表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/176

42. 異端の翼のとある過去 4

 陛下から許可をいただき、ベイルに必要なものを頼んだ矢先。

 戻った俺はゼルドリアに声をかける。


「亡命の件、すべての用意が整いました」

「有難うございます」

「待ってください。わたくしは何度も――」


 アリシャが言い切る前に割り込む。


「実は呪いは治すことができるんです。加えてあちらでの衣食住、そして人権も保証する準備があります」

「……治せるわけがありません。現行の魔法では対処できないこと、さまざまな本を通して学んできました」

「ドラグシアはその限りではありません。ご存じのこととは思われますが、あの国は太古の遺跡がもたらした魔法学が山ほどあります」


 竜の国の地底書庫。

 人と魔族が争っていた時代に作られたとされる、知識の宝庫の存在はあまりに有名だ。


「仮に治せたとしても、なにも持たない部外者です。そのような好待遇、与えられるわけが……」


 俺は先ほど決まった内容を簡単に説明していく。

 もちろん陛下のことや、呪いの治し方についてはまだ伏せているが。


 最初は当然信じてもらえなかった。

 だが階級を明かし、見せられる範囲での軍用魔導具を見せることで、一応は納得してもらえた。


「ですが亡命に際して条件が二つ。まずゼルドリアさんは連れていけません」

「構いません。お嬢様を連れて行ってくださるだけでも有難い限りです」

「わたくしは……」


 アリシャは言葉を詰まらせる。


 今は亡き女王の近衛騎士だったゼルドリア。

 彼はいつもアリシャと行動をともにしていたそうだ。


 育ての親、といってもいいだろう。

 そんな相手と引き剥がされるのは嫌に決まっている。



 しかし時期が悪い。


 戦争を避けるため、ドラグシアが関わっている事は絶対に知られてはいけない。


 ガーリス公国を出し抜くためにも、ゼルドリアまで消えてしまえば不審がられる。

 これからやろうとしているのは、彼女の死の偽装なのだから。


「お嬢様、生きてさえいればまた会うことも叶います。どうか引き受けてはくださいませんか?」

「でも……」


 彼の言うことは正しい。

 だがアリシャの気持ちを考えれば、簡単には首を縦に振れないだろう。


 人は正しい事よりも、感情を優先してしまいがちだ。


「仮にも隣国なのですから、後生の別れということでもありません」


 いや、それは間違いだろう。

 もし戦争が起きれば、簡単に行き来することも難しくなる。


「ゼルドリアさん――」

「申しわけありません。今は私とお嬢様で決めさせてください」


 とても強い拒絶。

 あの目はおそらく、両国が緊迫した状況にあることを知っている。


 だから俺の言葉をさえぎったのだろう。

 仕方ない、ここは彼らに任せよう。


「死んでしまえば、こうして言葉を交わすこともできなくなります」


 アリシャは胸に手を当ててうつむく。


 たったの数十秒。

 彼女にとっては長い時間だったに違いない。


「また必ず会うと、そう約束してくださいますか……?」

「もちろんで御座います」


 彼女は俺の目を見る。

 どうやら答えは決まったらしい。


「レイシス様。亡命のお話、受けさせていただけないでしょうか?」

「承知いたしました」


 引き受けてくれて良かった。

 いくら俺が頑張っても、彼女にその意志がなければ意味がない。


「ところでもう一つの条件というのは……?」

「あぁ、その事ですか」


 さっきのと比べたらなんのことはない。

 とても簡単なものだ。


「今から使う魔法は見なかった事にしてください」

「……それだけ、ですか?」

「それだけです」


 ゼルドリアも見るが問題なさそうだ。


 俺はもう一度アリシャに視線を戻す。


「分かりました。今からお使いになる魔法は見なかった事にいたしますわ」

「ありがとうございます」


 二人の了承を得られたころ、ちょうどベイルの声が流れて来る。


 どうやら向こうの準備も終わったらしい。

 あいかわらず仕事が早くて助かるな。


「では呪いの治療に入りますね」

「お願いしますわ」


 俺は一言断り彼女に触れる。


「回帰の書――」


 今はただ、彼女の新しい人生が幸せなものであることを。

 それだけを願い、魔法を使おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