ボスの苦労
やぁ! みんな!
...え?
この物語は進んでいるけど、その時僕は何をしているのかだって?
普通にお店の手伝いをして忙しいなりに平凡な毎日を過ごしているよ~。
だから、王国を追い出されたハリガネが羨ましいんだよね~。
~某道具屋の従業員~
「はッ!! 御機嫌麗しゅうッ!! ボスッ!! チョンケイッ!! 」。
「はッ!! 見回りお疲れ様ですッ!! ボスッ!! チョンケイッ!! 」。
メンバー達がハリガネ達の先頭を歩いてくるチョンケイに気付くと、慌てた様子で道を開けながらその場に跪いた。
「うぃ~っす! お疲れ~! 」。
チョンケイは手を挙げながらその場に居合わせていたメンバー達に声をかけた。
「おっし! 俺達はこれから相棒と大事な話があるから、お前達はもう部屋へ戻ってもいいぞ~! 」。
チョンケイがそう言うと両脇にいる美女達は口を尖らせて不満げな様子を見せていた。
「えぇ~!? これから私達とランチするんじゃなかったのぉ~?? 」。
「う~ん! そうだったんだけど、ちょっと予定が変わっちゃったっ! また今度な~! 」。
「えぇ~!? ヤダァ~!! 」。
「い~や~だぁ~!! 」。
美女達はチョンケイの腕に抱き着いて拒んでいた。
「いやっ! マジでマジでっ! 今日はこれで勘弁してくれよぉ~! 」。
チョンケイは困惑した表情を浮かべつつ、スラックスのポケットから札束を取り出して美女達に渡した。
「んもう~! それじゃあ、また今度ねっ! んぅ~! 」。
「ん~! 」。
札束を受け取った美女達は満面の笑みを浮かべてチョンケイの首に抱き着き、その勢いのまま頬にキスをしてその場から離れていった。
(...ん? 札束...? ゴクアクボンドではお札が使えるのか...? )。
ハリガネは去っていく美女達の手に握られていた札束を見つめながらそう思っていた。
「俺達ゴクアクボンドの間でのみ通用する紙幣さ~! アジト内ではこの紙幣を使ってお互い取引を行っているのさ~! 」。
チョンケイはそう答えると得意げな様子で、ハリガネの目の前にその札束を掲げた。
その紙幣には高笑いしているチョンケイが写っていた。
「いやぁ~! この危険な場所であるパルメザンチーズ山脈で、これだけ経済を回しているゴクアクトンボ様は大変素晴らしい組織でやんすね~! (悪趣味だな...。自分が肖像画の紙幣を使ってんのか...。まぁ、賊団のボスだからそんくらいはするか)」。
ハリガネはチョンケイをおだてつつ、心の中でそう悪態をついていた時...。
「ご主人様ぁ~! 」。
「旦那様ぁ~! 」。
突如、上の階から黄色い声が聞こえてきた。
「...ん? 」。
ハリガネ達が上を見ると、美女達が手すりから身を乗り出してチョンケイに微笑みかけていた。
その美女達は恥じらいを感じている様子もなく、シースルーのネグリジェを周囲に見せつけているかのごとく大胆に着こなしていた。
「ご主人様ぁ~! 今晩は私と一緒に遊ぼぉ~! 」。
「ちょっとっ! アンタは昨日散々楽しんだでしょうぉっ!? 」。
「別に昨日楽しんだから今日はしなくていいなんて決まりなんか無いでしょうっ!? 」。
「アンタはモラルとか無いわけっ!? 」。
「はぁっ!? ここでモラルなんか求めてんじゃないわよっ!! 」。
「何ですってっ!? 」。
「何よぉっ!! 」。
「おいおいっ! お前等その辺にしろっ! 客人が来てんだからっ! 」。
チョンケイは小競り合いしている様子を見かねて、美女達に対してそうなだめた。
「分かったっ! 分かったっ! 今日はまとめて相手してやるからっ! それで良いだろっ!? なっ! 」。
チョンケイが必死にそう説得すると、機嫌を損ねていた美女達からようやく笑顔が戻った。
「んふふ~! 約束よぉ~! 旦那様ぁ~! 」。
「今日は寝かせないからねぇ~! 」。
「さぁ~て! 今日は精のつく物を食べないと~! 」。
美女達はそう言い残して各々の部屋へと消えていった。
「はぁ~!! 」。
チョンケイは美女達がいなくなったのを確認すると、溜息をつきながら大きくうなだれた。
「今日は徹夜だな...トホホ」。
「親分様も色々と苦労が絶えない御様子でござるね~」。
ハリガネは苦笑いをしながらそう声をかけると、チョンケイは疲れた表情を浮かべて小さく頷いた。
「そうなんだよ~! ボスっつったって、俺は俺なりに下の奴等の事を気にかけてるわけさぁ~! それにみんなは羨ましいって思うかもしれないけど、俺も若くないから毎日アレが続くとなると大変なんだぜ~! 」。
「は、はぁ...(腰と首回りが死にそうだな)」。
「まぁ、先を急ごう」。
「へ、へいっ! 」。
ハリガネは再び歩き出したチョンケイの後を追った。