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81. 問題児は仰向けになる

「それで、どうかしたのか?」


 テルラが直接呼び出してくるなんて珍しい。

 急ぎの用でもあるのだろうか。


「えっと、あの……」


 彼女は顔を伏せ、なぜか口ごもる。


 だがしばらく経つと意を決したように顔を上げた。


「……どこかに――」

「お! 剣舞のにーちゃんじゃねえか!」

「うん?」


 テルラの言葉を遮るように掛けられた声。

 あれはドワーフの大人……か?


「さっきの試合は凄かったな! 見ていた奴らはみんな、とんでもねえ学生が現れたって大騒ぎだ!」

「あー、どうも」


 ほんとやっちまったな……。

 面倒な噂が流れないといいんだが。


「明日の本戦も頑張れよ!」


 彼はそう言って俺の背を叩くと、楽しそうに笑いながら歩き去って行った。

 応援してくれるのは嬉しいが、こりゃ戦い方を見直したほうが良さそうだ。


「……っとそうだ。なにか言いかけてたよな?」


 俺はテルラに向き直ると先をうながす。

 すると彼女は小さな声で、先ほどの続きを始めてくれた。


「どこかに出かける予定はないのか、気になりまして」

「そんなことだったのか。終わったらこのまま帰る予定だが、なにかあるのか?」

「本日のお夕飯、どうしようかと思いまして」


 まさかその程度の理由で俺を探していたとは思わなかった。

 いや、重大と言えばそうなんだが。


「その、ご友人と外食されたりなんてどうでしょうか」

「……? まぁ、それも悪くないと思うが」

「では――!」


 俺が外でメシを食うのがそんなに嬉しいのだろうか?



 あー、なんか分かった気がするぞ。


「もしかして今日は休みたい、とかなのか?」

「決してそういうわけでは……ない、のですが……」


 やっぱり歯切れが悪い。

 別に怒ったりする気は微塵もないんだが。


 というか人間誰しも、サボりたくなる時なんていくらでもあるだろう。

 俺なんかほぼ毎日そんな気分だ。


「今日の夕飯は気にしなくていい。なんなら一緒に食べに行くか?」

「いえ、それでは意味がな――」


 するとハッとしたような顔になるテルラ。


「うん?」

「あ……う……」


 本当に大丈夫だろうか。

 熱でもあるんじゃないかと思うぐらい、今日の彼女はどうもおかしい。


 顔色だって悪いし、そういえば最近歩き方もちょっと変だったな。

 今日もなんかフラフラしているし。


「もし体調が悪いなら、帰って横になったほうが良いと思うぞ」

「で、でも……」

「でも?」

「…………やっぱり……そうさせて頂きます……」


 彼女はそう口にするとお辞儀をし、この場を後にしようと背を向ける。

 その時だった。


「――――っ!」


 反射的に身体を逸らし、右手首のブレスレットに手を掛ける。


 だが――。


「え?」


 徐々に遠ざかっていくテルラの声。


 気付けば俺は、その場で仰向あおむけに倒れていた。


「なんとか間に合ったな……」


 危なかった。


 視界はほとんど黒一色、距離感だってまったく掴めない。

 どうやら右目を持って行かれたらしい。


 とはいえまだ生きている。

 少しでも反応が遅れていたら脳をやられていた。


 欲を言えばブレスレットも外したかったが、致命傷を避けられただけ良しとしよう。




 やがて数秒ほどだろうか。

 突然周囲が静まり返ったかと思えば、今度は徐々に悲鳴が聞こえ始めてきた。


「うわああああ!?」

「ひ、人が――!」


 たくさんの人間が走る音。

 加えて人の気配からして、みんなここから逃げているのか。


「い、いや……! なんで……!」


 だが一人だけは違ったらしい。

 覗き込んで来たテルラは、今にも泣き出しそうな顔になっている。


「どう、して――!」


 彼女は俺をそっと抱きかかえる。

 その手はひどく震えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 右目やられて平然としてるのってある意味すげーなwまぁ身を置いてた環境が環境だから慣れてんのかね
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