び出す事も可能になった。満足、満足」。


マカオはそう言いながらローブからレジェンドスティックと称するソーセージを取り出し、誇らしげにそれを掲げていた。


(ソーセージで精霊なんか呼び出せるわけがないだろ。本当にこの人は何考えてるか分からん)。


ハリガネは満足そうにレジェンドスティックを食べ始めるマカオに、そう思いながら冷ややかな視線を送っていた。








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