55. 問題児は孤独になる
頬杖をついて朝のホームルームを聞き流していた俺は耳を疑った。
「ということだ。補修を受けたくない奴は早めに練習しておけよー」
「おい、ちょっと待てや」
思わず雑に抗議してしまった。
瞬間、凄まじい殺気が俺を襲う。
「なんだ退学者、文句があるなら私に言っても無駄だぞ。すべて校長が決めたことだ」
「まだ退学してないわ!」
「お前のような雑魚が結果を残せるとも? なかなか面白い冗談だ」
そもそもなぜこんなことになったのか。
時間は少しさかのぼるが、ベレールが開口一番に言い出したことがすべての発端だ。
『ここ数か月の事件を鑑み、成績が芳しくない者には補修を与える』。
たしかに最近はなにかと事件が多い。
フレイヤが誘拐された事件や臨海学校での謎の体調不良騒ぎ。
責任問題に発展することも考えれば、学校としてはこれ以上被害を出したくないのだろう。
成績が低い者の能力を底上げすることで、ある程度は自衛できるようにさせたいといった狙いは理解できる。
できるのだが、俺だけはどうも少し違うようだった。
「まあいくら喚こうと決まったことは変わらん。お前はクラス対抗戦で『優勝』しない限り退学させられるということだ」
「さすがに横暴が過ぎるだろ……」
「対抗戦が始まる二週間までの間、せいぜい次の住居と仕事でも探しておくんだな」
だからまだ決まったわけじゃないだろうが。
「ロズウィリア以外の対象者に関しても、キチンと自主練に励むように。私からは以上だ」
今度こそ教室を出て行ったベレール。
――8、9、10。
よし、さすがにもう離れただろう。
「あのクソ教師、覚えてやがれよ」
「レイ、陰口はさすがにみっともないと思うわよ……」
「知らん」
こうなったらクラス対抗戦で優勝して、あのベレールに「ぎゃふん」と言わせてやるか。
どのみち退学を防ぐにはそれしか方法がない。
「よしアリシャ、俺と組むぞ」
『クラス対抗戦』とは言ったものの、実は自由参加型のイベントだ。
毎年腕に自信のある生徒がエントリーしては、文化祭の目玉として盛り上がるらしい。
で、肝心のエントリーに必要な条件はたったひとつ。
それは二人組でなければならない、という事だ
つまりアリシャと組めば余裕である。
優秀な魔術士を排出し続けているシトリス魔法学院といえど、相手はまだ『魔術士見習い』であることに変わりはない。
現役の魔術士である俺らが組めば優勝は確実だ。
他の生徒たちには悪いが、退学が掛かっているため手を抜く気はない。
「レイシス様、申し訳ありませんがそれは出来ません」
「なに?」
とうとう俺は見捨てられたのだろうか。
「ベレール先生の話を聞いてなかったの? ペアを組むには魔術士ランクの規定があるのよ」
「あー……」
そういえば言ってたな、そんなこと。
色々説明してた気がするが、とりあえずBランクである俺はAランク以上とじゃないと組めないんだったけか。
クラス対抗戦は学外からも観客が来るためか、ある程度の『見栄え』は確保しておきたいのだろう。
アリシャもBランクに調整して転入してきたとのことだし、たしかにエントリーは弾かれるな。
「そもそもレイは絶対優勝しなくちゃいけないのよ? アリシャさんでは、その……」
彼女は言いづらそうに言葉を濁す。
アリシャの魔術士ランクに言及しないあたり、人の良さが滲み出ていると言える。
「お気になさらず。わたくしはBランクなのですから、ミーリヤさんの考えはもっともですわ」
「……ありがとね、アリシャ」
もう呼び捨てされるような仲になったのか。
少し嬉しくなってくるな。
ちなみにこれは余談だが、『ブレスレット』を使っていない時のアリシャはSSランクである。
しかし困ったな……。
学内での俺は有名人だ。
わざと演じた結果、こんなことになるとは予想もしなかったな。
組んでくれそうな人間は知り合い以外にいないと断言できる。
となるとあとはミーリヤに頼るしかない。
そう結論を出し彼女と目を合わせる。
「言っておくけど無理よ。わたしはもうペアが決まっているから」
「意外だな。ちなみに相手は誰なんだ?」
「ライエン」
「ん?」
気のせいだろうか。
いま絶対出て来なさそうな名前が聞こえた気がするんだが。
「だからライエンよ。ライエン・フォン・アルベルト」
「マジで……?」
どうやら気のせいじゃなかったらしい。




