応接間に潜んでいる魔獣達
ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!
ミツカ勇士が奮闘されていらっしゃるのであれば私も頑張らねばぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!!!
うおおおおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッッ!!!
~討伐部隊“勇者”ヤマナカ=マッスル隊員~
中央監視室の魔法陣を通ってきたハリガネ達は、華やかだった地下の入口付近とは打って変わって薄暗い通路を歩いていた。
もう一人のボスであるケンキョウのいるフロアーの壁や天井は黒い漆で覆われており、床には深紅の絨毯が敷かれていた。
「こちらがケンキョウ様の応接間です」。
皆を先導していたメンバーは茶色い大きな扉の前に立ち止まると、自身の掌を突き出した。
すると、チョンケイの時と同様に光り輝く白い大きな魔法陣が扉から浮き出てきた。
「はッ!! 御疲れ様ですッ!! ボスッ!! ケンキョウッ!! 只今、チョンケイ様が参られましたッ!! 」。
直立不動のメンバーが魔法陣の前でそう言うと...。
『...通せ』。
魔法陣の中からしゃがれた声が聞こえてきた。
「どうぞッ!! 」。
メンバーは魔法陣の前から退いて皆に入室を促した。
「よしっ!入ろ~う! 」。
チョンケイはそう言って魔法陣の中へ入っていき、ハリガネ達も後に続いた。
ハリガネ達が魔法陣を通った先には広大な空間が広がっていた。
応接間の壁にはメンバーの行き交っていた賑やかなフロアーと同じく煌びやかな金碧障壁画が施されており、各所には大型魔獣の剝製が飾られていた。
広い応接間の中心には木製の茶色いテーブルと黒い革製のソファーが設置されている。
そのソファーの上に大股開きで腰かけて両手を頭の後ろに回し、煙草をくわえてくつろいでいた一人の男の姿がハリガネ達の視界に入ってきた。
黒い短髪をオールバックに整えたその男は黒いワイシャツの上から白い魔獣の毛皮を羽織っており、チョンケイと同じくいかにも賊団のボスの様な出で立ちをしていた。
そして、ソファーに座っている男の後ろには武装している五人のメンバーが佇んでいた。
(ん...? 後ろに立っているあの団員達は確か...)。
迷彩柄戦闘服に深緑のボディアーマー、そして迷彩柄のヘルメットを着用した五人の男達とハリガネは面識があった。
(あっ! そうだっ! 偵察中にチェダーチーズ山付近で遭遇した傭兵達だっ! そうか~、セキュリティを頼んだ賊団ってゴクアクボンドだったのか~! )。
「...! 」。
その傭兵がハリガネの存在に気付くと、男の後ろから手を振って挨拶していた。
ハリガネも小さく会釈してそれに応えた時、後方から続々とメンバー達が室内に入ってきた。
「失礼しますッ!! ボスッ!! ケンキョウッ!! 」。
メンバー全員はそう言いながら地面に片膝をつけ、ケンキョウと呼ぶその男に忠誠心を示していた。
「おうっ! 相棒~! 元気か~? 」。
チョンケイが手を振りながら明るい口調でケンキョウにそう声をかけた。
「...あん? 元気がねぇから先生に診てもらうんだろうが」。
そのケンキョウは不機嫌そうに眉をひそめながらそう答え、自身の大きな目をギョロつかせながらチョンケイを睨んだ。
「確かにそうだなっ! がっはっは~! 」。
チョンケイは呑気な様子でケンキョウにそう相槌を打ちながら向かい側のソファーにドカッと腰かけた。
「...何? 先生忙しいって? 」。
ケンキョウはテーブルに置かれた灰皿に煙草の灰を落としながらチョンケイにそう問いかけた。
「いや、そんな大した用事じゃねぇんだ~! もうすぐこっちにいらっしゃるだろうよ~! 」。
「そうか、それで...話って何だよ? 」。
ケンキョウが口から煙草の煙を吐き出しながらチョンケイにそう問いかけた。
