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26. 問題児は目を合わせる

 弱者のあるべき姿とはなにか?


 それは従属である。

 強者に(ひざまず)き、頭を垂れ、従うことである。



 では強者とはなにか?


 それは金を持つ者である。

 悔しいが事実である。


「ちゃんと出席したんだから褒めてくれ」

「それが当然なんだけど?」


 言われた通りにしたというのに、ミーリヤは朝からずっとこの調子だ。

 なぜだか知らんがすこぶる機嫌が悪い。


「てか急にどうしたんだ? 今まで強制なんてしてこなかっただろ」

「単にレイシスさんの逃げ足が速かっただけだと思います……」


 そりゃミーリヤのやる気の問題だ。

 悪いのは俺じゃない。


 が、今日は違う。

 なんというか、今度の彼女は恐らく本気だ。


 心当たりがあるとすれば、この前あったフレイヤの一件だけだが……。


 いや待てよ?

 たしかあの時、ミーリヤは父親に呼び止められていたな。

 あの時に俺の事を話したのか?


 もしそうなら彼女は俺に警告を出している、ということになる。

 つまり学費援助停止の警告だ。


 よし、今日から出席数を増やしていこう。



 そんなこんなでミーリヤに睨まれ、フレイヤに苦笑いされていると唐突に声を掛けられる。


「おーライエンじゃーん。チーッス」

「なんだその下品な挨拶は……」


 彼は露骨に不機嫌そうな顔で俺のとなりに座る。

 そんなに嫌なら別の場所に行けばいいのに。


 別に席が決まってるわけじゃないのだし。

 ミーリヤなんか俺から離れたかったのか知らんが、今はフレイヤの隣にいるからな。



 ちなみに彼が同じ教室に来ている理由はすでに聞いている。

 というか今までのクラス自体が仮の物だったらしい。


 生徒の学力が判断できるまで、新入生はしばらくクラスが確定しない。

 おそらくクラスごとの能力を均一にしたいのだろう。


 で、その"判断"とやらが丁度この前終わったそうだ。

 テルラいわく、例年よりもかなり早いらしいが。


「にしても、五つもクラスがあって何でこうなるんだか……」


 フレイヤにミーリヤ、そしてライエンだ。

 数少ない知り合いがこうも固まるとは思わなかった。


「でもこれなら長い時間会えるのでいいと思います!」

「レイがちゃんと来ればの話だけどね?」


 彼女たちは嬉しそうに話し合っている。

 俺なんかが会話に加わるのはもったいないくらいだ。

 というかもう巻き込まないでくれ。



 そういえば、ふたりは他に友人がいるのだろうか?


