モーニングジョーク、チョコミントアイスを添えて
君達、カリフォルニア巻きは好きかい?
~名の知らぬ先生~
「...」。
しばらく、全員の間に沈黙が流れた。
「...」。
そして、先生と呼ばれているその男もまたハリガネをずっと見つめたまま沈黙を貫いていた。
「あの、先生...? 」。
チョンケイは遂に痺れを切らして先生に声をかけた。
「...」。
先生はハリガネを見つめたままゆっくりと口を開いた。
「...モーニングジョークだ」。
「...は? 」。
皆が呆気に取られているのを余所に先生は晴れた空を見上げた。
「せっかくの良い朝だからな。ソイ=ソース国の平均株価も上がってたし、ここは景気付けに一発ジョークを一つと思ってな」。
(シャレになんねぇんだよっ!! そんなジョークよぉっ!! ホントにコイツ訳分かんねぇよっ!! だいたい、天気と株価何の関係があるっつーんだよっ!! この前といい何なんだよっ!! もぉっ!! )。
ハリガネはムスッとした表情で太陽に手をかざしている先生を睨んだ。
「は...はっはっは~! さっすが先生っ! 大変上品なジョークでしたぁ~! お前等もそう思うだろぉ~? 」。
チョンケイは苦し紛れながらに先生を持ち上げつつ、メンバー達にそう話を振った。
「素晴らしいっ! 」。
「いやぁ~! 気品のあるジョークですな! 」。
「さすが神に選ばれし祈祷師であるマカオ先生の言葉には説得力がありますなぁ~! 」。
メンバー達もチョンケイに合わせてマカオと呼ばれている先生をおだて始めた。
(何だ...このノリは...。てか、コイツって祈祷師なの...? ああ、そうか...。そういえば、さっき埋葬とか儀式とか言ってたな)。
ハリガネは眉をひそめながらそう思っているとマカオが皆の方に向き直った。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はバニラアイスクリームだ」。
「…? 先生の御名前はマカオじゃないんでござるか? 」。
「マカオは本名、バニラアイスクリームはペンネームだ。たまに別名義でミントチョコアイスを使用している時が稀にある」。
(...いや、全然意味分からん)。
ハリガネは心底からうんざりするもマカオの話は続く。
「そして、君達と同じくコーヒーショップの店員として生計を立てている。また、ハガキ職人も兼業している。だから、バニラアイスクリームもまたもう一人の私であるのだ」。
「いや、コーヒーショップって...。さっき祈祷師って聞いてたでござるが...。あと、あっし達はコーヒーショップの店員じゃなくて露天商人でゲス」。
「ちなみに、私の夢は空の上にずっと浮かんだまま特に何もせずに人生を終える事だ。“何でも無い事”が幸せだからな」。
(“何でもないような事”がじゃなくて...? つーか、さっきから何話してんだよっ!! コイツはよぉっ!! 全然話しが進まねーじゃねぇかっ!! )。
ハリガネはそう思いながら内心マカオに苛立っていた。
「せ、先生~! 彼等はポンズ王国の商人達でウチへ挨拶のために今日来たって感じで~す! それで、この方はマカオ先生という腕利きの祈祷師だ! このように死んでいった奴等の祈祷だけではなく病気になった時にも治療を頼んだりと、度々ウチが御世話になっている先生なんだ! 」。
マカオのペースに耐え切れなくなったチョンケイは、ボスであるにもかかわらず自ら間に入って仲立ちをした。
「い...いやぁ~! 大変ユーモアにありふれた先生でやんすなぁ~! はっはっは~! 」。
ハリガネは内心ウンザリしつつも何とかその場を取り繕った。
「おっと、治療といえば...。ケンキョウ殿の診察がまだでしたな」。
マカオの言葉を聞いたチョンケイは、何かを思い出したような様子で自身の握り拳で掌を叩いた。
「そうだっ! 丁度良いやっ! 自分達もケンキョウに用事があるんでっ! みんなでアイツの部屋まで行くとしますか~! 」。
「それじゃあ、ケンキョウ殿の所へ行きましょか」。
チョンケイとマカオはそう話しながら歩き出した。
(やっと、もう一人のボスの場所へ行けるよ...。何か...ドッと疲れた...)。
ハリガネは疲れた表情を浮かべながらチョンケイ達の後を追った。