「おうっ! 実はここにいる地上の連中がよぉ~! 外の見回りしてる時にポンズ国の商人を見つけてきてよぉ~! その商人が俺達に挨拶したいって言ってたらしいから連れてきたんだってよ~! 」。
チョンケイの話を聞いたケンキョウは怪訝な表情を浮かべ、その場で跪いているメンバー達を睨んだ。
「...あ? 商人だ? 俺は地上の奴等がソイ=ソース国の人間との取引から戻って来ないから、しばらくはそいつ等の捜索をするよう伝えておいたはずだぞ? 」。
「はッ!! 申し訳ございませんッ!! ボスッ!! ケンキョウッ!! 奴等の捜索のため山脈を下りていた時、我々のシマへ入ってきたこの商人達と遭遇しましてッ!! 話を聞いたところボスに挨拶へ伺いたいとッ!! それで、そのまま見逃すわけにもいかないと考えましてッ!! やむを得ずホームへ引き返して案内した次第ですッ!! 」。
メンバーの一人は深々と頭を下げながらケンキョウにそう説明した。
「...」。
ケンキョウは険しい表情を保ったまま、両腕を組んで煙草をくゆらせていた。
「相棒~! その地上の奴等がソイ=ソース国へ向かったまま戻って来ねぇのはそういう事なんだろ~? ソイ=ソース国内か近辺で下手こいて軍に捕まったんじゃねぇのか? 山脈にいる俺達が軍なんかに捕まったら賊人扱いされて即処刑だぜ? もう生きてねぇよ、多分」。
「死んでるだけだったらまだ良い。もしかしたら奴等が俺達を裏切って別の組織に入り直した可能性もある」。
「いや、少なくとも山脈の組織に移ったって事はあり得ねぇべさぁ~! ゴクアクボンドに忠誠を誓った奴等には地上地下関係なく身体の見えやすい部分にシンボルマークの入れ墨を彫らせてあるんだ~! もし、奴等が別の組織に駆け込んでも、あっちからその旨の情報をこっちに流してくれるはずだってばよ~! 」。
「フンッ! 別の組織だから余計信用ができないんだろうが。特に最近ヘッドが変わったエミールのあの...エスティーとかいうケツの青そうなガキは気に食わねぇ。あのガキが、デカい面しやがって...。本当に胸糞悪い...」。
「相棒~! 考え過ぎだっつーの! 」。
(ソイ=ソース国...そういえば外でもそんな話をしてたな...。もしかして、この間カッテージチーズ高原で遭遇したあの三人組の事か? ...まぁ、そうなんだろうな。ソイ=ソース国で取引があるって話してたし)。
ハリガネはチョンケイとケンキョウのやり取りを眺めながら、当時の出来事をその場で思い出していた。
「そもそもっ! 相棒がコイツ等みたいな外部の人間を優遇するから組織の士気が...」。
「一旦、やめだ。部外者の前で話す事じゃねぇ」。
ケンキョウは言い合いの中で不満を吐露するチョンケイの話を遮ると、ハリガネの方に視線を向けた。
「それで、そこの兄ちゃん達は商人って聞いたけど、俺に挨拶があるんだって? 」。
ケンキョウに話を振られたハリガネはすぐに我に返った。
「へ、へいっ! あっし達はポンズ王国から来やしたっ! ケチャップ国に用事がございやしてっ! 王国へ戻る際、パルメザンチーズ山脈付近まで通りかかりやしたので、御近づきの印にゴクアクボンド様へあっし達の品物を贈りたく御挨拶のため参上致しましたでやんす~! 」。
「その品物ってのは箱に入ってあるやつかい? 」。
ケンキョウはハリガネとシアターが両手に持っている木箱を見つめながらそう問いかけた。
「へいっ! 」。
「そう、ここまで持ってきな」。
「失礼致しやすっ! 」。
ハリガネはそう答えてケンキョウの方へ歩き出した。
(しかし、剥製された魔獣達はどれも凶暴で一筋縄では討伐できない奴等ばかりだ。やはり、山脈の賊団は侮れな...)。
ハリガネが物資を運びながら顔を動かさずに自身の目で室内を見回していた時...。
「...っっ!? 」。
不意に天井を見上げた先の光景に表情を強張らせ、一瞬身体を硬直させた。
(ア...“アルマンダイト”ッ!! )。
凶暴な魔獣として恐れられ、“炎の守護神”と呼ばれている“アルマンダイト=ガーネット”が高い天井から吊るされていた。