 なにせ父親はあの騎士団長だ。

 付き合いはあったとしても友達がいない、なんてことも十分あり得る。

 あまり授業に出てないせいでよく分からないが……。


「そういやお前、体は大丈夫なのか?」


 俺は彼女たちから視線を外してライエンに話しかける。

 どうせ他人の交友関係だ。

 深く考えても答えは出ない。


「不思議なことに全く問題がないらしい。念のため、治療術士の方にも見てもらったのだが……」

「健康が一番だろ。大事なくて良かったな」

「あ、あぁ……」


 どうも腑に落ちないといった様子だ。


 まぁアレだけ重症を負っていればそうなるか。

 彼には『見つけた時は気絶してただけだった』などと言って通してはいるが。


 なにも全部戻す必要はなかったな。

 少しくらい傷を残しとくべきだったか。



 俺がロクでもない事を考えていると、騒がしかった教室が突然静かになる。


「よーし、ホームルームを始めるぞー」


 忌々しい赤髪の悪魔、ベレールの登場である。


 そしてこのタイミングで来たという事は、だ。


「今日からお前らと毎日顔を合わせることになった。まぁ仲良くして行こうじゃないか」

「馬鹿な……」


 横からライエンの悲痛な叫びが聞こえて来る。

 もちろん俺も同じ気分である。


「とにかく始めるぞ。今日は連絡事項が多いから時間が無いんだ」


 彼女は言いながら教卓に手をつく。


「すでに知っている奴も多いと思うが、まずは先日起きた誘拐の件からだ」


 教室中の視線がフレイヤに集まる。

 露骨に見ているわけではないが、それでも一目瞭然だ。


 あとはライエンを見てる奴もいるな。

 助けたのはコイツだって事、ちゃんと周知されてるみたいで安心した。


「ちなみに実行犯と見られていた外部講師のドラスだが、彼はここに来る前に亡くなっていたことがつい先日判明した」


 生徒たちはザワザワと騒ぎ始める。

 そりゃまぁ、じゃあ今まで見ていた『ドラス先生』は誰なんだってなるか。


 しかし気付くのが大分早いな。

 騎士団が回収した()()()()()を調べた結果だろうが、それにしたって中々に優秀だ。

 偽者の死体は俺が処理したのだし、擦り替わりの結論を出すまでもう少し掛かると思っていたんだが。


「また犯人は学園の外壁も破壊している。ここまで大胆な事をされたのは学園史上、恐らく初めての事だろう」


 ベレールは拳を握りしめながら低い声で話す。

 あれ絶対キレてるな。


 まぁキレているのは隣の奴も同じみたいだが。


「私がいない間にそのような事があったのか! おのれ犯人、絶対に許さんぞ……」

「いやマジでほんと許せねえよな!」

「うむ、珍しく意見が合ったな!」


 俺たちはお互い目を合わせ、力強く頷き合う。

 初めてライエンとの友情を感じた瞬間である。




 ……証拠は残してないはずだが、なんか心配になってきたな。


 一応またチェックしておくか。

 ルカにも念を押しておこう。


「なんかレイシスさんらしくないような……?」


 フレイヤの独り言は聞こえなかった事にしよう。


「今回の事件は騎士団が全力で捜査している。とはいえ安心できるかと言われれば正直微妙なところだ」


 しかし騎士団はどこまで掴んでいるのだろうか。

 亜人領に精通していないため分からないが、敵は大きな組織と見て間違いないはずだ。


 ドラスが使っていた魔法とエイドロスの術刻印……。

 あれだけの力、そう簡単には生み出せない。


「とまぁ、そんな訳だから急遽クラスが決まったという事だ」


 いやどういう『訳』だ。

 話がまったく繋がらないが?


