72. 問題児は話しかけられる
「久しぶりだね、レイシス君」
「お久しぶりです、閣下。まさかこのような場でお会いするとは……」
本当に予想外だ。
今日来ることはフレイヤから聞いていたが、人混みのど真ん中に来るとはな。
サラっと確認しただけだが、護衛らしき人間はかなりいる。
服装が私服なのはまだ分かるが、装備を携帯していないのが気になるな。
それに位置取りも妙だ。
まるで民間人のフリをしてるみたいだが、はたして。
俺の正体を知って捕らえに来た線も…………いや、無いな。
ここは人が多すぎる。
「本日はお二人だけですか? 未熟な身ではありますが、俺は少々危険だと思うんですが」
「たまには羽を伸ばしたいと思ってね。それに彼がいれば心配なかろう」
「過信は止して下さい。自分も少年と同じ考えですよ……」
そう言って目頭を抑える金髪の男。
一目見ただけで分かるほどの実力者だ。
いつでも腰の剣を抜けるようにしているのが分かる。
しかしあの剣、初めて見る形だな。
かなり細いが折れたりしないのだろうか。
「あの、失礼ですがそちらの方は?」
「申し遅れました。自分はエーリュスフィア騎士団所属、セルジ・ディンバス少尉です。君の話は団長からいつも聞かされていました」
そうか、彼があの『雷速』だったのか。
「話……ですか?」
「ええ。なんでも単独で誘拐犯を殲滅したとか」
フレイヤたちと出会った時のか。
まさか騎士団内に広まってる、なんてことはないだろうな……。
「たまたま運が良かったんです。敵は魔法があまり得意でなかったようですので」
「ははは、そう謙遜しなくともよい。非常時であったにも関わらず、その若さで冷静に対処したのだ。素晴らしい才能だと言えよう」
「身に余る光栄です」
すると彼らは顔を見合わせ、なにかを相談し始めた。
「……団長、彼にお話しても?」
「もちろん構わんよ。別に秘密ということでもないのだからね」
俺が首を傾げていると、セルジは視線を向けて来た。
「実は君の救出劇をみんなに話したところ、賞賛の嵐でね」
やっぱり広まっていたのか……。
「いま騎士団では『君を団員に』と推薦する声も少なくないんだ。もちろん君さえ良ければの話だけどね」
面倒ごとがまた増えな。
どうも俺が考えていたより、話が大きくなっているらしい。
「突然の事過ぎて、ちょっと理解が追いつきません……」
「あーいや、今すぐ回答を求めているわけじゃないんだ。それにまだ正式に決まったことじゃない。いきなり悪かったね」
やがて俺たちの間に沈黙が訪れる。
周りの目もあるし、なんというか気まずい。
さすがにこのまま、という訳にもいかないだろう。
「あの、本日のご用件は俺のスカウトだったんでしょうか?」
「――おっと、忘れる所だった。今日は娘たちの活躍を見に来たのだよ。こんな機会は滅多にないからね」
これだけの大人数を引き連れて、か。
しかも傍に置いているのはあの『雷速』だ。
なにか裏がありそうだな。
いくら彼が高官だからといって、護衛があまりに多すぎる。
「レイシス君はフレイヤとバディを組んでいるのだろう?」
「彼女はとても優秀ですから、力になれるか分かりませんが……」
「なに、君であれば活躍できるであろう。応援しているよ」
「有難うございます」
そうやって話していると、セルジが団長に耳打ちした。
「団長、そろそろお時間です」
「そうか。レイシス君、呼び止めてすまなかったね」
「いえ、閣下とお話出来て光栄でした」
俺は頭を下げる。
やがて周囲に騎士団の人間がいなくなったのを確認すると、《"魔導通信"》を呼び出そうとする。
が、不意に一つの考えが頭をよぎった。
今頃アリシャは文化祭を満喫しているはずだ。
彼女の邪魔はしたくない。
不安ではあるが、今回は騎士団に任せてしまってもいいかもしれない。
なんせあの顔ぶれだ。
俺の魔法さえ問題なければ、他にも手はあったんだがな……。




