65. 問題児は対戦相手を知る
文化祭のメインイベントとも言われるクラス対抗戦。
二人組のペア同士、トーナメント形式で魔術士としての戦闘力を競い合う。
安全上の問題で使える魔法に制限はあるが、唯一学外の人間が、将来有望な魔術士見習いを発掘できる場であると言えるだろう。
過去には対抗戦後、エーリュスフィア騎士団にスカウトされた生徒もいたそうだ。
ところでなぜ「クラス対抗戦」と呼ばれているのか。
ここでのクラスとはつまり、『学級』やら『組』のことを指しているわけだが、なんせトーナメント形式だ。
最後に残ったペアが優勝となるのだから、俺も理由を聞くまでは「クラス対抗戦」と言うにはやや不適切だと思っていた。
対抗戦はまず予選を行う事でクラス内のトップを決める。
次いで行われる本選ではそれぞれのトップ、つまり代表者同士が戦うことになるのだから、たしかに『クラス対抗戦』と言えなくもない。
そもそもこの呼び方は通称なようで、本名は別にあるらしい。
「えーっと、最初の相手は……」
暇つぶしがてら考え事をしていたころ。
フレイヤはつま先立ちで体を伸ばしながら、黒板に張り出された予選トーナメント表を見上げていた。
ちょっと危なっかしい気がしなくもない。
「そんな無理しなくても、俺が見れば良くないか?」
「どうせなら自分の目で見たいですから」
そういうものなのだろうか?
俺としては敵の情報さえ手に入れれば、それで十分だと思うんだが。
などと考えていると、後ろから誰かが歩いて来る気配がした。
数は二人、ということは向こうも張り紙を見に来たのだろうか。
「フレイヤさん!」
「ひゃあっ――!?」
突然大声で名前を呼ばれ驚いたのか、フレイヤは小さな悲鳴を上げる。
しかもその拍子にバランスを崩し、後ろに倒れる寸前だった。
俺は急いで腰に手を回し受け止める。
「ほら、言わんこっちゃない」
「すみません……」
念のためフレイヤが足を捻ったりしてないか確認していた時だ。
歩いて来た男女のうち、男の方が怒りを露にしながら俺に近づいてきた。
おそらく大声を出してきた奴だろう。
「おいお前」
「ん? なんか用か?」
一応返してはおくが、なぜ彼はあんなにもキレ気味なのだろうか。
「運良くフレイヤさんとペアを組めたからって、調子に乗るなよ」
「いきなり言われても意味がわからないが」
「ならはっきりと言おう。その手を離し、さっさと席を外せ」
この流れ、なんか前にもあった気がするな。
……あぁ、ライエンと初めて顔を合わせた時か。
「フレイヤさんと親しくなるために、どんな卑怯な手を使ったかは知らない。が、立場をわきまえた方が身のためだ」
「立場? 友人同士の立場にある相手がケガするのを、黙って眺めるのがお前の考えなのか?」
「見事に平民が考えそうな安い挑発だな。お前のような品の欠片も無い人間が、公爵家の令嬢と会話出来るだけでもありがたいと思え」
「待って下さい! レイシスさんはそんな人では――!」
俺は手を出して彼女を制止する。
トラブルに巻き込まれるのは一人で十分だ。
「で、お前はフレイヤの名前を呼んでいたわけだが、そんなに大層な人間なのか?」
「これだから田舎の出は困る。俺はビーテルロ伯爵家の長男だ。つまりお前が消えるのは当然の流れだと言える」
「そりゃ凄い、たしかにこの場は譲るべきだな。――てことで俺はメシでも食いに行くが、良かったらフレイヤもどうだ?」
「もちろん一緒に行きます」
俺たちはさっさと教室を後にしようと背を向ける。
だが彼らは目の前に回り込んで来ると、道を塞ぐように横に広がった。
「どうやら理解出来てないらしいな? 俺はフレイヤさんに話があるから、平民はさっさと失せろと言ったんだ」
「おいおい? たしか伯爵って公爵より下じゃなかったか? お前は目上の『令嬢様』の考えを蔑ろにするのか?」
「……常識を教えてやろう」
彼はそう口にすると、突然俺に殴りかかって来た。




