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世界最強の大賢者♀は争い事に巻き込まれたくないので!英雄を無自覚に育てながらひっそりと暮らす  作者: 赤羽夕夜


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怒り

「おい!誰か!誰かいないのかッ!」

ハルトは必死で荒れ果てた皇城を走り回った。ミーユと離れ離れにならないように、しっかりと手を握られている。どこもかしこも部屋には鍵がかかっており、外へとつなぐ階段入口には、エミリアが解き放ったであろう魔獣や魔物が道を塞いでいた。


死肉を喰らうもの、生きた人間に威嚇する魔獣や魔物……見ているだけで恐ろしい光景だ。だが、彼らは道を塞ぐだけで、襲っては来ない。まるで、どこかに導いているようだった。


ハルトたちはわずかな手勢で、道しるべを頼りに目的の場所へ向かう。


――そこは、謁見の間だった。


高々とある皇帝の玉座には一人の女性――エミリアが余裕の表情を浮かべて足を組んで座っていた。さながら皇帝のようだった。


ハルトは目の前の絶望にどうすることもなく、らしくない表情を浮かべて懇願した。


「許してくれ……!皇帝の座が欲しいなら明け渡す!今までして来たことも謝罪する!だからッ……!」

「……あの日、あなたが襲って来なかったら、私はアールを連れて帰れた。死んですぐの状態であれば死者蘇生の術も掛けられたのに。それをあなたは台無しにした。ただ、私と関わった、それだけの理由で。あなたは私をおびき寄せるために、アールに有りもしない罪状で、あんな辱めを……謝罪だけで許せるなら、あなたは万々歳よね?」


嘲笑を浮かべてハルトを玉座から見下ろす。この位置から見下ろすのって、中々悪くないと思いつつ、ハルトの返答を待つ。しかし、出たのは許してくれの一点張りだった。


「……あなたが少しでも自己犠牲を見せてくれたらちょっとは考えて上げたんだけど。……さっきから自分のことばかりで、反省の色も見せてくれない。私じゃなくて、他に謝るべき人がいるでしょう」

「おまえ以外に誰に謝ればいいというのだ!」

「…………ふふ、ふふふふ、本当に。愚か。おまえも、私も」


ハルトは助かりたいと必死に泣き叫び、ミーユはイかれてしまったかつての世界の同胞にして、この国から追いやったライバルに色のない表情で見上げる。


この先自分がどうなるのか。あの強大な力を見せつけられて、恐怖するしか道は残されていなかった。


エミリアは立ち上がる。一声、「下がれ」と張り上げると、皇城中に蔓延る魔物や魔獣は去っていく気配を感じられる。この部屋に集められた生き残りたちは安堵の息を吐く――が。


「なにを安心しているの?私はおまえたちを生かす気は毛頭ない。地獄でアールを殺したことを後悔するといい。……一部関係のない人もいるけど。必要な犠牲だった、ということで」


エミリアは玉座からゆったりとバイオリンの音のように優雅に立ち上がる。両手を一度、パチン、っと叩くと近くから爆発音が聞こえる。


そうして、集められた人たちの足元から魔法陣が浮かび上がる。

「――ヒッ!な、なんだ!これはッ……」

「命を核にした核撃魔法。安心して、この魔法結界に包まれている城のみを吹き飛ばすものに留めているから」

「わ……私だけはッ!同じ世界のよしみとして、私だけは助けて!」


エミリアの左胸に刻まれた魔法陣が同時に起動する。おびただしいほどの魔力の奔流があふれ出し、それに引き寄せられた魔素が城を包む。


命を糧とした魔法に、ミーユを初めとして恐怖に慄く。そこまでして、彼女は皇国を滅ぼしたいと思っているのか。強大な魔法を用いて。


その狂気に抗えるわけでもなく、ただ、無様に命乞いをするしか彼らに道は残されていない。エミリアはその道さえも――。


ミーユの必死の命乞いに、エミリアは一笑した。

「悪いけど、諦めて。こんなことになって傍観したあなたも同罪だと思っているの」

「わ、私は必死に止めたわ!うかつに魔女に関わるものを手出しするなって――」

「……嘘ね。あなたも私と同じ、他人には一ミリも興味ないもの。自分の保身だけ気にする。タイプは違うけど、あなたは自分の利益にならないことに労力は割かない。じゃないと

、アールがあんな目に遭うはずない。じゃあ、お喋りは終り」


話を区切ると、エミリアはさらに魔素を取り込み魔力を膨らまし、魔法の発動準備に入る。風船のように膨らむ魔力量、自分たちの死が近いことに発狂する、残された人間たち。


「きゃああああああ」

「おい、どけ!早くこの扉を開けるんだ!窓でもいい!早くッ!」

「いや、死にたくない!」

「……核撃魔法、範囲縮小!」


扉は魔法で鍵をかけてある。窓も窓ガラスを割られないように強化をかけてあるので、割れない。逃げ道がない人間たち。魔法の発動を唱えるエミリア。余計に焦ることで、正常な判断ができなくなる。


ハルトは「待て、待ってくれ、エミリア」と問いかけるが、怒りに我を忘れたエミリアの耳には届かなかった。そして、唱えられる。


「――――」

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