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ジン



「証拠、証拠は。あなたが悪魔だという証拠」


「それは、お前のお願いか?えーと、そうだ。まだ名前を聞いてなかったな」


「僕の名は、ジャック。これ、お願いになるんですか」


「そりゃあ、そうさ。わざわざ証拠を見せないといけないんだから。神や天使なら、お願いなんて聞き入れられないぞ。良いとされる行いを、どれだけしていたってね。彼等にとっては、それが当たり前だからだ。だから、少しでも悪い行いをすれば、罰が下る。どれだけ許しを乞うてもな。ひとつも悪い事をしないなんて出来るか?そんな人間居やしない。ところが、おれは悪魔だ。彼等と違って取引であれば、お前がどんなに良い奴でも悪い奴でも、対等に応じてやる」


「めちゃくちゃに嫌ってますね」


「そりゃあ、おれは悪魔だからな」


「それでも、魂はあげれません。何か他のものじゃダメですか?」


「よくある話だと、寿命とかだな」


「それも、嫌ですね」


「嫌だ嫌だばっかりだなジャック。そうだ、名はどうだ?ジャックという名をくれないか、おれには名というものが無くてね」


「名前の無い悪魔なんて居るんですか」


「名も無き悪魔に慈悲をくれよ。お前の名をくれるなら、力を見せてやる」


名前も無いだなんて。悪魔は悪魔でも、あんまり大した事ないのかな。名前くらいなら、あげていいか。別の名を名乗ればいいし。


「どうする、ジャック」


「わかりました。僕の名と、あなたが悪魔だという証拠を取り引きしましょう」



そして気がついた時には、薄暗い湖のほとりで倒れていた。酷く眠くて、記憶が曖昧だ。僕は、誰だったっけ。ここはどこなのだろう。とにかく向こうに見えている、煌々と明るい光の灯る屋敷を目指して歩いた。近くまで来ると、賑やかな笑い声が聞こえてくる。まだ、ハロウィンパーティーでもしているのかな。そして扉の前まで辿り着いたと思ったら、中から大きな黒い手が出てきて引きずり込まれてしまった。不思議と痛みは無かった。長い廊下には絵画や彫刻が置かれていた。どれもこれも薄気味悪い。そして真っ暗になったと思ったら、笑い声と煌びやかな光が暗闇を彩っていた。光に気を取られていると、それは明らかに間違いなく、悪魔だと分かる大きな者が目の前に現れた。



「お前、名は」


「名前、分からない。思い出せないんだ」


「どうやってここへ来た」


「それも、よく覚えていない」


「お前、悪魔と取引をしたのであろう。魂を、奪われたのじゃ」


「そんな。僕は嫌だと言ったのに」


「はて、それはおかしいの。何を差し出した」


「そうだ、名だ。僕の名前をあげた」


「名を取られたのか。お前さん、それは魂を取られるのと変わらぬ事じゃ。何故名など差し出した、よりにもよって悪魔に」


「名前が無いって言っていたから……」


「名のない悪魔なんぞ、悪魔では無い。まんまと騙されたのう」


「そんな。じゃあ僕は今、一体なんなんだ」


「何でもない、ただの抜け殻じゃ。そのままで居れば、ここに飛び交う光となって、いずれはわしのような悪魔に食われてしまうじゃろうて」


「どうすれば食われずに済む」


「悪魔になれ、それだけじゃ。そうすれば、運が良ければお前の魂を奪った悪魔に出会い、魂を取り返せる事もできるやも知れぬ」


「悪魔に。どうすれば」


「わしがお前に名を授ける、それだけじゃ」


「僕に名を、くれるのか」


「欲しいか。悪魔になるか」


「名を、くれ」


「良かろう、ジン。今からお前の名はジンだ。そして今から、お前は悪魔だ。さあ、このランタンを持って魂を探し、奪うのだ」


こうして、僕は悪魔になった。曖昧な記憶と、このランタンの光を頼りに、あの悪魔を探す為にね。それでは、次のハロウィンまで御機嫌よう。





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