置手紙
「ふぁ、ファフニール様ッ!大変です!ね、姉さんが部屋にいないんだ!」
「……寝ぼけているのか?確かに屋敷の中に気配はあるぞ」
ばたんッ!と扉を壁に打ち付ける激しい音が鳴る。ぼぅ、と窓辺から空を見上げていたファフニールは何事かと思って、入口で息を整えているカールを見た。
カールの報告通り、屋敷、森全体にエミリア全体の気配を辿るが、確かに、屋敷の中、エミリアの部屋に気配があるのは間違いない。
「見たらわかるから!とにかく来て下さいッ!」
カールはファフニールの腕を引っ張り、ファフニールは様子を見に行こうと立ち上がる。
エミリアの部屋にすぐにたどり着き、息をひとつ飲んでから部屋を開ける。――すると。
「なに……?」
たしかに、部屋の中にはエミリアの気配はあるのに、部屋の中はもぬけの殻だった。ベッドは綺麗に整えられていて、生活感がないような清潔さだった。たしかに、昨日の夜まではこのベッドで横になっていたのに。
「……ちッ。あいつ、この僕に認識阻害魔法を使ったのか。僕を欺けるほどの魔法……いや、もっと僕があいつの行動に注意すべきだった」
部屋を見回して、念のためクローゼットやタンスの中も開けてみるがいない。エミリアの魔獣たちに声をかけるが、魔獣たちもエミリアが屋敷にいないことに驚きを隠せなかった。
「……手紙?」
ふと、カールはエミリアの机の引き出しの中にあった複数枚の封筒を取り出す。それは、ここで暮らした子供たちに宛てられたもの。そして、ファフニール宛にも。
ファフニールはその字を見ると、カールからひったくり、封筒の中身を開けた。
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ファフくんへ
突然いなくなってごめんなさい。
私はとある事情の為に、この森を出ていきます。
私の事情のために、この森を、ファフくんを危険に巻き込むことはできません。
どうか、この手紙を見た後は決して私の後を追わないで。
それと、カールのことですが、元はと言えば私の責任ではあるものの、皇国から目をつけられてしまった彼には居場所がない。
一応王国にいるレオンには話をつけてあるので、済む場所がない場合はそちらを提案して上げてもらえると助かります。
それか、ファフくんがいいならそのまま森に住まわせてあげてください。その為の生活費は引き出しの奥の金庫の中にあります。よろしくお願いします。
いままでありがとう。
エミリア
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「……馬鹿者が。死なんくせに。これじゃあ、今生の別れみたいな手紙じゃないか」
ファフニールは表情に影を落とし、喉元をきゅうっと締める。くしゃり、と手紙の端をくしゃくしゃにする。……が、この手紙には続きがあったようで、2枚目の手紙を捲った。
「…………これ、は」
ファフニールの紫色が見開いた。2枚目の手紙は至極単純な魔法陣と簡易的な説明だけだった。しかし、それは人類史に影響を及ぼすような――。
「…………カール」
「はい」
ファフニールは2枚目の手紙だけをポケットに入れて、1枚目の手紙は自分の炎で燃やした。カールは何が書いてあったのかは気になるが、手紙を見て暗い影を落としたり、表情の忙しいファフニールを心配し、返事を返す。
「おまえには選択肢をやろう。このまま兄の暮らす王国に行くか?それか人の世を捨てるか?」
「……その手紙になんて書いてあるのか、大体は想像はつきます。それを知った上で俺は……」
カールはファフニールにすぐに返事を返した。ファフニールは淡々と「おまえの願いを叶えよう」と頷くと、エミリアの部屋から消えていった。
…………。




