77. 問題児が勝利した頃 1
レイシスが脅威の快進撃を見せつけ、学校中を湧かせていた頃。
地位の高い人間にのみ使用が許されている豪華な客室。
そこではちょっとした問題が起きていた。
「お話し中失礼します。『蒼炎』を名乗る方が通してほしい、との事なのですが……」
団員の一人は固い表情でそう報告する。
それもそのはず、相手は騎士団を統べる人間と、彼の右腕とも呼べる『雷速』だ。
一般の兵士では、緊張してしまうのも無理はない。
「このタイミングで彼女が……?」
「まあまあセルジ君、そう気を張る必要もなかろう」
「しかし時期が時期です。『パッケージ』の件が漏れた可能性も否定できません」
「その程度の事なら、あちらもとっくに掴んでいるだろう」
彼は笑いながら答えると、来客を招き入れるよう団員に伝えた。
やがて入って来た、赤い髪が特徴的なドワーフの女性。
「突然来て悪いな、アーベロン」
「随分久しいな。相変わらず元気そうで安心したぞ」
彼女は団長――アーベロンと軽く挨拶を交わすと、今度はセルジと目を合わせた。
「お前も腕を上げたそうじゃないか。時間さえあれば、また遊びたいところだが……」
「ここは我が国の将来を担う、魔術士の見習いたちが集う学び舎ですよ。冗談は止してください」
「相変わらず真面目なやつだな」
「ベレールが不真面目過ぎるんですよ……」
セルジは大きくため息をつくと、表情をあらため、鋭い目つきで顔を上げた。
「……それで本日はどのようなご用件で? ただ昔馴染みに会いに来た、ということでもないでしょう」
「ひどい言われようだが、否定できないのが悲しいところだな」
彼女はアーベロンに断りを入れると、ソファに腰をおろして口を開く。
「先に行っておくが、今から話すのは私個人の意見だ」
「ほう」
「聞いたぞアーベロン。騎士団にうちの生徒を勧誘したらしいな」
「たしかに勧誘したが、別に不自然でもないと思うが?」
彼の言う通り、在学中の年少者がスカウトされることは珍しい事でもない。
むしろ毎年開かれる文化祭の恒例行事、と言ってもいい程だった。
だが……。
「悪いことは言わない。レイシス・ロズウィリアは辞めておけ」
「それは近衛も彼に目を付けている、ということか?」
「さっきも前置きしたが、これは私個人の意見だ。今日こうして来たのは、あくまで友人としてに過ぎない」
ベレールは一呼吸置くと、考えるように顔を伏せる。
「アレはあまりに危険すぎる。上に報告するべきか悩んでしまうほどにな……」
「ちょっと待て」
これから始まる会話の内容を察してか、アーベロンは軽く目配せすると、『雷速』を除く他の団員が退室していった。
「これで構わないか?」
「すまない、手間を取らせた」
「気にするな。続きを聞こう」
この部屋に残ったのは三人。
ベレールはもう一度その事を確認すると、とうとう話を切り出した。
「今から十年ほど前になる。もちろん覚えているな?」
「当然だ。忘れる方が難しかろう」
うなづき合う二人とは対照的に、『雷速』は軽く首をかしげていた。
「そういえばセルジ君はまだ学生だったな。実は十年前、エーリュスフィア内の精鋭を集め、人族領の偵察に向かったことがあるのだよ」
「初耳です」
アーベロンに続き、ベレールも説明を付けくわえる。
「当時はだいぶピリピリしていたからな。国としても情報の管理に相当気を配っていたんだろう」
「なるほど、どうりで自分が知らないわけです。お二人の仲もその頃から?」
「いや、初めて会ったのはもっと前だな。まぁ話が長くなるし、暇なときにアーベロンから聞くといい」
簡単な説明を受けたセルジだったが、彼には一つ腑に落ちない点があった。
「しかし十年も前の話を何故? レイシスくんはまだ小さな子供では?」
「別にアイツを直接見たわけじゃない。ただ、な……」
ベレールは口を閉ざして天井を見上げる。
だがすぐに視線を戻すと、今度はアーベロンの目を真っすぐ見つめ、強く言い放った。
「結論から言おう。レイシス・ロズウィリアは『翼』の指導を受けていた可能性が高い」