「あーなるほどね……」

「いきなりだったのはそういう事だったんですね」


 ミーリヤとフレイヤは納得してるみたいだが意味不明である。

 仕方ない、ライエンに聞いてみるか。


「今の話からなんでクラスの話が出てくるんだ?」

「む? もしかして()()の事を知らないのか?」

「なんじゃそりゃ」


 俺は小声で先を説明するようお願いする。


 ベレールが次に始めた話は重要そうでもない。

 宿題がどうとかそんなところだし、適当に聞き流しとけばいいだろう。


 ライエンは律儀に聞いているようだが、それでも答えてくれるみたいだし問題はない。


「要するに王族で行われている、騎士制度と同じということだ。クラスが決まらなければ『ペア』も決められん」

「いやそれだけじゃ分かんねーよ」


 それだけだとエーリュスフィアの王族が関係している事くらいしか分からんだろ。

 まさか他国の話が出てくるハズはあるまい。


「貴様は本当に不勉強なのだな……」

「うるせえ、もっと分かりやすく説明してくれ」

「『王の騎士となった者は、何時いかなる時も主をお守りする』つまり常に共に行動する二人組を作る。それがペアと呼ばれているものだ」


 なんだそのクソ制度は。

 プライベートはどこ行った。


「で、もし二人組が男女だったらどうなるんだ? 常に一緒なんて不可能だろ」


 もしそんなことをすれば、わざわざ寮を分けている意味がなくなる。


 女子寮のセキュリティはヤバいって話だし、学校側が男女を切り離しておきたいのは見え見えだ。

 実際に見たわけじゃないからどれだけ『ヤバい』のかは知らんが。


「もちろんあくまで騎士制度をなぞっているだけだ。卒業までの間、高め合う仲を作るのが目的だとは聞いている」

「なんだそんなことか……」


 とはいえベレールは今回の事件を機にクラス決めを早めたと言っていた。

 ライバルを作らせる以外、防犯の意味合いもあるのだろう。


 あとはまぁ、連帯責任が科されるならサボりの監視もか。

 本当に面倒なクソ制度だな。




 ――ん? なんか視線を感じるな。


 まぁそんなことはどうでもいい。

 概要だけで詳しい事はなにも聞けてないからな。


「それでライエン、他にはないのか?」


 聞いてみるが返答はない。

 というかそもそもこちらに意識が向いていない。


「おい」


 それでも無視。

 気に障るようなことをした覚えはな……。


 いやあり過ぎて分からんな。

 だが今の今まで会話していたのにどういうことだ?


「よぉレイシス。珍しく顔を見たかと思えば、今日も楽しそうだなぁオイ?」


 そういえばベレールが話している途中だったな。

 ライエンめ、悪魔に気づかれる前に逃げやがったな。



 俺は苦笑いしながら頭を下げ、黙って彼女に向き直る。

 余計なことを口にすれば確実に廊下行きだ。


 それはそれで抜け出せるわけだが、廊下で立っているだけだと暇で仕方ないからな。

 だからと言ってそのまま帰るのは絶対にやってはならない。


 この前勝手に消えた奴がいたが、アイツ翌日死んだ目だったからな。

 あれにはなりたくない。


「てことで今日のホームルームはこんなところだ。お前ら今日も真面目に勉強するんだぞ。でないと私の査定に響くからな」


 到底教師とは思えない発言だが完全に同意である。

 金の代わりになる物は存在しないのだ。



 彼女ベレール怠そうに歩いていき教室の扉を開く。

 だが出ていく様子がない。


「っと、忘れていたな。今日は転入生がいるんだった。私はもう行くから適当に自己紹介でもしてくれ」


 誰かと話したらしい彼女が今度こそ教室を出ていく。

 これでやっと落ち着けるな。


「この時期に転入生って珍しいですね?」

「そうだな」


 俺は『ペア』などという面倒な制度を、どう潜り抜けるべきか考えながら適当に返す。

 こっちは悩みのせいで顔を伏せている始末だ。


 教室中が浮足立っているみたいだが今はそれどころじゃない。

 たしかに転入・転校といえば学校生活の一大イベントだろう。


 が、そんな事はどうでもいい。

 変な制度で俺の時間が削られることの方が大問題だ。


「あれ……? あの人、レイシスさんと同じブレスレットをしていませんか?」

「んなわけあるか」


 フレイヤが聞いてくるが確認するまでもない。


 なんせこれはノーラが作った特注品……というか試作品だ。

 街中で買えるような装飾品じゃない。


 まぁ見た目はただの銀の腕輪だ。

 彼女が見間違えたのも無理はないか。


「そんなことないです! ほら、見て下さいって!」

「はぁ、面倒くせえなぁ……」


 あまりにもしつこいので仕方なく伏せていた顔を上げていく。

 しかしペア制度、マジで面倒――。


 瞬間、息が止まる。


 転入生の右腕、そこに添えられたブレスレットが目に入った瞬間だ。

 アレは間違いなく俺の物と同じだ。


 見間違えるはずがない。

 あのブレスレットはノーラが作った試作機のひとつだ。


 俺は急いで顔を上げる。


「――っ!?」


 そんな事、あり得るのか……?


「レイシスさん?」


 なにも聞こえない。


 なにも理解ができない。


 耳に入ってくる音は心臓の鼓動だけだ。


 思考が追いついたのは青く、とても長い髪。

 そしてそこから上に伸びる猫耳族の象徴だけだ。


「初めまして、わたくしはアリシャ。アリシャ・ルーゲンビリアと申しますわ」


 転入生と目が合う。


 違う、アリシャと目が合う。

 彼女は俺と見つめ合ったまま口を開く。


「今日からよろしくお願いしますね?」


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