62. 問題児は二つ目を教える
「よっと」
俺はフレイヤに見せるように簡単な氷塊を飛ばす。
もちろん的は壊れることなく、弾丸だけが粉々に砕け散った。
「え、どうやったんですか……? わたしの方が魔法が強い、なんてことはないハズですし……」
「いや、仮にも俺はBランクで、フレイヤはAランクなんだが」
「レイシスさんを見ていると、そういった評価って意味がなさそうに思えて来まして」
さらっと不良みたいなことを言い出したな。
まあ俺が魔導具で誤魔化しているのが悪いか。
「それで今のはどうやったんですか? 的を壊さないぐらい魔法を弱めちゃうと、そもそも発動してくれないと思うんです」
「その考え方自体が間違ってるんだ」
「えーっと……?」
「俺は『的を壊さないように』とは言ったが、『魔法を弱めろ』なんて言ってないぞ」
そう教えると、フレイヤはその場で固まった。
あの顔を見るに、今ごろ頭の中は「?」で埋め尽くされていそうだな。
「ちょっと待ってください。的を壊さないようにするためには、魔法の威力を下げないといけませんよね……?」
「まあそうなるな」
「なら使う魔力量を減らして、魔法を弱める必要があるんじゃないですか?」
「教科書通りに考えるならそれで間違っていない」
だからこそ、真面目な奴ほどハマってしまう。
常識として広まっている魔法の使い方だが、本音を言えばかなりデタラメだ。
魔法技術が進んでいるドラグシアは幾分かマシだが、それでも国中に浸透しているとは言い難い。
魔法書が生まれたことで、魔法は広く使われる技術となった。
『魔法書の写し、つまりスクロールさえ保有していれば、詠唱して魔力を流すだけで魔法が使える』
たしかに便利で簡単な方法だと思う。
でもそれがマズかった。
このせいで魔法が衰退したと言えなくもない。
体系化する上で必要な手段だったのは理解できるが……。
「フレイヤは無詠唱で魔法を使う時、どうやって発動しているんだ?」
俺は「簡単でいいから説明してみてくれ」と付け足し先をうながした。
「まず魔法陣を作って、そのあと魔力を流して――」
「はいストップ」
まさにここだ。
重要なのは魔力の流し方にある。
「たぶんフレイヤは一気に魔力を流してるだろ?」
「……? 昔からそのように教わって来ましたけど……」
詠唱するなら彼女のやり方で間違っていない。
が、今回はそうじゃない。
「今から俺が言う通りに無詠唱を使ってみてくれ。細かい説明をするより早い」
「分かりました。……お願いします」
言いながら右手を前に出すフレイヤ。
「まず魔法陣を描くんだ。魔法は《"天恵の石片"》で構わない」
「――出来ました」
彼女の手元に浮かんできた魔法陣はまだ光っていない。
ちゃんと魔力を流す直前で止めれている証拠だ。
「んで魔力を半分流す。量じゃなくて、魔法陣の方な」
「えぇ……?」
今までのキリっとした表情はなんだったのやら。
唸りながら口を尖らせているのが微笑ましい。
少しの間このまま眺めていたいところだが、フレイヤは真面目に頑張っているのだし辞めておこう。
「とりあえず弱めの魔力をゆっくり流してみてくれ。ダラダラ垂れ流す感じだな」
「こう、ですか……?」
すると徐々に輝き始める魔法陣。
なかなかに魔力の扱いが上手い。
「……よし、そこで一旦止めてくれ」
「これが半分なんですか?」
俺は首を縦に振る。
「ちょうど弾丸の固さなんかを指定するところだけ、魔力が流れている状態だ」
「えっと、どういうことですか?」
「《"天恵の石片"》は魔法陣の前半部分が弾丸部分の記述になってるんだ。まぁ今はそこまで気にしなくていい」
色々な魔法を無詠唱で使うなら別だが、今回はそういうわけでもない。
細かい仕組みはまた今度説明したほうがいいだろう。
「あとは簡単だ。今流してる魔力を維持しながら、残りの部分には強い魔力を流し込む。感覚的にはその魔法陣をふたつに分け、それぞれ魔力を流す感じ……で伝わりそうか?」
「ふたつに分けて…………んっ!」
瞬間、フレイヤの手元から《"天恵の石片"》が飛び出す。
やがて的に命中すると、ついさっき俺がやったように弾丸だけが崩れた。
「――できました!」
「おう、相変わらず飲み込みが早いな」
「でもこれ、なんの意味があったんでしょうか?」
そういえば説明し忘れていたな。
「今の方法を使えば、かなり広い幅で魔法を調整できるようになる。たとえば最低限の消費で連射したり、とかな」
「あ、ふたつ目の『やって欲しい事』がこれだったんですね!」
「そういうことだ」
この後もフレイヤは練習に励んでいた。
すぐにコツを掴んだのだろう。
どうやら予定より早く仕上がりそうだ。




