73. 問題児は一撃で決める
さて、今回のメインイベントの時間だ。
対抗戦の記念すべき初戦が、今まさに始まろうとしている――!
「……なんて感じだったら、やる気も出るんだがな」
「どうかしましたか?」
「いや、ひとり言だ。気にしないでくれ」
対カール・ビーテルロを想定したベレール発案の作戦。
はたして作戦と言うほどかはこの際置いといて。
題して「フレイヤに一撃で決着を付けさせる作戦」である。
たった一発の魔法で試合が終われば、カールの評判は確実に落ちる。
で、俺は何もすることなく勝ってしまうのだから、奴は確実にそこを突いて来るハズだ。
あとは適当に下手に出ておけば、俺に対する自尊心は取り戻せるだろう。
というのベレールの考えだ。
「そろそろ時間だな。フレイヤ、作戦通りに頼んだぞ」
「はい! 最初のけん制は任せてください!」
彼女には試合が始まった瞬間、無詠唱で魔法をばら撒いてほしいと伝えてある。
今回の作戦で課題となる部分は、「どうやってフレイヤに決着を付けさせるか?』だった。
そこで俺の出番というわけだ。
フレイヤがけん制を行うと同時、コッソリ同じ魔法を添える。
手元に浮かぶ魔法陣は隠しておけばいい。
ポケットに手を突っ込んでおけば、ほとんどの人間は俺が魔法を使ったことに気付かないはずだ。
「さて、初戦なんだし気合を入れて行くか!」
「はい! 頑張りましょう!」
なんともまあ、張り合いのない初戦だな。
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「とうとう始まりました! 文化祭のメインイベント、クラス対・抗・戦!」
校庭に響き渡るルカの実況。
「勝つ方法はいたって単純! 相手を行動不能にするか胸元のペンダントの破壊!」
その後も彼女は禁止事項などの説明をしていく。
よりにもよって、一番最初の予選は俺たちだったらしい。
まあ今回目立つのはフレイヤだ。そこまで気にすることもないだろう。
「しかもいきなり大注目の一戦です! 栄えあるビーテルロ家とタイダル家のペアを迎え撃つのは、あの問題児と優等生のデコボコペアだ!」
……彼女を止める人間、誰もいなかったんだろうか。
「ルカの奴、あとで覚えとけよ」
「あはは……」
まあこれから起こすことを考えれば、『大注目の一戦』になることは間違いない。
おそらく歴代の対抗戦も含め、最速記録を出せるんじゃないだろうか。
などと考えていると、向こう側にいるカールが睨んで来た。
「おい! レイシス・ロズウィリア!」
「おー元気そうだな」
「せいぜい恥をかかないよう努力するんだな!」
「そりゃ問題ない。なんせこっちには『フレイヤさん』がおられるからなー」
「テメェ……!」
学外からも注目されてるイベントとは言え、あそこまで熱くなれるのは尊敬するな。
「というわけでフレイヤ、さっさと終わらせてスムージーを飲みに行くぞ」
「ですね!」
やがて場の空気を察したのか、俺を除いた三人が構える。
対抗戦の始まりだ。
「ではでは始まります! 第一予選開始まで、3……2……1……」
使う魔法は《"天恵の石片"》。
放射状に散布して射出、生成数は80ぐらいでいいだろう。
「……0! 試合開始!」
つぎの瞬間、カールとフレイヤは一歩踏み出して右手を前に。
敵のもう一人は迂回するように走り出した。
もちろん俺はその場で待機だ。
「ロズウィリアああああ! 潺の書おおおお!」
いや、俺の名前を叫んでる暇があるならさっさと詠唱しろよ……。
「いきます――!」
フレイヤはすでに魔法を展開しており、もう発動寸前だ。
もしかして余計な事をしなくても、フレイヤ一人で勝てるんじゃないだろうか。
まあ作戦通りにやるつもりだが。
「カール! 避けて!」
仲間の方は無詠唱に気付いたらしい。
ケンカ騒ぎの一件といい、良いセンスを持ってるみたいだが……。
……もう手遅れだ。
そういえばスムージー、どれにしようか。
今日は甘いものをずっと食べてたし、酸味のある柑橘系がいいな。
「えいっ――! ――ってえええ!?」
フレイヤの可愛らしい悲鳴と共に生み出されたのは、総勢100を越える石片の嵐。
「第三しょ――――はぁ!?」
目を見開いているカールをよそに、石片たちは一斉に飛んで行った。
フィールド全体を覆うように、面で展開した石片の壁だ。
あらかじめ防御の姿勢を取っていれば別だが、もう避けることは出来ない。
「げふっ!」
「うぅ――!」
背を向ける暇も与えなかったおかげで、彼らのペンダントがほぼ同時に砕けた。
もちろん俺もフレイヤも、ちゃんと火力は落してある。
体の方には一切ダメージが入ってない。
しばらく経ち、土煙が晴れる。
向こう側は泥だらけになっていた。
「――はっ!? しょ、勝者はロズウィリアペア!」
「うおおおおお!」
ルカの勝者宣言を皮切りに校庭は歓声に包まれた。
予想通り、一瞬で決着がついたな。
「あのー……」
「やったなフレイヤ! やっぱりお前は凄い奴だ!」
「アレはわたしじゃなくて、レイシスさんの魔法ですよね……?」
「……さぁ?」
「いま間がありました。絶対そうです」
ふむ。
ここ最近、彼女に思考が読まれ始めてるな。
今後は気を付けよう。
そうやってフレイヤと話していると、泥まみれのカールが視線を向けて来た。
「ロズウィリア……。図に乗るなよ……」
「いやーフレイヤが強すぎてビビったわー」
「この腰巾着野郎が……!」
彼は好き放題捨て台詞を吐き、フラフラとこの場を離れて行く。
ベレールが言ってた通りになった。
なんだかんだ、生徒のことは見ていたんだな。
あれでも一応教師だったらしい。




