昔ばなし①
皇国には二人の聖女がいた。一人はもう一人の聖女より少し前に召喚された聖女。もう一人はつい最近召喚された聖女だった。
先に召喚された聖女は老婆のような白髪に、爛々と青の瞳を輝かせた異様な出で立ちだった。元々は黒髪だったっぽいが、皇国に召喚された際の代償なのか。
髪色が抜けるくらいの負担が彼女にかかったことを示唆された。
少女は最初は驚きはしたし、元の世界に帰りたいと嘆いたが、帰れないと知ると、嘆いても仕方がないと。自分の役目を全うすることにした。
ただ、それだけだった。
……。
「聖女様……もし良ければ休憩がてらお茶を飲みませんか?」
召喚されて少し経ってからの昼下がり。皇国皇位継承権第一位、ハルトは鮮やかな赤毛の短髪を靡かせて、王城にあてがわれたエミリアの執務室に訪れた。
有事の際に行動できるように、日中はエミリアには王城の一室を与えられていた。彼女の部屋には豪奢な天蓋付きベッドと重々しい執務机が常備されている。そして壁際にはびっしりと魔法などに関しての文献が並べられている。
エミリアはその本棚にあった魔法構築についての文献に目を通していた。
ゆっくりと顔を上げた。声には抑揚が感じられない。集中していただからだろうか。それとも……
「ああ……、ハルト様。いらしていたんですね。...…ごめんなさい、今、本を読んでいるので」
絵美こと、エミリアはこの世界に来て知識は浅い。魔法に興味を持ち、この世界を知るという上で知識を貯めることは最重要事項だった。
それを除いても、興味深いので、もっと魔法について知りたくて、人間関係を構築する時間すら惜しいと思う。
……それに。召喚されたことに対しては仕方ないと思っているが、自分たちの都合で召喚した都合のいい彼らをどうしても好きになれなかった。
必要ない。円滑に役目さえ全うできれば。というか、そもそも、喋ることなんてないし、と口には出さないが、エミリアは心の中で呟く。
ハルトは、エミリアの態度のムッとなり、文献を取り上げてエミリアが座っていたソファの横に座る。
エミリアは取り上げられた文献をじっと見つめ、そのままハルトに視線を移す。
「なにをなさるのでしょうか?」
「こんなもの後で読めるだろう!俺は今お前と話がしたいのだ」
「……はぁ、わかりました。お相手しますので、返して頂けますか?」
エミリアは諦めないと話は進まないと思い、彼に本を返すように手を差し出した。
ハルトは頷くと、文献を返し、メイドにお茶を持ってこさす。
話すことと言えば、異世界のこと、どういう人生を送ってきたのか……ありきたりなことばかり。エミリアは話が長くならない程度にかいつまんで話す。
この話は何度目だろう。早く、文献の続きを……なんて思いながら。その態度が出ていたのだろうか。ハルトは徐々に不機嫌な色へと変わっていく。
「俺との話はそんなにつまらないか」
「俺との話というよりは、私が喋っているだけではありませんか」
「では、俺になにか聞きたいことはないのか?何でも答えてやる」
それには少し興味ある。この国の魔法や理論、常識について聞きたいことがあったのだと、つい明るい表情を見せる。ハルトは自分のことを知りたいような反応と感じたのか、内心可愛いやつだと暖かいまなざしを送った。
すぐに肩を落とす話の展開へとなるが。
時間のほとんどが互いの話ではなく、話したくもない魔法の話へとなった。エミリアは終始嬉しそうに、ハルトは気づかれした様子で、束の間のお茶会はお開きになった。
この調子が続くことで、ついにハルトはエミリアと距離をおくことに。エミリアはエミリアで余計に研究に没頭することになる。




