82. 異端の翼は立て直す
テルラをこのままにさせておく訳にはいかない。
「はやく離れた方がいい」
「ご主人さま!? まだ生きて――!」
勝手に殺さないで欲しい。
とはいえ今は冗談を言っている余裕もない。
「次の攻撃がいつ飛んでくるか分からない。だからすぐ逃げるんだ」
「で、ですが!」
気付くのに遅れてしまったほどの狙撃の腕だ。
狙いだって完璧だった。
ハッキリ言って、今すぐ追撃が来てもおかしくない。
だというのに彼女が離れてくれる気配はない。
「なら誰か先生を呼んできて欲しい。このままじゃどうしようもないだろう?」
「……分かり、ました」
するとテルラはすぐさま立ち上がり、どこかへ駆けて行った。
彼女には悪いが仕方ない。
「"アリシャ、ちょっと手を貸してほしい。少々やらかしてな"」
「"――レイシス様? この異様な人の流れと何か関係が?"」
「"まぁおそらく。出来れば急いでくれると助かる"」
「"どちらに向かえばよろしいですか?"」
「"場所はC-13。ちょうど校舎の裏手になるな"」
「"……分かりました。すぐに移動しますわ"」
「"あぁそれと、狙撃には警戒しておくんだ。どうも腕利きの奴がいるらしい"」
「"狙撃……?"」
「"おう"」
俺はそう伝えると《"魔導通信"》を切り、もう一度身体が動かせないか確かめてみる。
が、やっぱりダメらしい。
こうなるとアリシャに頼るしか手はない。
後で治療することも考えると、誰かに見つかる前に何とかしたいところだ。
どう見ても重症だろうし、傷跡すら残さず完治したら不審に思われる。
目立たないようにするためにも、ここはこっそり――。
「……ってアホか」
わずかに見える視界。
そこに映ったのはアリシャの姿だ。
もちろん俺の身体は仰向けのままである。
彼女の特技、飛行もどきの移動を使って来たのだろう。
そりゃもう目立ちまくりだ。
「レ、レイシス様!? これは一体!?」
「狙撃に気付くのが遅れてな。あ、まだ死んでないぞ」
駆け寄ってきた彼女が言葉を続けるよりも先に、そう釘を刺しておく。
また面倒なやり取りはしたくないからな。
「とりあえずブレスレットを外し――――アリシャ!」
俺が叫ぶよりも一歩早く、彼女は周囲に強風を生み出した。
同時に響いた破裂音。
彼女は魔法を維持したまま俺の右手に手を掛けると、急いでブレスレットを外してくれた。
「――《"フレア・ピラー"》!」
短縮詠唱ですぐさま烈火の書を使用。
全方位を取り囲むように炎の柱を連続生成し、あらゆる視界を遮る。
重ねて同じ手を4回。
けたたましい轟音を生み出し、次の詠唱が外に漏れないよう対策を施した。
「アリシャ、周囲に人間は?」
「少々お待ちを………………《"高次探知"》に反応なし、続けて《"魔導探知"》にも反応ありませんわ」
その場しのぎではあるが、なんとか条件を整えることができた。
食事療法も含め、魔力はだいぶ弱っているが使えない事はない。
「回帰の書、第二章、第五節より引用――《自己回帰》」
もはや原型を留めていなかった右目が瞬時に戻る。
続けて潺の書も使い、左目に入っていた血をまるごと洗い流す。
手足もちゃんと動く……か。
「……よし、問題ない。迷惑をかけたな」
狙撃手の位置、そして敵の人員が分からない以上、いまここで戦うのは得策じゃない。
「念のため『七天の悪魔』は待機状態に」
「了解しましたわ。このまま反撃いたしますか?」
「いや、場所が悪い。俺が魔法を解いたら疾風の書で離脱するぞ。3……2……1……」
――0。
視界が一気に晴れる。
続けて俺が《"フレア・ブレード"》を振るうと同時、敵の狙撃とぶつかり合い爆発が生じた。
「行くぞ!」
「はい!」
先に駆けだしたのはアリシャだった。
俺も《"タービュランス"》で加速しながら後に続く。
目標はもちろん校舎の方角。
予期せぬ狙撃を受けた場合、まずは屋内を目指すのが最適だ。
「――――!」
飛んできた極少の魔法を切り捨てる。
この速度にもしっかり狙いを合わせてきたか。
敵のレベルは相当に高い。
俺たちはその後も狙撃を捌きながら走り抜けると、窓ガラスを割って校舎内に転がり込んだ。
その際に一瞬だけ、遠くで走り回る騎士団と思わしき一団が見えた。
しばらくの間、アリシャと壁に隠れながら一息つく。
が、不意に彼女がこちらに視線を向けてきた。
「レイシス様はご覧になられましたか?」
「騎士団のことか? 結構な人数だったな」
「ええ。ですが大丈夫でしょうか……」
「まぁ心配ないだろう。今日はどうも大所帯らしいからな」
不幸中の幸いというやつだろうか。
――いや……。
「俺が確認しただけでも、あの団長と雷速のコンビが来ているみたいだ」
「それはまた、なんとも珍しいことで。ですが一体なぜ?」
「娘の活躍を見に来た……なんてことは無いだろうな」
あまりに豪華な顔ぶれだ。
今回の事件が無関係とは思えない。
「……てかなんで俺が狙われたんだ?」
「そんなもの決まっていますわ。レイシス様のとてつもない強さに、敵は恐れ戦いたのでしょう」
「まさか――」
ミーリヤたちとの試合のせい……。
「――なわけあるか」
完璧な位置取りと狙撃だ。
それに初弾から殺意マシマシだぞ。
元から俺がターゲットだったのは明らかだ。
「まぁ理由を考えても仕方ないな。とにかく今は現状を把握したい」
「ではもう一度《"高次探知"》を?」
「いや、それは辞めておこう」
さっきは周りに人が少ないことが分かっていた。
だがここは違う。
索敵範囲にどれだけ人間がいるか分からないし、場合によっては魔法が入り乱れている可能性もある。
つまり探知魔法を使うには、反応を返す対象が多すぎるのだ。
こんな事でアリシャに負担を掛けたくない。
「ひとまず目視に限定しよう。それで構わないか?」
「もちろんですわ」
やがて今後の動きを確認しあった俺たちは、次の行動に移るべく移動を開始した。




