63. 問題児が寝ていた頃 1
エーリュスフィア王国、アイオライト領、シトリス。
古くから存在する町でありながら、治安が安定しているためスラム街もない。
加えてとても賑やかな町である。
だが商業区画では話が少し変わって来る。
そのうえ深夜ともなれば、住居が少ない事も相まって、人気がまったく無いのも仕方のない事だった。
「"――繰り返します。第三馬車より『パッケージ』が持ち出されました。付近の団員は至急回収にあたってください"」
数刻前から拡散され続けている《"魔導通信"》。
受け取っている者はひとりの例外もなく、静まり返った町を駆け回っていた。
が、とある二人組だけは、今まさに足を止めたところだった。
彼らの前に立っているのは一人のフード姿。
性別はおろか、種族すら窺い知れない。
「ふむ、やはりこのルートを使ったか」
「団長、まずは自分が」
そう宣言した金髪の男は、腰から剣を抜くと正面で構える。
この国では見かけない、細身で奇抜な見た目の武器だ。
「――《"ホーリー・エンハンス"》」
淡い光を帯び始める剣。
同時に驚くべき速さで踏み込み、敵との距離を一気に詰める。
身体能力の高い、猫耳族だからこそ成せる技だろう。
「――――!」
高速で振り抜かれた剣が当たる瞬間、敵は素早く取り出した短剣で受け止めた。
火花が散り、甲高い音が路地裏に響き渡る。
「まだだ!」
彼は叫びながらもう一度剣を振るう。
さらに左手から光の刃を生成し、両脇から一斉に攻撃を仕掛けた。
しかし最速の攻撃はまたも防がれる。
「なんだと!?」
驚くのも無理はない。
彼の魔法を絡めた剣術は自他ともに認める速さを誇り、エーリュスフィア騎士団の中でも追いつける者はごく一部しかいない。
そのごく一部とは例えばそう、つい先ほど団長と呼ばれたエルフの男だ。
彼はすでに敵の背後に回り込んでおり、魔法陣とともに右手を振りかぶっていた。
その手に添えられているのは新緑色のオーラ。
剣の形を模した魔力の塊である。
挟まれた上でこの速度。
今度こそ避けるのは不可能なことくらい、誰が見ても明白だった。
しかし――。
「ほう……」
エルフの男は感心したように唸る。
それは明らかに斬撃が当たっていたにもかかわらず、気付いた頃には敵がその場にいなかったからだ。
見る者によっては、まるで瞬間移動したように錯覚するだろう。
「団長、今のは一体?」
「体術ということはあるまい。おそらく確認されていない継承魔法の類、ではなかろうか」
「なるほど、厄介ですね……」
相手の魔法が分からない。
それは次の行動が読めないということであり、脅威足りえるには十分すぎる要素。
だが手がかりが無いわけでもない。
あれだけの移動手段を有しながら、敵は逃げることなく睨み合っている。
それは瞬間移動できる距離に制限があることの証明だった。
「とりあえず今は足止めに集中するとしよう。応援はもう呼んであるのだろう?」
「はい。接敵時に《"魔導通信"》にて招集は掛けてあります」
「流石、『雷速』と呼ばれるだけはあるな」
「こんな時に茶化すのは辞めてください……」
猫耳族の彼は、騎士団内で『雷速』の異名で呼ばれていた。
だがそれは剣術の速さに対し、与えられたものに過ぎない。
茶化された、そう取ってしまったのも無理はないだろう。
「他の団員が合流するまでしばらく掛かると思われますが、『精霊剣』は使用されますか?」
「いや、ここは市街地だ。あの魔法では被害を抑えるのは難しい」
「了解致しました」
その言葉を合図に二人は武器を構えなおすと、敵を視界の中心に捕らえた。




